金融機関向けに顧客のライフサイクル管理ソフトウェアを展開するアイルランドの企業Fenergoは、世界各地の銀行の経営層250人に調査し作成したレポート『The Cost of Poor CX』をリリース。同レポートにて、金融機関において低品質な顧客体験が年間で1.1兆円(100億ドル)もの損失を生んでいると発表した。
デロイトが2018年に行った調査では、日本の顧客はグローバルと比べ、金融機関に対する満足度が10%近く低いとされる。つまり、日本の金融機関においてはより相対的に損失が大きい可能性が高いと言える。
既存金融機関のどの点が顧客体験の低下につながっているのか、レポートを元に明らかにしていこう。
「オンボーディング」体験が、顧客のLTVへも影響する
Fenergoが特に顧客に負荷を与えているポイントとして指摘するのが、オンボーディングプロセスだ。
81%の銀行がオンボーディングプロセスにおける負荷や手間によって、顧客にマイナスの印象を与え、36%が顧客を失う結果につながっているという。
記入すべき書類や入力すべき項目の膨大さ、必要とされる書類や本人確認書類、(日本の場合は)印鑑など……。確かに、口座開設の手続きには手間がつきものと言っても過言ではない。そのプロセスの多さや煩雑さは、顧客の離脱、および銀行の手間という観点でも損失を与えているだろう。
また、同調査では84%の銀行がオンボーディング時の体験が、顧客の生涯価値(Life Time Value・LTV)に影響すると語っており、たとえ顧客が煩雑なオンボーディングを乗り越えたとしても、最初の印象が悪いと、その後に継続的かつ積極的に使い続けてもらえなくなる可能性さえある。
デジタル化は最低ライン、積極的な取り組みが当然
オンボーディングプロセスに負荷が生じる背景には、金融機関におけるデジタル化の遅れがある。いまだ手作業や目視確認といった労働集約的な業務の効率化不足や、顧客視点でのデジタル導入が行われていないことが要因としてあげられるとFenergoは同レポートで述べている。
もちろん、金融という領域は扱う情報もセンシティブで歴史も長いこともあり、アナログ前提だった業務のデジタル化には膨大な負荷がかかる。故に導入ができていない側面もあるだろう。
ただ、デジタル化には、顧客体験の視点でも非常に大きな価値がある。先述したデロイトの調査によれば、国内外問わず、オンラインでの利用者やデジタル開拓者といった、デジタル活用に積極的な層の方が銀行利用における満足度が高い。デジタル化を適切に進められるほど、顧客とは良好な関係を築けるのだ。
とはいえ、デジタル化の必要性は各所で叫ばれている話だ。欧州、アジア、北米の金融機関の経営幹部約800名のうち、53%が「デジタルがもたらす破壊的な創造、コスト削減圧力や新たな規制に対応するため、今後1年間で変革への投資を拡大する予定」と、アクセンチュアのレポートでも回答している。
“デジタル化へ積極的に取り組んでいる状況”は当たり前で、取り組めていないとすれば、大きな後れをとる状況になっている。
全社で、顧客体験と向き合う姿勢が求められる
では、単なるデジタル化以上に、金融機関はどのような取り組みを行えば良いのか。
Fenergoが示すひとつの解は、意志決定の軸を、製品主導ではなく顧客主導へ変えることだ。“どのような機能が製品にあるべきか”ではなく、“顧客にどのような体験を提供するべきか”に向き合い、意志決定をし、製品がアップデートされていく組織への変革が求められる。
以前XDでも紹介したCXSFのレポートにもあるように、意志決定の軸に顧客体験を置くには、組織全体でのコミットが必要になる。ただ、顧客体験への適切なコミットメントがあれば、事業成長の観点でも良い結果へとつながっているのも明らかだ。
参考記事:北米では「CX」がホットトピックに。IT企業各社が全力で取り組むナレッジが共有された、CXSF2018報告会@メルカリ
悪い顧客体験は、大きな損害をもたらす。だからこそ、組織全体で、顧客と向き合う姿勢が求められている。