カスタマーにとって、ピックアップ機能の普及は時間節約につながるため非常にうれしいトレンドだ。企業側にとっては、顧客回転数の向上やコスト削減、パーソナライズ体験の提供が期待できる。
前回は、いち早くピックアップ機能を実装したThe MeltとStarbucksの事例を紹介した。しかし、ピックアップ機能の開発は海外を中心に「当たり前」なものとなってきており、 単にピックアップ機能を実装するだけでは、市場を生き残ることが困難になるだろう。
そこで、紹介したいのが無人サラダバーレストランの「Eatsa(イーツァ)」だ。同社はピックアップ機能を活用しているだけでなく、店舗に直接来て注文するお客にも新しい購入体験を提供している。機能だけではない、CXに重きを置いた小売スタートアップである。
後発で登場した「Eatsa」の強みとは?
Eatsaでは、店内注文をタブレット端末、商品受け取りを自動開閉ボックスを通じておこなう(詳細イメージは『BusinessInsider』の動画より)。注文から受け取りまで従業員との接点は一切ない。店内にはタブレット端末の注文プロセスで迷っている顧客をサポートするオペレーターが2~3人常駐するのみだ。サラダの用意もほぼ全自動でおこなわれる。
まず店舗に到着したらタブレット端末で注文をする。初回来店客は名前とメールアドレス、クレジットカード情報を入力してアカウントを作成する。
2回目以降の来店時に、タブレット端末に付属するクレジットカード読み取り機にカードを通すと、該当アカウントを認識する。そして、タブレット上に「またのご来店ありがとうございます。お待ちしておりました!」というメッセージが表示される。
筆者は何度かEatsaに通っていたのだが、毎回タブレット端末に表示されるメッセージが、温かい内容で非常に惹かれた。来店した際には、無人にも関わらず、毎回常連客に対しての丁寧な接客を受けているような感覚があったのだ。
もちろんピックアップ機能も実装している。ピックアップする際、注文したサラダバーは、可愛らしいメッセージが表示されるキューブ状の受け渡し機を通じて渡される。
『BusinessInsider』の動画を視聴すると受け取り体験を理解できるが、「楽しいお買い物」というコンセプトを軸にエンタメ要素を顧客体験に挟んでいるのだ。このようにタブレット端末以外の注文においても、顧客体験を高めるような工夫が仕込まれている。
Eatsaの次なるフェーズは外販
Eatsaは当初、全米展開を狙っていた。しかし、自社での店舗展開はコストがかかりすぎることから、2018年から店舗設計を外販する戦略をとった。
無人店舗の仕組みを外販することで、どの事業者もピックアップ機能を通じた小規模出店やパーソナライズ戦略の採用が可能となり、新たな顧客体験を提供できるようになった。
Eatsaはここで新たな壁にぶつかった。世界中では大手IT企業によって、無人店舗の開発が急速に進んでいるからだ。
Amazonは無人コンビニ「Amazon Go」を年内に全米7都市にまで展開する予定。Microsoftも無人店舗向けの技術開発を秘密裏におこなっていると『Reuters』が報じた。両社はいずれ無人店舗技術を外販するとうわさされている。中国でも「Bingo Box」に代表される無人コンビニのスタートアップが登場した。
無人店舗の最大の特徴は利便性にある。Amazon Goの事例を挙げると、まずQRコードリーダーを読み込んで入店。その後、来店客とAmazonアカウントをひも付ける。
何台ものカメラが天井に並び、顧客の動向を追いかけ、どの商品をカゴに入れたのか、もしくは戻したのかをトラッキング。このカメラデータをもとに、後日アカウントに登録されたクレジットカードに請求がくる仕組みのため、レジで会計をする必要がない。
高い技術力に裏付けられたその利便性が、数年で世界を席巻することは目に見えている。
しかし、顧客満足度を高める体験は、買い物プロセスの簡易化だけではない。Eatsaのように、「買い物の楽しさ」を提供することが競合優位性となる場合もあるだろう。
直接来店したリピート顧客には手厚いフォローアップメッセージを表示することで、顧客のリピートモチベーションを高める。ピックアップ機能を使った顧客には、エンタメ要素を通じた商品受け取り体験を提供することで、他社との徹底的な差別化を図る。どの導線から来店しても、顧客体験を最大化させる仕組みを作ることが今後求められていく。
いずれは日本にも「秀逸な店舗体験の外販」が
Eatsaは、Amazon Goを代表とする大手企業が開発する無人店舗との差別ポイントを、技術面だけではなく、技術も活用した顧客体験の側面で作っている好例だ。
このように小売市場ではピックアップ機能から始まり、同機能を搭載した無人店舗の開発が進む。しかし、単なるサービス機能実装だけでは競合に勝てない。
そこで、やってくるのは秀逸な顧客体験を外販するトレンドだ。その証左がEatsaの登場である。ピックアップ機能の登場から約10年後、日本にも「O:der(オーダー)」のような事前注文アプリが登場したように、いずれは「秀逸な店舗体験」がやってくるはずだ。
Img : Eatsa,Jesús Corrius, Hamza Butt, Amazon