自分や家族の好みや健康状態に合ったおいしくて栄養のある家庭料理。作りたいとは思っても、調理の時間、料理のスキルやレパートリー、栄養の知識など、いざとなると必要なものはたくさんある。
動画レシピサイトなどを駆使しても、「自分たちが本当に求める食事を、日々作ること」は簡単ではない。今日も作れなかった。思うように作れなかった──時には、そんな罪悪感を抱いてしまう場合もあるだろう。
こうした現代の“食卓の課題”について、その解決に挑戦する企業がある。「出張料理サービス」を運営するシェアダインだ。本記事では、そのサービスを紹介しつつ、2019年4月よりサブスクリプションを導入した背景に迫っていく。
専門の料理家が家庭でごはんを“作り置き”
同社が運営する『シェアダイン』は「料理家による出張作り置きサービス」。調理の知識や経験、スキルを活かしたい料理家が、その専門性を用いて献立を提案し、家庭に出向いて料理を作る。
利用する場合、サイト上から希望の料理家とプランを選択し、料理家が対応できる日時の中から予約をする。
訪問は1回あたり3時間が基本で、12品程度の食事を作ってもらえる。これで家族4人の4日分の食事、16食分に相当するという(買い物代行を依頼すると訪問が30分ほど短縮、2〜3品少なくなる)。
訪問日の前後1週間は、チャット機能を使って、食の悩みや具体的な献立内容を料理家に相談できる。持っている食材に合わせて作ってもらうことや、献立に合わせて「買い物代行」を依頼することも可能だ。
費用は料理家とそのプランによって異なるが、5,000~12,000円(交通費込み)が基本。実際には、8,000円前後のプランの利用が最も多いという。買い物を依頼する場合は食材代も支払う必要があるが、こちらは実費で3,000〜4,000円程度が目安だ。
料理家に対してはシェアダインが事前に、面接でのバックグラウンドのチェックや、料理の実地審査、衛生研修を実施。同時に、損害保険にも加入しており、サービス提供中に発生した対人、対物事故への対応もなされている。
現在のサービス対応エリアは、東京、千葉、埼玉、神奈川と関東のみだが、登録する料理家はすでに300名以上だという。
その多くは、栄養士や調理師などの有資格者で、飲食店勤務や料理講師など、多様な出自と経験を持つ。プロフィールはもちろん、過去の利用者レビューも見ることができるので、顧客はそれらを参考にしつつ、自分に合いそうな料理家を選ぶ仕組みだ。
では、シェアダインはなぜ、こうしたサービスに辿り着いたのだろうか。
「次世代の食卓」を共に創るパートナーを目指す
『自分の子供にはどんな食事の記憶が残るのだろう?』──これは、同社サイトの「創業の背景」に記されているメッセージだ。
シェアダインは、代表取締役社長を務める飯田氏自身の育児経験が立ち上げのきっかけになっている。産後に仕事に復帰してから、忙しさのあまり子どもに手料理を作れていない、そして家族と向き合って夕飯を食べられていないことに気づいたそうだ。
『家族と笑顔で食卓を囲みたい』そんな想いを抱く家庭は他にもあるのではないか。そこで、子育て世帯をコアターゲットとして、共に“一世代先の食卓”を創りあげていくことを目指し、出張料理サービスを開始した。同社広報室の山田氏も、次のように述べる。
山田氏「女性の社会進出と核家族化が同時に進み、それまで主に母親が担ってきた役割が変化してきました。家庭の味を伝え、各家庭の“食卓を守る”ことが難しくなっているのです」
こうした課題意識が、料理家側とも共有できたのだろう。同社のサイトには、子育てをする親の悩みへの共感と、家庭の食卓を支えたいという声が掲載されている。
シェアダインは、開発期間を経て2018年5月に、正式にサービスが開始された。そこから1年近い運営を経て、同社は二つの大きなニーズを感じたという。
一つが、「日々“変化する”食の悩みに答えてくれる専門家」の必要性である。特に子育て世帯では、最初は「産前産後だけ、栄養バランスの取れた食事を作ってほしい」だった要望が、「初めての離乳食に専門家の力を借りたい」「幼児食の段階で、好き嫌いを克服したい」と変化し、子どもの成長に合わせて利用するケースが増えていたのだ。
もう一つが、「個別の事情に対応した食事」に対する要望。アスリート食やダイエット食、生活習慣病の悪化防止の食事、介護食など、子育て世帯に限らず、各家庭の生活スタイルやライフステージに合わせての利用が目立った。
これらの課題は、専門の料理家に来てもらっても、1回の訪問で解決させることは難しい。実際に、シェアダインの顧客が同じ料理家に何度も依頼するケースが増えてきた。また、それぞれに必要な専門知識が異なり、家庭によっては複数の料理家が必要になることも見えてきた。
新しいサブスクリプションサービスの狙い
そこで、同社は2019年4月、新たに『定期サービス』をスタートさせた。月2〜4回のコースから、顧客は毎回の予約の手間なく、お気に入りの料理家の予約を押さえることができるものだ。
利用者はまず、希望の料理家をコースの上限人数内で選ぶ。あとは対応してもらえる日程の中から、好きな週と曜日、時間を指定しておけばよい。費用は月2回コースで12,000円〜(1回あたり6,000円〜)で、選ぶ料理家のプランによって変わる。
定期サービスの利用中、訪問日の都合が悪くなってしまった場合も、チャットで時間調整をしたり、その週だけキャンセルしたりすることが可能だ。料理家側の都合で訪問できない日の場合は、日程を変更するか、代わりの料理家をシェアダインが提案してくれる。
こうした仕組みの狙いは、各分野の専門家が交代しながら「継続的に家庭に寄り添える」ようにすることだ。
山田氏「悩みに応じ、それぞれ専門の異なる料理家さんに週替わりで、簡単に依頼してもらうことが可能になりました。定期利用によって、食事の提供にとどまらず、カロリー計算や栄養指導など、個別のニーズにもお応えしやすくなります。
また、サブスクリプションにすることで、相談内容や提供メニュー、個々の事情をデータとして蓄積できます。別の料理家が担当する場合にも、過去の履歴を活用することで、よりパーソナライズされたサービス提供につなげたいと考えています」
この定期サービスは、開始前の3月19日から2週間弱、β版として運用されていた。個人利用だけでなく、健康経営を目指す企業からも連絡を受けるなど反響は大きく、正式リリースを後押ししたとのことだ。
母親の役割を解き放つ『ファミリーシェフ』
シェアダインは現在、「食卓を共創するプラットフォーム」となることを目指している。実現させたいのは、各家庭に寄り添う『ファミリーシェフ』を迎えるための場づくりだ。
山田氏「ご家庭の『かかりつけ医(ファミリードクター)』ならぬ、『かかりつけシェフ(ファミリーシェフ)』の仕組みを作ることで、かつての母親の役割を解き放ちながらも、家族の“食卓を守る”ことができると考えています」
こう語ることができるのは、同社が「出張料理」というサービスを運用しながら、事業の拡大だけを目的とせず、一つひとつの家庭が抱える“食卓の課題”の解決策を探っているからだろう。特定の料理家と長く関係を築くことを、顧客が望んでいる──そして、顧客の食卓が豊かになる。これが、今回のサブスクリプション導入のポイントだ。
料理家にとっても、長く付き合う分だけ、家庭との信頼関係は築きやすくなる。これまで以上に深い家庭の課題に出会うこともあるだろう。そうした課題に対し、シェアダインと共に寄り添った解決策が提案できれば、『ファミリーシェフ』という新たな文化も根づいていくかもしれない。
img:シェアダイン提供, VOICE by シェアダイン編集部