12月14日(水)に発売された『XD Magazine Vol.6』。特集テーマ「贈る」のもと、贈り物を介したコミュニケーション、贈答文化から読みとく精神性など、「贈る」という行為が持つ魅力や可能性を探っていく。巻頭インタビューには、のんさんが出演。本記事では、同誌収録のインタビューを2回に分けてお届けする。
後半では、のんさんが大事にしている「共感」というワードを軸に、他者に何かを贈り届けること、自分の想いと周りの視点を行き来することについて話が及んだ。
私は自分のことを発掘し続けたい
――どんな人でも、他者に何かを贈ったり届ける主体になるときには、そこに思いや人柄が滲むのではないかと思います。さきほど「自由」という言葉が出ましたが、のんさんが、相手に何かをよりよく届けられる自分でいるために、自分の状態を心地よく保つ方法などはありますか。
のん「なんだろう……あ、慣れないことですね! 表現することに慣れてしまうと流れ作業になってしまうので。すると探究心がなくなって、『違う役なのにあのときと同じ演技だ』とか『違うステージなのに全然一緒だね』というふうになってしまう。同じことを繰り返すことで、新鮮さがなくなって擦り切れていくことが一番嫌です。
でもたとえば、『寅さん』(『男はつらいよ』)の渥美清さんや『相棒』シリーズの水谷豊さんのように、同じ役を長年やっている役者さんもいらっしゃいますよね。そういった方々の仕事は、安心して同じ役を観られる嬉しさがあるんだけど、オリジナリティを感じられるし、全く同じことを繰り返していないというか……コピペしていないと感じるんです。その役ならではの癖やルールはもちろんあるのですが、観ていてすり減っていかないんです」
――演じている側としても、観ている側としても。
のん「演じている側だからより一層思うのかもしれないんですけど。観ている人に、『もう飽きちゃったのかな』とか『慣れちゃったんだな』ということが伝わると、役者としても、表現者としてもすごくつまらなくなってしまうと思います。だから自分がやっていることに慣れることで、自分への探究心がなくなることが一番よくないと思っています。『もっともっといいところがあるはずだ』とか、『新しい表現があるはずだ』とか、私は自分のことを発掘し続けたい。自分に慣れないし、満足しないから、好奇心が旺盛でいられるというか。それができるぐらいまで自分を好きでいることが大事かもしれません」
――「自分を好きでいる」というのは、自分を探究することでどんどん好きになっていくという感じですか?
のん「自分を好きな理由には根拠がないかもしれません。自分のことが好きだから自信が天井知らずで、尊敬する人とお仕事していても、自分もそのレベルまで行っているって勘違いしちゃうんです(笑)。現場では『こんなにいい表現できた!』と思うのですが、後から見返すと『えっ、こんな感じだったの?』ってがっかりしたり」
――後から観ると、また別の捉え方になるんですね。
のん「それがたとえ人から褒められたとしても、自分では『頭のなかではこんなもんじゃなかった!!』っていうくらい良いものを思い浮かべています。なので『もっとこうやったら良かったんじゃないか』『もっとできるはずだ』とか、『あと10年やってたら思うようにできてたはずだ』とか、大反省会がはじまります。そうすることでますます燃えていく……。だから本当に自信過剰というか、自意識過剰ですよね! もちろん自信満々で挑戦して失敗するのは嫌だし、怖い気持ちもあります。でもそれより、自分がそのときにやっている表現に集中する力の方が圧倒的に大きくて、没入しているんですよね」
誰かのなかにある想いと重ね合わせてもらえるような「NO」を言いたい
――つくるときも届けるときも、「できなかったからダメだ」じゃなくて、「じゃあどうすればもっとできるんだろう?」と探究するんですね。のんさんは、アーティストの古着をアップサイクルするブランド「oui ou」(ウィ・ユー)をはじめたり、社会が持続可能な方向へと向かっていくための活動にも取り組まれています。社会や未来に対して個人が接点をもつことも、今いる場所からできるひとつの「贈る」行為かもしれません。
のん「SDGs People(日本のSDGsアクションを推進する官民連携プロジェクト)の第一号に選んでいただいて。最初はもっとたくさんの人やお金を動かせるような力がないとできないことなんじゃないかと感じて、背負うのが不安でした。だけど私にお話がきたということは、誰しもが何かしらの実践ができるSDGsをやるというのがテーマなのかなと受け取ったので、生活に密着したものを届けたいなと思い、『oui ou』をはじめました。今日持ってきたカバンも、着なくなった服を昨日カバンにリメイクしたんですよ」
――布の組み合わせがかわいいですね。ブランド名の「oui ou」はフランス語の「oui ou non? (=yes or no?)」からきているそうですが、どうしてこのアップサイクルのアイデアに行き着いたのですか?
のん「自分たちが生きていく場所を整えていくという問題は本当に大事だから、関わっていきたくて。たとえば企業だと、SDGsがビジネスチャンスになるといった視点もあるかもしれませんが、SDGsそのものは前向きな意義をもつものだから、まずは気軽に捉えてみてほしい。だからこそ堅苦しく伝えるのではなく、一人ひとりが共感できる部分を見つけるきっかけを生み出せたらと思って。それで『ライフwith推し』というコンセプトで、アーティストの方の衣装をアップサイクルして、推しと一緒にいるような感覚を生み出すことで、『サステイナブル』と『推し』というみんなが幸せになる組み合わせを届けようと思いました」
――SDGsに楽しさや喜びの要素を見出すことで、共感のポイントをつくっているんですね。他方、SDGsが生まれた背景には、社会構造の問題や、誰かが困難を抱えた状態を放置したままだと地球が持続できないという危機感がありますよね。そこが、のんさんが大事にされている、負の側面も含めたあらゆる感情に向き合いながらつくり、届けていく姿勢にも重なる気がして。だから、のんさんが大事にしている「共感」には「YES=oui」と「NO=non」の両方が含まれているし、それらは常に表裏一体なのではないかなと思ったのですが、いかがでしょうか。
のん「私は自分のやりたいことや、『これがいい!』と思ったことをやりたくてしょうがないんです。その想いを大切にして活動したいと考えているのですが、同時に『何が求められているのかな?』とか、『どこを大事にしたらもっと届くんだろう?』ということも常に考えています。その一連の流れを含めた行動が、『YES』の部分になるのかなと思います。そして、求められていることのなかには、私に『NO』と言ってほしいのではないかと汲み取れる事柄もあって、それが自分の正直な想いや考えとリンクしていれば、『NO』と発信する」
――常に届ける人のことを考えながら。自分の想いと周りの視点の対岸を、そしてYESとNOの狭間を行き来しているのですね。
のん「そうですね。『NO』も誰かのなかにある想いと重ね合わせてもらえるように、明るいパワーで発信したいという気持ちがあります。なかには人にはない自分だけの『NO』もあるので、それはユーモアを添えて伝えたり。私は、自分がいいと思っていることを、そして私自身のことを、たくさんの人に反応してもらいたい。だから、どうしたら面白がってもらえるのか、楽しんでもらえるのか、興味をもってもらえるのか……といった思考を融合させながら、つくって、届けて……。うまくいくと『よし! このまま突っ走るぞ!』って。そんなときが、一番楽しいんです」
取材・文/野村由芽(me and you) 写真/上澤友香
――12月14日発売のXD MAGAZINE VOL.6 特集『贈る』では、のんのインタビュー全編を掲載しています。また、各パート扉には、のんさんのアートワークを再構成したオリジナルのグラフィックも作成。全国の取り扱い書店のほか、プレイドオンラインストア、Amazonなどで販売中です。