衣替えした衣服や時々しか使わない家電など、自宅の収納を圧迫している物に悩まされる経験は誰にでもあるのではないだろうか。そんな悩みを解決してくれるのが、株式会社サマリーが提供する収納サービス『サマリーポケット』。荷物の出し入れは配送を介して行い、さらに預けた荷物はPC・スマホ上で写真を一望することができる。荷物を預けるステップが容易で、かつ低価格でサービスも充実していることも相まって、利用数も10万人を突破し、そのユーザー満足度は91%にも上る。その背景には一体どのような模索があるのだろうか。今回は同社が提案する「所有」のあり方とサービスの実態に迫るため、CEOの山本憲資氏に話を伺った。
『サマリーポケット』が描く、これからの“所有”のあり方
サマリーが提供する『サマリーポケット』の大きな特徴はその手軽さにある。自宅のモノを預ける従来のトランクルームのようなサービスは、荷物の出し入れの際はもちろん、自ら足を運ぶ必要があった。しかし『サマリーポケット』で荷物を預ける場合は、指定のダンボールにモノを入れ、アプリで集荷手配をするのみ。さらに、ダンボールに詰めたモノが何か分からなくなってしまうということもない。預けた荷物が1点ずつ撮影されるプランがあり、いつでもPC・スマホから確認することができるという優れもの。
また、手頃な価格も特徴の一つ。エコノミープランであれば月額1箱275円から預けられ、必要な際は1,100円の手数料を支払えば取り出せる。荷物の多さを加味して住まいの広さを検討している方などからすれば、同サービスを利用する方が安価に済むこともあるだろう。
こうしたサービス提供の背景には、同社が以前から運営しているソーシャルメディア『Sumally』がある。欲しいアイテムと持っているアイテムをwant/haveのリアクションをすることで誰が何を持っていて、何を欲しがっているかというコミュニケーションが取れるSNSだ。しかしなぜ、SNSを運営している企業が『サマリーポケット』のようなサービスを始めたのだろうか。まずは山本氏にその背景から尋ねた。
山本氏「サマリーを立ち上げる以前から、私はとにかく大の“モノ”好きで色々な商品を見漁ることも多かったのですが、この世には『自分が好きなはずなのにまだ知らないもの』がたくさんあることに歯がゆさを覚えていました。その思いから生まれたのが、 “モノの百科事典”をコンセプトのひとつとして立ち上げた『Sumally』です。ターゲットも自分自身に近く、同じ思いを抱えているような方に向けて作っていました。
ただ、マーケットプレイス機能が思ったように立ち上がらず、次の一手を考えているタイミングで寺田倉庫さんとざっくばらんなお話をさせていただく機会がありました。その際に、Want/Haveだけではなく、お客さまの荷物を実際にお預かりし、スマホアプリで管理まで完結できるようにすることでもっと可能性が生まれるのではないかと思ったんです。その後、翌年の2015年には『サマリーポケット』をローンチ。この背景には『リアルに持っているアイテムをデジタル上で管理できれば、“四次元ポケット”のようなサービスができるのでは』という思いがありました」
自分や友人が持っているアイテム、欲しいアイテムを共有できるSNSと、手元で持っているものをいつでもどこでも呼び出せるような管理サービス。物を中心にしたサービスであることは通底しているものの、未だ距離を感じる。いかにそのサービスは進化したものなのだろうか。
山本氏「二つのサービスに通底するコンセプトは『“所有”を進化させる』というものでした。
その興味への原体験は、私が中学生の頃までさかのぼります。当時はまだCDやMDの全盛期。CD1枚買うにしてもレコードショップへ足を運んで何度も試聴して買ったり、CDのジャケットをコピーしてMDに貼ったりして楽しんでいて、今とは音楽を聴くプロセスが大きく違いました。その後、大学生になるとインターネット上で音楽が聴けるサービスも徐々に増えていきましたが、なかでもiTunesの『カバーフロー』の体験は忘れられません。そこにあるのはデジタルデータなのに、まるで中学生の頃に手元で選んでいたような感覚でCDを選べる。この“持っている”感覚をデジタルで実現することに感動しましたし、デジタル上でモノを所有する体験が音楽以外にも出来るようになると世の中がもっと面白くなると想像していました。
さらに、今でこそもう当然のように利用していますが、Amazonのマーケットプレイスはとても画期的なものですよね。同サービスが普及する以前、絶版した本を見つけるのは至難の業でしたが、今ならクリックひとつで手元に届く。Amazonのページ上に在庫さえあれば、まるで半分所有しているような感覚というか。マーケットプレイスの登場によって絶版した本はすごく流通しやすくなった。所有にまつわるサービスが世の中に貢献している光景を目の当たりにしました。
そうしたデジタル上にリストさえあればいつでも手元に呼び出せるような体験はすごくワクワクしますよね。『サマリーポケット』でも同じように自宅のモノを自由にデジタル上でやりとりできる所有のかたちを目指しています」
2015年のローンチから右肩上がりで利用ユーザーを増やしていく『サマリーポケット』。「ミニマリスト」といった、なるべく所有しない暮らしを推奨するような一部の世相もあったが、サービスの伸長に影響はなかったのだろうか。
山本氏「近年は世の中がリモートワークの導入へと一気に舵を切ったことで、ライフスタイルも変わりつつありますよね。ユーザーのなかには、特定の住居を持たず、『サマリーポケット』で荷物を出し入れしながらさまざまな場所で暮らしている人もいます。Amazonマーケットプレイスや音楽のストリーミングサービスの普及などによって所有の感覚が変わったことに加え、リモートワークといった移動の自由がもたらしたライフスタイルなのかなとも思いますね。
英語、ダイエット、そして収納の3つのテーマって永遠のベストセラーのカテゴリなんですよね。なぜなら皆、ずっと解決しきれないから、です。英語は話せるようにならないし、痩せないし、片付かない。ゴールしないから売れ続けている。これらはライフスタイルにおける永遠の課題だとも言え、そういう部分にうまくフィットしてユーザーの方々に重宝してもらえているのかもしれません」
“モノを持つ”ことの満足感を高めるサービス構築
所有の概念を進化させることまでを見据えて提供されている『サマリーポケット』だが、その利便性は想像を超える。配達サービスとの提携により、東京・千葉・神奈川では深夜0時まで・早朝は6時からの集荷が可能でライフスタイルにも合わせやすく、さらに預けた荷物が必要な際も最短翌日で手元に届く。
こうした基本サービスに加え、充実したオプションサービスにも注目したい。
預けた衣類をハンガーラックで保管してくれる「おしゃれ着保管」や、布団・ラグ・衣類・靴のクリーニングサービス、シューズを修理してくれる「シューズリペア」といったラインナップ。さらに預けた荷物に補償をつけ、電話窓口を用意して手厚くサポートする「あんしんサポート」など、ユーザーに寄り添ったオプションが並ぶ。
ユーザー目線でのサービス拡充のために、どのような運営が行われているのだろうか。
山本氏「まず当社が、チームの検証結果に重きを置いて判断するカルチャーがあります。だからこそ、一次情報であるユーザーの声を頼りに施策を検証できているのかなと。
施策を決める実際の流れとしては、一人あたり1〜2時間のユーザーインタビューを行い、忌憚なく意見していただいた上で、緻密にニーズをヒアリングし、まずは列挙してチームで議論します。その後、ニーズに優先順位をつけた上で導入にかかるリソースを精査し、実際の導入を決定するなど、もちろん時間も労力も要しますが、この方法が最もユーザーのニーズを反映できる方法なのではないかと感じています」
ユーザーのニーズを反映できる背景には、チームへの信頼と実際のニーズへの傾聴が大きいと語る山本氏。
このような環境のなかで、昨年11月に登場した新たなサービスが「無酸素保管」オプションだ。荷物を無酸素状態で保管することでカビや虫食い、変退色などのトラブルが起きる要因を遠ざけ、よりコンディションを保ったまま安心して保管できる。
山本氏「この品質で個人向けに提供されていることはあまりないですし、私自身もこれには感動しているんです! お預かりする荷物は当初から厳重に徹底した空調管理のなか、カビが生えないように常時湿度65%以下をキープして保管していましたが、それでも酸化が原因によって起こる変色や変化には対応できていませんでした。お預かりする商品のなかにはとっておきの衣服に加え、フィルムや写真などコンディションが変わりやすいものもあり、当社としてクオリティの高い保管を提案できないか、と検証を進めて生まれたものです。
このオプションを検討し始めた当初、管理する空間全体を無酸素にするような案もありましたが、それではここまでクオリティが出せなかったため、お預かりした商品を特殊な袋に入れ、専用機械で酸素濃度を0.1%以下の無酸素状態をつくることを実現しています。現在はニーズの多いスニーカーの加水分解対策が出来ないかと検証を進めていています。これに限らず、大事なモノをお預かりするサービスとして、よりハイクオリティな保管環境を実現するオプションも随時検討しています」
ユーザーからの声だけに留まらず、保管サービスとしてユーザーの期待を上回るクオリティにしていきたいと語る山本氏は、より遠くを見据えているように見える。最後に、『Sumally』『サマリーポケット』と続けてきたサービスの今後を聞いた。
山本氏「実際に所有しているものをデジタル上で管理する、所有のあり方の変化への興味はつきません。現在はモノを所有したら販売する流れが当然のようにありますよね。人によっては、購入の前から再販売することを念頭において選ぶ人もいる。なので、満足度を向上させるヒントはそこにあるのではと感じています。お預かりしたモノを、コンディションの落ちない状態で保管し、より適正な価格で販売し、販売を担う企業としてのクオリティも上げていく。そうすることで、よりお客様にとって荷物を預けやすく、かつ手放す際も気持ちよく手放せるようになるのかなと。
また、モノの保管場所に困っているのは一般ユーザーの方々だけではありません。コロナ禍によってリモートワークを導入し、オフィスを一部減らしたけどモノはあふれている……といった企業の声もよく耳にするので、toBでのサービスも拡充していけたらと考えています。
これはあくまでも理想ですが、不動産と提携して収納のない物件に付帯サービスとして『サマリーポケット』を提供することでより住まいを快適に使ってもらうなど、ユーザーの方々がもっと利用しやすくなるようなアイデアを模索していきたいです」
執筆/梶谷勇介 撮影/タケシタトモヒロ 編集/浅利ムーラン、鶴本浩平(BAKERU)