常識に捉われない、自由なカレーを追求し続けるプロジェクトがある。クリエイティブ・カンパニーのNEWPEACE Inc.が手がける「6curry(シックスカレー)」だ。
Uber Eats専門店として注目を浴びた6curryだったが、2018年9月にはクラウドファンディングの支援を得て、初のリアル店舗となる「6curryKITCHEN」を立ち上げた。
カレーを通じて、人やアイディアを混ぜる。その楽しさを、世界に広めていきたい――。
そう語ってくれたのは、事業責任者である廣瀬彩氏。前編では、Uber Eats専門店の難しさにも触れながら、6curryが店舗を立ち上げた真意について紐解いた。
新たな顧客との接点を手にした6curryは、リアル店舗をどのような存在と位置付け、どのような体験を提供するのだろうか。前編に引き続き、廣瀬氏にインタビューを行った。
「カレーを一緒に作る場所」としての店舗
ーーUber Eats専門店を経て、事業全体を見直すタイミングでセントラルキッチンを開放して店舗化することを決意したと仰いました。それ以前にも店舗を展開することは意識していたのでしょうか?
廣瀬:最初から、いずれ店舗を持ちたいとは考えていました。ただ、具体的なイメージは何も固まっていなくて……。「テイクアウト専門店がいいかな」くらいのノリでしたね。
ーープロジェクトを動かしていくなかで、その考えに変化はありましたか?
廣瀬:「レストラン」としての店舗ではなく、「セントラルキッチン」のような店舗を作りたいと思うようになりました。このキッチンで新しいカレーをたくさん生み出し、それをUber Eatsなどのデリバリーサービスを活用して広げていく。もちろん店内でカレーを食べてもらうこともできますが、“それだけの場所”にはしたくないなって。
ーー「それだけ」と、いいますと?
廣瀬:「できあがったカレーを食べてもらう」だけではなく、「新しいカレーを一緒に作る」体験もシェアする場所にしていきたいんです。
ーー「一緒につくる」場所にしたいと思ったのは、どういった理由だったのでしょうか?
廣瀬:6curryは、立ち上げ当初からたくさんの人たちのアイデアと思いに支えられてきました。NEWPEACEの社員に限らず、事業に共感してくれる方たちと切磋琢磨するなかで、みんなで作り上げていくことが何よりも楽しく、大切だと気づいたんです。
ーー6curryを一緒に作っていくこと自体が、一つのコンテンツになっていたと。
廣瀬:その通りです。6curryKITCHENを月額3000円の会員制にしたのは、お客さん自身も「6curryの一員」だと感じてもらいたいからなんですよね。お店に足を運びやすいよう、会員さんには毎日カレー1杯を無料で食べられる制度を設けています。
ーー普通に考えたら採算は合いませんよね。
廣瀬:会員の方にも心配されるくらいです(笑)。それでも、会員システムを採用しているのは、6curryKITCHENを面白い人たちの溜まり場にしたいからです。スタッフだけではなく、会員さんからもアイデアをもらって、6curryのコミュニティは成り立っているので。
店員と顧客の境界線を曖昧にすることで、コミュニティが盛り上がる
ーーお店のオープン後、会員さんからのアイデアで生まれたものはありますか?
廣瀬:まだメニューとして存在するわけではありませんが、イベントを通して会員さんとの新たなつながりが多く生まれています。たとえば、味噌の蔵元の方をカウンターの中にお招きして、ほかの会員さんに向けて、味噌にまつわる話をしていただいたことがありました。その日は、味噌を使ったキーマカレーを作って、みんなで食べましたね。
ーー他の飲食店ではなかなか見ない光景ですよね。
廣瀬:毎日お店に通ってくださる会員さんの中には、友達を呼んで1日店長をやってくれた方もいます。店内に飾っている植物の植え替えも、会員の方が一緒に手伝ってくれて。なかには、私たちの代わりに洗い物をしてくれる方もいるんですよ(笑)。
ーースタッフと会員さんの境界線が、良い意味で曖昧になっているんですね。
廣瀬:はい。クラフトビールのイベントを開き、会員のみなさんで6curryに一番合うビールを選んでもらったこともありました。複数のビールを飲み比べ、会員さんに投票してもらったんです。選ばれたビールは今、実際にお店で取り扱っています。
ーーお客さんが主体になって、お店のメニューを決めることもあると。
廣瀬:ここ(6curryKITCHEN)は「みんなで作る場所」だと思っているので、みんなが欲しいものは、みんなで選ぶスタイルにしたいんです。会員さんと一緒に6curryのコミュニティを作る。そういう体験自体をお客さんに提供していきたいと思っています。
ーー6curryのコミュニティが盛り上がっているのは、プロジェクトの運営メンバーだけではなく、会員さんの力があってこそだったんですね。
廣瀬:本当にそうだと思います。会員さんが友人をお店に連れてきてくれると、私が水を入れている間に6curryの説明をしてくれるんですよ。どういう経緯で生まれたのか、どのようなコンセプトなのか——6curryに関する情報を全部プレゼンしてくれるんです(笑)。
ーー多くの企業が今コミュニティに注目しているように思いますが、なかなかうまくいっていないケースもあると思います。6curryとして意識したことはあるのでしょうか?
廣瀬:コミュニティを盛り上げる難しさは、私たちも日々直面しています。しかし、今考えてみると、SNSを通じて、早い段階からプロジェクトに共感してくれる仲間を作ってきたことが、コミュニティの活性化に重要な要素だったと思います。
「6curryLAB」といって、6curry KITCHENができる前から、SNSで呼びかけをして集まった人たちと新しいカレーの商品開発を一緒にやっていたんです。その時のメンバーが、「6curryの一員になること」のモデルになってくれたおかげで、6curry KITCHENの会員さんも、すぐにコミュニティに溶け込めたのではないかと思いますね。6curry KITCHENができたタイミングで、ゼロからコミュニティを作っていたら大変だったと思います。
また、多くの人が共通して思うであろう「カレーは美味しい」という感情も、一つの大きな要素です。美味しいって、幸せなことなので。
いろんな人と作ったカレーを、自由に、世界に広めていきたい
ーープロジェクトを成長させていくためには、コミュニティの活性化はもちろん、マネタイズの面も考える必要があると思います。収益はどのように伸ばしていくのでしょうか?
廣瀬:Uber Eatsなどのデリバリー提携に加え、ケータリングの利用、フードトラックを展開しています。特に、ケータリングの需要が高いですね。
大手の百貨店さんやフードを提供していないカフェから「商品を置きませんか?」と声もかけていただいてるので、そういったところへの展開も積極的にやっていきたいですね。
ーー販売チャネルを増やしていくことで、収益化につなげていくと。
廣瀬:効率的にお金を稼ぐなら「安く作って、高く売る」に尽きますが、それは大手がやっているので、私たちがやる意味はないんですよね。私たちだから可能なことをやるほうがいい。きっと、それは今までにないカレーをいろんな人と作っていくことだと思っています。
ーー会員さんと一緒に作ったカレーが、さまざまな販売チャネルを通じて、全国に広がっていくと嬉しいですよね。
廣瀬:そうですね。長期的には会員さんだけでなく、全国の農家さんや職人さんたちとのコラボレーションを増やしていきたいと思っています。6curryのシェフである一平ちゃんは、これまでも全国の農家さんや職人とコラボレーションを行ってきた人なんです。カレーを通じて、たくさんの人を混ぜていきたいですね。今は、あるアーティストの方が「スパイスで絵を描きましょう」と、コラボレーションを提案してくださっています。
ーースパイスで絵を描く!これもまた新しい発想ですね。
廣瀬:どんな形のコラボレーションが生まれるかは、すでに私たちの想像を超えて広がっています。どんな組み合わせが今後生まれるのか楽しみですし、生まれたものを外に広めていきたい。それらが上手くワークして、結果的にマネタイズにつながるのが理想ですね。