2019年3月6日から常設店として営業を開始した『ネスカフェ 睡眠カフェ』(東京・大井町)は、「コーヒー」と「睡眠」という、一見相反する2つが組み合わさったカフェだ。ネスレ日本株式会社が運営する新たな店舗である。
飲料メーカーである同社によれば、睡眠の直前・直後にカフェインを「含むコーヒー」と「含まないコーヒー」を飲み分けることで、“質の高い眠り”をとる手法があるとのこと。それを顧客に知ってもらう手段として、今回の形に辿りついたという。
“昼の仮眠”と“夜の睡眠”
睡眠カフェには、ネスレ日本のコーヒー飲料と睡眠をとるためのスペースが用意されている。これらが共に提供されることで、顧客は快適な眠りを体験できるというのだ。そこには、大きく分けて二つのコースがある。
一つは、『ナップコース』。30分の仮眠(リクライニングチェア)に、カフェイン入りのコーヒーが1杯つく。このコースが提案するのは、「コーヒーナップ」と呼ばれる仮眠スタイルだ。
日中の仮眠は眠気を抑えるために有効とされるが、長く眠りすぎてはいけない。目覚めてからも眠気が残り、その後のパフォーマンスに悪影響をもたらすため、仮眠時間は15分程度が良いそうだ。
ネスレの担当者によると「短い仮眠前にコーヒーを飲むことにより、起きた頃にカフェインが働いてしっかり目が覚める」とのことだった。
もう一つが『睡眠コース』。180分以内の睡眠(ベットまたはリクライニングチェア)に、眠る前のカフェインレスコーヒー1杯と、起床後のカフェインを含むコーヒー1杯がつくものだ。
ナップコースが“昼の仮眠”ならば、睡眠コースで提供されているのは“夜の睡眠”である。ネスレの担当者によれば、こちらの目的は「夜の良質な睡眠を、疑似体験してもらうこと」だという。
顧客の希望に合わせて、眠る時間を60、90、120、180分から選べるようになっている。また、マットレスや枕は好みの固さを選ぶことが可能だ。
さらに、睡眠に適した明るさや色をスマートフォンでカスタマイズできる「IoT照明」、脳に快感及び安心感を与えるというハイレゾ音源の「安眠ミュージック」、仮眠や睡眠時の脳波をモニタリングし、眠りの質が計測できる「睡眠計測アイマスク」も用意されている。これらは、どのコースを選んでも利用することができる。
3度の実証実験を経て、常設店舗へ
なぜ、コーヒーを取り扱ってきたネスレが、睡眠をテーマにした店舗に乗り出したのか。その背景には、日本人の睡眠不足に対する課題意識がある。
日本人の平均睡眠時間は、世界各国と比べても少ない(OECDの調査で28ヶ国中27位)。日々の寝不足は「睡眠負債」として積み上がり、日中のパフォーマンスが低下していく。さらに、命へかかわるような病気を引き起こすリスクも高くなるという。
同社の試みは「シーンに応じた相性の良いコーヒーの摂り方」を通じて、質の高い仮眠・睡眠の体験を提供し、現代人のライフスタイル改善を狙うものだ。
睡眠の課題を解消しようと考えたネスレは、2017年に2回(原宿と銀座)、2018年に1回(原宿)、期間限定の睡眠カフェをオープンしている。それぞれ、営業は10日ほどずつだったが、予約や順番待ちの利用者が多数現れ、営業時間中の利用枠はほぼ埋まる状態だったという。
この実験的な取り組みを体験した利用者からは「家で眠るよりもリラックスできた」「普段寝る環境にも気を使いたい」などの声も寄せられたとのこと。手応えを感じたネスレは、今回の常設店舗のオープンへと動き出した。
大井町は、交通の要である羽田空港や品川駅にも近い。同社はここでオープンした狙いについて「ビジネスパーソンや観光客などにも利用していただきたい」とコメントしており、常設店舗は短時間でも質の高い睡眠を必要とする人々向けとなっていることが伺える。
製品の前後にある「生活」を変えていく
コーヒーのメーカーが睡眠を提供する、という発想は突飛なようにも思える。だが、その根底にあるのは、日々飲んでいる顧客の「生活」への想像力なのではないか。
まずは、製品を通じて顧客に提供できる価値を見直す。そこに、「日々の暮らしでどんな課題があるか?」「製品を使う前後に、どんな習慣をつくれたら顧客にメリットがあるか?」を考える視点が加わって、生み出されたものといえるだろう。
3度の実績を積み、実際に顧客の評価を集めている睡眠カフェ。本格稼働は始まったばかりだが、コーヒーとの新しい習慣を生み出す拠点になっていきそうだ。
img:ネスレ日本より提供