未来のコンビニは「無人」ではなく、人の温かさをより大切にした店舗になる――。
ローソンが2018年10月に公開した映像には、未来のコンビニの姿が映し出されている。過去の購買記録やバイタルセンサーから得られたデータをもとに、オススメの商品をアドバイスしてくれる「バーチャルクルー」、会計で金銭のやりとりを必要としない「ウォークスルー決済」、店舗内のディスプレイ端末で利用できる相談サービスなどだ。
こうした取り組みには、デジタル技術の革新により、コンビニは気軽に買い物ができるだけでなく、地域を支えるインフラになりたいという思いが込められているという。
「人がいることの価値は消えない」
上記で紹介した未来のコンビニは、2018年10月16~19日に幕張メッセで開催された展示会「CEATEC JAPAN 2018」で、その一部を体験することができた。展示の中で特に注目を浴びたのは、ウォークスルー決済だろう。
このシステムは、商品情報が記録されたRFID(Radio Frequency IDentification)タグを専用の機器で読み取るほかQRコード決済を用いることで、レジ打ちや金銭のやりとりをせずに会計ができる仕組みだ。
具体的には、まずスマートフォンの専用アプリに決済に関する情報を登録する。店舗で商品を選んだ後は、アプリに表示されるQRコードを読み取り機にかざすとともに、RFIDタグを読み取る機器が設置されたレーンを通る。これにより、自動で決済が行われる。決済完了後は、アプリに電子レシートが送付されるといった一連の流れを展示でも体験できた。
こうした決済システムの開発は、アマゾンが展開する無人コンビニ「Amazon Go」や、中国で無人コンビニが急激に普及していることを彷彿とさせる。しかし、同社コミュニケーション本部 広報室 アシスタントマネジャーの李明(り・めい)氏は、「当社は“無人店舗”を目指しているわけではない。人がいることの価値は消えない」と語る。
少子高齢化で働き手の数が減少していく中、店舗内の生産性向上を図るためには、テクノロジーを活用した自動化によって省人化を進めるのは必須だ。その一方で、顧客の満足度を高めるためには、店員のホスピタリティがより重要になってくると李氏は指摘する。
李氏「郊外や地方の店舗では、高齢者の方がイートイン席でコーヒーを飲みながら、店員と仲良く雑談をしているケースがよく見られる。現場のスタッフが『おもてなし』に、より注力することで、コンビニが地域のコミュニティを支える存在になりたい」
なぜ、実現までに7年という時間が必要なのか
李氏によると、ウォークスルー決済が店舗に導入されるのは2025年の予定という。
パナソニック スマートファクトリーソリューションズが、2018年2月にウォークスルー型RFID会計システムの実証実験を行ったことを発表したように、そこまで技術的な難易度は高くないように感じる。では、なぜ店舗の導入まで約7年もの時間が必要なのだろうか。
李氏が要因として挙げたのは、RFIDタグの価格だ。現状はRFIDタグの単価が数十円かかるため、アパレルのように商品単価の高い商品を扱う分野でないと導入は難しい。
総務省が大手コンビニ事業者と策定した「コンビニ電子タグ1000億枚宣言※」では、RFIDタグの単価が1円以下にならなければ実現は難しいということが記されている。
※サプライチェーンのさまざまな社会課題を解決する方法の一つとして、2025年までにコンビニ内にある全ての取扱商品(推計1000億個/年)に電子タグを貼付け、商品の個品管理を実現することを目指した宣言文。ローソンの他に、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズが参加した。
また、RFIDタグを活用してサプライチェーンのIoT化も行い、流通システムの無駄を改善することも期待されているが、現状は商品にタグを効率的に貼り付ける技術はなく、実現が難しい。こうした技術開発や運用方法の改善を行うためにも、時間を要するとした。
ローソンは、今回の取り組み以外にもスマートフォンアプリを利用して店内でどこでも決済が可能になるサービス「ローソンスマホペイ」や、スマートフォンの充電が可能なバッテリーのシェアリングサービス「ChargeSPOT」を店舗に導入するなど、コンビニの顧客体験を向上するためにさまざまな取り組みを進めている。
李氏は、最後に「今回小売業として初めてCEATECに出展したのも、業界の革新をリードしていく立場になれたらという思いがある。2025年、コンビニはただ買い物をするだけでなく、地域のコミュニティという一つの視点が増えるよう頑張りたい」と力強く語った。