消費の傾向はここ数年で大きく変化してきた。ブランド品を選ぶよりも「自分の価値観に合うか」などが重視されるなど、新しい購買行動のトレンドが誕生してきている。
英国に本社を構える市場調査会社のEuromonitor International(ユーロモニターインターナショナル)は2018年1月、「2018年 世界の消費者トレンドTOP10」を発表した。
この調査結果では、消費者の傾向を10個のカテゴリーに分けて解説。シェアリング・エコノミーや商品のパーソナライズ化、ARなどテクノロジーの発達がキーワードとして浮かび上がった。今回の記事は、どのようなトレンドが入ったのかを解説していきたい。
消費動向を読み解く10個のトレンド
今回発表された消費者トレンドTOP10は、下記の通りだ。
クリーンな生活者たち(Clean Lifers)
身体にやさしい食材や商品を使い、必要最低限のモノで暮らす「クリーンな生活者たち」。特に20代に見られる特徴だという。
彼らはアルコールや健康に悪い習慣などを避けており、健康によい食事やリラックスした空間、自分のために時間を使うことを好む。
彼らがお金を使う場面は、週末の外出や友人たちと会話をするための食事、ヨガやフィットネスなど、それぞれの関心や好みに応じた「体験」になっていくことが考えられる。
借りる人たち(The Borrowers)
「世代が代わると消費も変わる。ジェネレーションZの登場で、10年後の消費ルールはどうなる?」でも述べたように、人々が大企業やブランド物に感じる価値は、減少傾向にある。
消費者は、商品そのものを所有することに価値を見出さなくなってきており、「シェアリング・エコノミー」のように、サービスを通じて得られる体験により価値があると考え始めている。
シェアリング・エコノミーとは、UberやAirbnbに代表されるように、モノや場所などを自分以外の人と共有して利用する仕組みを指す。PwC Japanが発表した調査によると、2025年のシェアリング・エコノミーの市場規模は2013年の約22倍にも成長するとされている。
また、「サブスクリプション」モデルの普及も、新しい消費の形として注目したい。
たとえば、株式会社クラスは毎月決まった金額を支払うことでインテリアがレンタルできる「CLAS」というインテリアシェアリングサービスを提供している。月額課金で家具を使うことで、転勤や結婚、出産など生活環境の変化に簡単に適応できるところが特徴だ。
呼びかけの文化(Call Out Culture)
SNSを通して、誰もが情報発信できる時代となり、個人で大きな発信力を持つインフルエンサーも生まれた。ハッシュタグを活用して自身の意見を発信する「呼びかけの文化」は、そうした個人の台頭を表すトレンドの一つとなる。
セクハラ被害などの告白をSNS上に投稿する「#MeToo」運動や、キャンペーンを立ち上げ、賛同を得る「Change.org」は、呼びかけの文化の代表的な例だろう。最初は小さな個人の意見であっても、それが周囲から共感を得ることで、大きな影響力をもつようになる。
DNA – 私は特別な存在(It’s in the DNA – I’m so Special)
人気商品よりも「自分に合う商品」を求める“パーソナライズ化”が増えてきている。健康に気遣う人はもちろん、美容面においてもそれは顕著だ。
XDでも以前紹介した「MEDULLA」は、「DNA – 私は特別な存在」のトレンドを担う消費者のニーズを満たす。同サービスはWebサイト上で髪に対する7つの質問に答えると、自分だけのシャンプーをカスタマイズしてくれる。
自分の髪質やなりたい髪、好みは人によってさまざま。それらの要望をサイト上でヒアリングし、100通り以上の処方からその人に合ったもシャンプーを選んでもらえるサービスだ。
柔軟な起業家たち(Adaptive Entrepreneurs)
ミレニアル世代(2000年以降に成人となった年齢層)には、自分たちのライフスタイルを重要視する人が増えてきた。出勤時間が厳格に決められた従来の「9時~5時」仕事ではなく、自分の生活にあった働き方を求め、起業を志す人が増えている。
しかし、子どもや家を持つといったライフイベントが発生する時期は、昔と比べて年齢が高い傾向にある。安定した収入を得て、ライフイベントを早期に済ませるよりも、個人の関心や思いに合わせて、柔軟にライフスタイルを構築することを望んでいるのかもしれない。
家で見る人たち(View in My Roomers)
「Pokémon GO」で広く認知された拡張現実(AR)は、買い物でも重要な役割を果たす技術になると予想される。デジタル空間で得られた感覚と物理的空間を融合して考えられるようになったことが大きく影響しているという。
たとえば、IKEAのアプリ「IKEA Place」はARを活用し、寸法の調整が必要な家具を実際に部屋へ設置した様子をスマホ上に映し出すことを可能にした。ソファやテーブル、収納ボックスなど、良いデザインがあっても家のスペースに合わなければ意味がない。
IKEA Placeでは、約2000点の商品が掲載されたカタログから好みの商品を選び、スマホのカメラで部屋を撮影すると、商品を置いた時の様子が確認できる。検討している商品が部屋のスペースにフィットするかを、スマホアプリで実現した。
IKEA Placeのイメージ動画
ユーロモニターインターナショナル ライフスタイル調査部長のアリソン・アンガス氏は、「消費者はネットショッピングの、いつでもどこからでも買える便利さの虜になっている。しかし、購入前に実際の商品を見たり触れたりできることは、いまだに買い物する際の重要な要素だ。2017年、世界の小売総売上額の88%は実店舗で上げられた」と、ARを活用して家から買い物体験ができるようにすることの可能性についてコメントした。
調べる消費者たち(Sleuthy Shoppers)
企業から提示された情報だけでなく、商品に関する詳細な情報を求める「調べる消費者たち」。彼らは自分のモノの購入を検討する時、信頼できる情報を念入りに調べるという。
彼らはSNSや口コミ情報サイトなどさまざまな情報源を調べて購入する商品を選ぶ。そのため、企業側は詳細でかつ分かりやすい説明を消費者に発信する必要があるだろう。
この傾向の具体例として、家具や家電のレビュー記事を配信するメディア「The Wirecutter」の存在が挙げられる。同メディアのコンテンツはニッチなモノが多いが、専門ライターによるレビューは読者からの信頼が厚いという。「The New York Times」が買収したことで注目を集めたことからも、「調べる消費者たち」というトレンドがうかがえる。
一緒に住む人たち(Co-Living)
「一緒に住む人たち」は、ミレニアル世代と65歳以上の人々の間で人気と同調査は記している。彼らは共通の趣味や価値観をもつ人と、居住空間を共にするのだ。
また、ここ数年では、「起業家シェアハウス」や「国際交流シェアハウス」など、コンセプトを持ったシェアハウスが国内にも建てられるようになった。同じ興味をもつ者同士のコミュニティへの所属意識も強くなり、それが住居にもあらわれているといえる。
また、プライベートな空間を保ちつつ、ラウンジや共同キッチンなどを通して住人同士で交流することができる「ソーシャルアパートメント」の普及も、一つの事例といえるだろう。
デザインする人たち(I-Designers)
「借りる人たち」でも説明したように、価値観や体験を重視するシェアリング・エコノミーがトレンドになっている。さらに「デザインする人たち」は、マスに向けて大量生産されたものではなく、自分の好みにあわせて作り出すことにも注目している人たちだ。
自転車のカスタマイズができる「Cocci Pedale」が、トレンドの例として挙げられる。「Cocci Pedale」では複数あるパーツの色やデザインをすべて自分で選び、オリジナルの自転車を作ることができる。通常の自転車であればシェアサイクルで事足りる。
自分のモノを購入するには、よりパーソナル化された自分だけのものが好まれるのである。
逆境にいる人たち(The Survivors)
2007年から2008年にかけて起こった世界金融危機により、生活困難になった消費者たちは節約を強いられるようになったと、「逆境にいる人たち」では述べられている。
共通ポイントサービス「Ponta」を運営する株式会社ロイヤリティマーケティングの調査によると、20~40代ではポイントを「節約したい」と回答する人が7割を超える結果になった。これは2014年の消費税改定時から約21ポイントも上昇しているという。2019年には消費税が8%から10%に改定されることから、この傾向は今後も続くことが予想される。
今回紹介したトレンドTOP10は、企業が商品開発をするうえで重要な要素となるだろう。なお調査結果の詳細は、ユーロモニターインターナショナルのWebサイトで確認できる。