レストランに入り、席に着く。食べたいものを決め、注文を伝えようと店内を見渡すが、スタッフは忙しそうで声をかけづらい。呼び出しボタンを押しても、一向に来てくれる気配がない──。
そんな飲食店で起こりがちな問題に目を向けたのが、2019年夏に開始されるサービス「SelfU(セルフ)」だ。来店する顧客のスマートフォンを利用することで、注文にまつわる課題を解決しようとしている。
店内で、スピーディーな注文と決済を可能に
SelfUをリリースするのは、モバイルオーダー&ペイプラットフォームの「O:der」を提供するShowcase Gigだ。同プラットフォームの機能を用いたSelfUは、飲食店向けモバイルオーダー&ペイのサービスで、店舗が導入することにより、顧客の“ストレスのかかる待ち時間”を減らそうというものだ。
同社が2013年にサービスを開始したO:derは、顧客のスマートフォンアプリから、来店前に事前注文と決済を済ませることで、店舗でのスムーズな受け取りを実現させてきた。現在では、テイクアウト注文が可能な飲食店など、全国でおよそ1,200の店舗に導入されている。
(XD参考記事:『当たり前の消費体験を進化させたい―― 日本発モバイルオーダー&ペイサービス「O:der」に聞いた、事前注文が生み出す変化』)
今回新たに発表されたSelfUは、顧客が店内で“着席した状態”から注文できるサービスだ。O:derは店舗に向かう途中で注文する想定のサービスだったが、SelfUは店内での注文を取り扱う。O:derと同様なのは、顧客のスマートフォンを注文端末として使用する点だ。
注文する際、顧客はテーブルにあるQRコードを読み取り、表示されたメニューから選ぶ。オーダー内容はそのまま厨房へ送信され、調理が始まる。料理が完成すると、席まで運ばれてくる。注文時にスタッフを呼ぶ必要はない。
SelfUでは、顧客が自分のスマートフォンを用いることで、注文だけでなく、支払いも着席したまま行える。店舗の混雑時は、会計も順番待ちになることが多いが、SelfUを使えば座席から自分のタイミングで支払いができる。(ただし、現時点では、テーブル単位でまとめての清算処理となる予定。個別支払いは、店舗によってはSelfUでなく店頭で対応される。オンライン上での各自清算機能は、現在検討しているとのこと。)
SelfUは注文体験のアップデートに取り組む
Showcase Gigは、すでにスマートフォンでのテーブル注文の実証実験を実施している。同社広報担当の高堂氏によれば、「居酒屋や焼肉店など追加注文頻度の高い場合でも、店員を呼ぶことなく何度でも注文ができるため、店舗での時間をストレスなく過ごせる」という。
注文のストレスが減れば、飲食店に足を運ぶ本来の目的である、食事の体験や同伴者との会話をより楽しこともできるようになるだろう。
SelfUによって、他にも顧客が注文時に抱えている負担を軽減できる点がある。
これまで飲食店で採用されていた注文端末では、表示やメニューの選択方法がまちまちだった。SelfUが導入されれば、常に同じアプリ画面から注文できるようになる。顧客が一度操作に慣れれば、使い方も迷わずにすむ。
また、端末の導入やメンテナンスのコストが不要になるのも、同サービスの特徴だ。これまでは費用面で躊躇していた店舗も導入に踏み切れば、顧客は様々な店で、スタッフを呼び止めなくても注文できるようになっていく。
さらに、SelfUは注文体験をアップデートするための取り組みを準備している。
今夏のサービス提供開始に合わせてShowcase Gigは、SelfUを用いた「次世代デジタルレストラン」も自らオープンさせると発表。スムーズな注文を体験してもらうことはもちろん、決済も「完全キャッシュレス」を掲げており、店内でのストレスを極力減らすことが狙いだ。
同社は2016年にも、O:derを利用して次世代の注文体験のモデルケースとなるコーヒースタンド「THE LOCAL」を渋谷にオープンした。同店舗は、事前注文がどういった体験になるかを、顧客や関係者に示すための取り組みだ。「THE LOCAL」では、デジタルサイネージによる注文の可視化が行われており、今夏オープン予定のレストランにもこの仕組みは引き継がれる。
今回のレストランでは、アプリで注文状況が見られるのみならず、店内に複数設置されるデジタルサイネージ上に情報を反映させることも予定されている。常に注文内容を見えやすくしておくことが顧客の安心感になるとともに、「他のテーブルでの注文状況も見ることができるため、今までにない店舗体験になるのではないか」とShowcase Gigでは考えているそうだ。
「店舗の省人化」はホスピタリティの向上につながるか
SelfUはもともと、「店舗の省人化」を目指して開発されている。背景には、飲食店現場における深刻な人手不足の問題がある。
O:derを展開する中で、Showcase Gigには、店内注文サービスを求める声も寄せられていた。「O:derを運営する当社だからこそ、この領域の解決策を打ち出せるのではないかと考えていました」と高堂氏はコメントしている。
店舗はSelfUの導入で、ホール・フロアスタッフ業務で負担となる注文受付のオペレーションを削減でき、会計業務も減らせる。人手不足を解消するとともに、回転率向上による売上効果も見込めるという。
だが、導入する店舗にとってはもう一つ、何より大切な要素がある。接客や調理品質の向上に注力できる点だ。
業務の削減は、手段にすぎない。いかに「ホスピタリティある飲食空間」を実現し、より良い店舗体験に繋げられるか。味や接客を通じて顧客に満足してもらうことが、選ばれる店舗となるにはこれまで以上に重要となるだろう。
その前提となる“ストレスない注文体験”に向けて、まずは今夏のサービス開始が待たれる。
img:Showcase Gig提供, Unsplash