こんな経験はないだろうか? 休日に出かけたとある旅行先で、わざわざ目がけて行った飲食店に到着してみると、長蛇の列。5分や10分待てば入れるような様子はなく、諦めて店を立ち去る——。
そんな思いをせずとも、希望の飲食店へ優先的に案内してくれる画期的な方法がある。それは、2024年2月9日に開始した有料優先案内サービス『TableCheck FastPass』。手数料を支払うことで、飲食店の行列をスキップし優先的に入店できる仕組みだ。同サービスを手がけるのは、飲食店向け予約・顧客管理システムや飲食店の検索・予約ポータルサイトを運営する株式会社TableCheck。
代表取締役社長CEOの谷口優氏に、『TableCheck FastPass』構想の背景やリリース前後の取り組み、そして今後の展望について聞いた。

株式会社TableCheck 代表取締役社長CEO 谷口優 氏
きっかけは出張先の体験から
2011年に創業した同社は、2013年に予約・顧客管理システム、飲食店検索・予約ポータルサイトの提供を開始した。ユーザーはレストランを選び、行きたい日時と人数を入力、席やコースを選ぶだけで即時予約が完了し、かつ飲食店側は予約管理の手間が省けるうえに顧客管理ツールとしても使え、双方をつなぐプラットフォームとして機能している。対応言語は18か国語、導入店舗数は1万を超えるなど、勢いを増しながら世界に拡大している。
谷口氏「私たちのミッションは『Dining Connected』。飲食店とゲストをつなぎ、より良い食体験を提供することです。その中で、『TableCheck FastPass』は“待つ時間を減らし、より快適な食事を提供する”という新しい選択肢を作るためのものなんです」

TableCheckは、行きたい日時と人数を入力するだけで、即時空席確認・予約が出来るレストラン予約検索サイト。リアルタイムの空席情報を把握し、多言語対応で海外ゲストも集客するのと同時に、店頭での会計が不要の非接触型決済「TableCheck Pay」やキャンセル対策機能も充実している(写真提供|株式会社TableCheck)
TableCheck FastPassは「待ち時間の最適化」という新たな価値を提供する。ユーザーは通常料金にファストパス料金を追加で支払うことで、優先的に入店しスムーズに食事を楽しめ、店舗側にとっても「効率的な予約の管理」や「キャンセルリスクの軽減」、さらには「新たな収益モデルの確立」まで見込んでいるという。また、店舗がファストパスの手数料を自由に設定できる点も特徴で、混雑する時間帯と空いている時間帯で異なる価格設定をすることも可能だ。こうした発想は、谷口氏の実体験から生まれた。
谷口氏「私自身、食べることが好きで、出張の際などには行きたい店をリストアップします。京都に行くならこのラーメン屋、台湾に行くならここで小籠包を……と。しかし、いざ現地に行ってみると行列ができていて、泣く泣く諦めて他のお店へ行くことも少なくありませんでした。同じ頃、有名なテーマパークでファストパスのようなサービス(優先搭乗チケット)が普及し始めていたので『もしかするとこの仕組みは、飲食業界にも転用できるのかもしれない』と考えたことが構想のきっかけです」
2024年に提供開始した『TableCheck FastPass』だが、実は8年前の2016年に前身となるアイデアを提案し、1店舗だけ導入されたこともあったという。しかし当時はそれ以上広がらず、保留することに。その後、コロナ禍で電子決済、キャッシュレス決済やモバイルオーダーなどが普及し始め、飲食業界においても外部サービスの利用が広がりはじめた。また、インバウンド需要の高まりによる行列の増加に加え、テーマパークの“ファストパス”という考え方も世間に根づき始めたため、試験運用期間を経てリリースに行き着いたという。さらに、『TableCheck FastPass』提供の裏には、長年飲食業界に伴走してきた谷口氏なりの思いもあった。
谷口氏「皆さんの身近な飲食店を思い浮かべてほしいのですが、金曜日の夜の混んでいる時間でも、月曜日の空いている時間でも、提供される料理の価格は同じですよね。それが当然とされている。一方で、飲食店側からすると原材料費や人件費などのコストは高騰していて『値上げするとお客さんが離れてしまうのではないか』という懸念から、値上げにも踏み切れない。その結果、飲食店の倒産件数は増えているわけです。こんな状況を打開するためにも、飲食店にとって新たな収益構造を作れないかと考えています」

TableCheck FastPassが普及することで、ゲストと店舗側双方にメリットがある上、飲食店が抱えるさまざまな課題の解決につながることが期待されている(画像提供|株式会社TableCheck)
行けないお店から、行けるお店へ
このサービスにおける顧客は飲食店と、飲食店にファストパス手数料を支払うユーザーだ。
ユーザーにとって、行列に並ばずに済むことで時間的な利益がある『TableCheck FastPass』は、飲食店にとってのメリットも大きい。ユーザーが支払う手数料はテーブルチェック社とレベニューシェア(収益分配)され、飲食店にとっての新たな収益になるだけではなく、手数料は店側で自由に設定できるため、どれほどの手数料なら受け入れられるのかを試すことができ、経営判断におけるデータが得られやすくなる。閑散期は安く、繁忙期は高く設定される航空券のような“ダイナミックプライシング”が実現可能になるのだ。
谷口氏が語った出張先や旅先は、時間が限られていることが多い。そのため、同サービスを使えば、浮いた時間でもうひとつお店を巡ってみたり、ゆっくりと移動することに使えたりと、貴重な時間を有効活用できる。
提供しているサービスのアイデアはごくシンプルなものの、その影響範囲が広いことに感心させられる。では実際にローンチしてからは、どのような苦労があったのだろうか。
谷口氏「SNSを見ている限り、多数はポジティブな反応です。ネガティブな反応も一部ありますが、それはこのサービスを利用している方ではなく、『手数料を支払った人だけがなぜいい思いをしているんだ』とサービス自体に疑問がある方が多いと想像しています。飲食店も『お店にせっかく来てくれるお客さんは平等に扱いたい』という気持ちで営業されている店も少なくないため、私たちのサービスはあくまでも選択肢のひとつとして提案するようにしています。
高速道路のように急ぎたい人は使えばいいし、ゆっくり下道で行きたい人はゆっくり走ればいい。ただ、飲食業界にはその選択肢さえなかったので、普及していけば、飲食店はより多くのお客さんに自身のサービスを提供できるようになるし、お客さんも待たずに食べられる選択肢が生まれる。双方にとっていい体験が生まれるのではないかと考えています」
飲食店の予約で起こりうるキャンセルの問題にもアイデアが。『TableCheck FastPass』は予約時に手数料が決済される仕組みのため、ノーショーの場合も店側に手数料が支払われ、ノーコストでキャンセルリスクを下げることができる。さらに、予約時にキャンセルポリシーを明記しておくことで、キャンセル料の請求も容易に可能になる。こうした行き届いた設計こそ、長年飲食業界の悩みに耳を傾けてきた同社ならではのアイデアだと感じる。さらに、谷口氏は同サービスの根本的なメリットを挙げた。
谷口氏「以前『やっと奥さんと行けました!』という声をいただいたことがありました。どういうことかと聞いてみたら、自分は並んででも行きたいラーメン屋だったけど、パートナーの方は並びたくない人だったみたいで(笑)。『TableCheck FastPass』を使うことで、並ばずに食べられ、ようやく二人で行けるようになったと。行列に並びたくない人からすれば、選択肢に入らなかったようなお店が、選べるようになる。
また、行列の店は一度並んで食べてみて美味しかったとしても、もう一度行こうとすると、また長時間並ぶ必要が出てしまうため、中には再度訪れることをためらう人もいる。でもこのサービスを使えば、二回目以降は並ばずに食べたり、時間がない時だけ手数料を支払うこともできる。そうやって、それぞれの方に適した使い方で使ってもらえればいいなと思っています」
何も問題なかったと思ってもらえるように
さらに、TableCheck FastPassは、テストマーケティングにも使えることで飲食店の可能性も拡げると続ける。
谷口氏「例えばメニューの価格を見直そうとした時、今の価格と上げたい価格との差分に手数料を留めておいて客足が変わらなければ値上げに踏み切れる。もしそれで客足が遠のくならもう一度手数料を調整して……と試験的な取り組みが行いやすくなると思います。
また、店内の席ごとに手数料の価格を設定することもできるので、眺望のいい窓際の席は手数料を多めに、壁際の席は逆にディスカウントすることも可能です。飲食店の中には『桜がよく見える席に座りたい』という理由で、極端に一時期だけ特定の席に行列ができることもあって。それほど需要が増えているなら、特定の席だけ価格が上がっても適正価格ですよね。店側のオペレーションも大変なことは想像がつくので、そういう時にも役立ててもらえるのかなと」
飲食店にダイナミックプライシングを導入すると聞くとすこし身構えてしまうものの、その内実を聞くと飲食店とユーザー双方に寄り添ったサービスだ。『TableCheck FastPass』は、飲食店とユーザー双方の声を聞くことができる同社の立場だからこその提案だといえるだろう。最後にあらためて、谷口氏に『TableCheck FastPass』を通して見える今後について聞いてみた。
谷口氏「今は飲食業界に限定し、まずは国内で普及すべく地道に営業を続けていますが、同時に、様々な業界へも展開可能だとも感じています。インバウンド需要の高まりで、国内の行く先々で並んでいる人々を見かけますし、行列は日本国内に限った話でもありません。行列ができる店は世界中にあり、かつ訪れた先で効率的に時間を使いたいお客さんも世界中にいるはず。これに留まらず、私たちが提供するサービスの品質を今後も高めていきたいと思っています。
また、実際に導入して想像以上に手数料を上げても客足が伸び続けている店も知っているので、心配していたことは何も問題ではなかった、と感じてもらえるような提案を重ねていきたいです」
取材・文/梶谷勇介 写真/田巻海 編集/鶴本浩平(BAKERU)