2018年9月4日、虎ノ門ヒルズにてCX(顧客体験)について真剣に向き合い、考えるイベント「CX DIVE 2018」が開催される。今回のイベントでは、各分野におけるCXの新しい取り組みをしている「企業、ブランド、人」にフォーカスをあて、第一線でCXトランスフォーメーションをリードするゲストたちとともに、CXは今どうなっているのか、これからどうなっていくかを考える機会を創出する。
「XD」では、イベントに先駆けて登壇ゲストのストーリーを紹介していく。今回紹介するのは、「Commerce × CX」セッションに登壇する株式会社ウツワ代表取締役のハヤカワ 五味氏だ。
1995生まれの23歳。東京出身、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。課題解決型アパレルブランドを運営する株式会社ウツワ代表取締役社長。 高校1年生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン、販売を受験の傍ら行う。大学入学直後にワンピース等の《GOMI HAYAKAWA》、2014年8月には妹ブランドにあたるランジェリーブランド《feast》2017年10月にはワンピースブランド《ダブルチャカ》を立ち上げ、Eコマースを主として販売を続ける。複数回に渡るポップアップショップの後、2018年にはラフォーレ原宿に常設直営店舗《LAVISHOP》を出店。
業界課題の解決を目指して生まれたアパレルブランド
マジョリティから零れ落ちてしまった悩みの数々を熱量に、デザインによって表面的解決、根本的解決の2つのアプローチで解決を目指せるブランドを作り出しています。
ハヤカワ氏が代表を務める、株式会社ウツワのコーポレートサイトにある言葉だ。彼女がいまアパレルブランドを通して実現しようとするのは、業界構造に起因する課題の解決だという。
アパレル業界は、在庫リスクを減らす流れが近年強まっている。フリーサイズを中心にしてサイズ展開数を減らすか、商品数を絞ってサイズを細分化する2極化が進んでいる。標準的なサイズ以外の人に対する選択肢が減少する傾向が強い。ハヤカワ氏は、そこに課題を感じた。
ハヤカワ「たとえば背の小さい人や大きい人など、サイズのラインナップ上で平均値から遠い人ほど、どんどんおざなりにされてきていると感じたんです」
そう気づいたハヤカワ氏は、自身のブランドを通しその課題を解決しようと事業を立ち上げようと決意する。
自身の原体験をブランドへ接続させる
課題を感じていたのは、業界の構造に対してだけではなかった。彼女自身、細身だったために合うサイズの服がないという問題に悩まされてきた。
業界の構造と、彼女の原体験。2つの要因がハイブリッドされて生まれた、胸が小さい人向けのランジェリーブランド『feast』は大きな反響を得た。当初はECのみでの販売だったが、反響も良く各地でポップアップストアも展開した。
その後、細身ワンピースブランド『ダブルチャカ』も立ち上げ、こちらも好評を博す。そして、2018年にはラフォーレ原宿にウツワとしての直営店『LAVISHOP』を出店することとなった。
ハヤカワ「feastをスタートした当初、用意した500セットがわずか1日で売れました。このブランドは求められている、そう実感を持てたんです。そこからは、同じ課題を抱えるひとに、ひとりでも多く届けたい、やるしかない。そう自分に言い聞かせ、商品点数もブランドもチャネルも増やし続けてきました」
同社が展開するブランドは、ハヤカワ氏と同様サイズに悩みを抱える人から強い支持を得た。これまでおざなりにされがちだった部分だからこそ、そこへアプローチしてくれるブランドへの期待は高かった。
現在、ハヤカワ氏は同社のブランドを統括し、商品からブランド体験まで幅広く見据えている。ECと実店舗というチャネル、『feast』と『ダブルチャカ』というブランドを横断して商品を展開する、彼女はどのように顧客体験を捉えているのだろうか。
哲学が統一されたブランド体験を作る
若者を中心に支持を得るブランドを展開するハヤカワ氏は、ブランドをデザインする上で大切なのは「哲学」だと考える。
ハヤカワ「私たちのブランドでは、“女性が自信を持って生活できる”ことを大切にしています。逆に言えば、女性の可能性を狭めたり、役割の固定化に寄与することはやらない。“やらないことを定める”ことが、ブランドの統一感にもつながっています」
女性が自信を持って生活できるようになるためのブランドをつくる。その哲学を元に、ブランド・顧客体験を構築していくうえで、ハヤカワ氏はどのように顧客からの支持を得てきたのか。彼女はその秘訣を「自分の意見を顧客の意見だと思わないこと」だと考える。つまり顧客の声を聞き、その中からヒントを探ることを重視しているのだ。
ハヤカワ「作る側と、使う側にはどうしても乖離が生まれてしまいます。作り手の側に寄り過ぎないように、リサーチやヒアリングを行い、顧客の求める微妙なニュアンスやインサイトを拾い上げるよう意識しています」
原体験をもってブランドを立ち上げながら、自分の意見を全体のものとしないように、顧客の意見にも耳を傾ける。双方のバランスをとっていることが、ハヤカワ氏が生み出すブランドの人気につながっているのだろう。
「CX DIVE 2018」でインサイトの見つけ方を探る
とはいえ、ハヤカワ氏が狙う領域はいわゆる「ニッチ」な市場だ。ニッチとなると、その市場規模はそこまで大きくならないようにも思える。
ハヤカワ氏は、そんな懸念などもちろん承知した上で、遠い先を見据えて、次のアクションをはじめている。
ハヤカワ「既存のラインナップでカバーできていない人というとニッチな市場に見えますが、私たちが規定しているのは、あくまで『サイジング』という枠組みだけです。同じ課題を抱えている人は日本だけにとどまりません。ターゲットは絞られますが、パイ自体は大きい。現在、中国やアジアを視野に入れ、海外展開の準備を進めています」
海外展開で重要となるのは、文化など異なる前提条件をどう捉えるかだ。彼女は前提は異なるが、本質は同じだと捉えている。いかに、顧客の声に耳を傾けるかが、海外展開の成否を左右する。
国境を越えたブランド展開を目指すハヤカワ氏は、どのように多様な顧客のインサイトを捉えようとしているのか。「CX DIVE 2018」の「Commerce × CX」セッションでは、多様な接点での顧客体験の描き方から、インサイトの見つけ方を伺う。
多様化する顧客と接点。それぞれをどのように体験へ落とし込むのか。気になる人は、ぜひ「CX DIVE 2018」に足を運んでほしい。
CX DIVE 2018
https://cxdive.com/
撮影/加藤甫