「五感や記憶に響く体験価値こそが次の豊かさではないか」
2015年に立ち上がった、京都の伝統工芸後継者によるクリエイティブユニット「GO ON」とPanasonic Designによる共創プロジェクト「Kyoto KADEN Lab.」では、次の100年の豊かな暮らしを支える家電を考える中でこのような答えを導き出した。
「五感や記憶に響く体験価値」をコンセプトとしたこのプロジェクトでは、京都の伝統工芸とデジタル技術が融合した様々な製品が生み出され、その中で反響の大きかった「響筒(きょうづつ)」が、プロジェクト初の商品化として11月8日発売することになった。
創業明治8年の開化堂とパナソニックが共創
「響筒」は、明治8年に創業し、100年以上前から同じ工程、同じ作り方でひとつひとつ手作りを続けている「開化堂」とパナソニックのコラボにより生まれた製品。
開化堂の手作りの茶筒にワイヤレススピーカーを搭載した製品で、蓋を開けると茶葉の香りのように音楽が広がってくる体験を実現している。
茶筒を持つ手のひらには振動を感じることもでき、音楽が生きているような不思議な感覚も味わえる。閉じ込めていたものが溢れ出す感覚だ。
実際、製品を触ってみると、言葉にすることが難しいほど新鮮であり、感動する体験を得ることができる。開化堂のモノづくりと、それに対するパナソニックのリスペクトが感じられる仕上がりで、モノ自体の魅力と、見事に融合したスピーカーが新たな感覚をもたらしてくれる。
デザインを一切邪魔することのないよう、ボタンは1つだけ底面に設置し、非接触充電にするなど、体験を損なわない配慮がされている。
製品を購入してから、最初に開封した際の体験も重視している。電源を入れて最初に蓋を開けた際には、オリジナル音源が流れるようになっており、これが蓋を開けて音楽が鳴る体験にマッチしている。
蓋を開けると音が流れるというのは、オルゴールに似たものを持っており、音楽を宝物のように感じる不思議な感覚が味わえる。
もちろんBluetoothで自分のスマートフォンをつなげることも可能で、1度繋げれば自動で再接続され、蓋を開けはじめると音楽が再生されるようになっている。
体験が素晴らしいがゆえに、音質について冷静に判断するのが難しいが、音は茶筒の中にあるスピーカーとしては最高のチューニングが施されたのではないかと感じた。
伝統工芸の魅力が再確認されるプロジェクトに
「伝統工芸は日本のものづくりの原点である」という言葉を松下幸之助氏が残していることが後押しとなって生まれたプロジェクト。
開化堂の茶筒は100年以上経っても色あせることのない美しさと高い密封性を備えており、まさにこの言葉を体現した存在である。
考えてみれば100年以上前にデザインされたものが、現代人も魅了し続け実用されているというのは、モノが溢れるいまだからこそ向き合い事実である。
茶筒を作り続けている開化堂だが、6代目である八木隆裕は、珈琲缶、パスタ缶など、その密封性を活かした新たな商品を手掛け海外にも販路を拡大している。そのような取り組みが今回のコラボにもつながった1つの要因となっており、伝統工芸の新たな道が示されていることも興味深い。
守るだけでなく、現代の暮らしになじませるということ。それにより、魅力が改めて認識され、暮らしを豊かにする。その可能性はまだ広がっているということだろう。
「響筒」は100台限定の30万円(税抜)で販売される。実際に手に取ってみると、100人しか手にすることができないのが惜しいと感じてしまうほど魅力的なプロダクトなので、機会があれば是非手に取ってみて欲しい。
11月8日から京都の開化堂の店舗でのみ販売されるほか、Kaikado Cafeでも体験できる機会も設けられている。