週に数回、髪を“きれいに”しに行く──。そんな新しい美容室の使い方が生まれようとしている。
「MEZON(メゾン)」は、提携の美容室であればどこでもシャンプー・ブローやヘアケアを利用できるサービスだ。開始から1年弱で、会員数が7,500人を突破した(2019年3月15日時点)。
運営する株式会社Jocyによれば、利用者は平均で月に9回、MEZONを使って美容室へ行くという。顧客と美容室の距離を縮めた大きな要因が、「月定額」モデルにある。
美容室のサブスクリプションサービス
MEZONは、シャンプー・ブローやヘッドスパ、トリートメントといった美容室のメニューに特化したサービスだ。顧客は自分の予定や目的に合わせて、毎回好きな美容室とメニューをスマホアプリから予約できるようになっている。
利用できる美容室は、14項目の審査基準「MEZONクオリティ」に通過した美容室のみ。東京・千葉・埼玉・神奈川・愛知・大阪・沖縄のエリアで展開しており、提携しているのは2019年3月15日の時点で180店舗以上。今後、随時エリアを拡大させていく予定だ。
サービスは3種類の「通い放題プラン」のほか、回数制限のある「定額チケットプラン」が用意されている。実際に利用する際には、アプリから行きたい店舗を検索し、希望メニューを選択して予約できる。
価格に関しては、平日のみ月何回でも利用できる「シャンプー・ブロー 通い放題(平日)」で月額16,000円(+税)だ。MEZONが提携する美容室では、シャンプー・ブローの平均価格が1回あたり4,000円前後というから、およそ4回で元がとれる計算となる。
土日も含めて通えるプラン「シャンプー・ブロー 通い放題(全日)」は月額25,000円(+税)、ヘアケアなどまで利用できる「全メニュー通い放題」は35,000円(+税)。ただし、通い放題は3プランとも、1日の利用は1回までとなっている。
また、平日プランを契約している場合でも、「土日に行きたい」「シャンプー・ブローのプランだけどヘッドスパも頼みたい」といった際に、チケットを追加購入すれば利用できる。決済は全てアプリ内で完結するため、「店舗での会計が不要」というスムーズさも魅力だ。
通い放題とはいえ、予約がなかなか取れないといった問題はないのだろうか。特に駅から近い美容室は予約が埋まりやすいと考えられる。その点に関してサービスを運営するJocyに聞いてみると、利用の中心は「平日13〜18時」で美容室本来の繁忙時間(夜や土日)と重なっておらず、予約待ちが続く状況は発生していないという。
「きれいでありたい」女性の潜在ニーズを捉える
MEZONはもともと、Jocy代表取締役の鈴木みずほ氏自身が、大事な仕事の前に“美容室で髪を整える”ことで自信を得ていた経験から、「美容室を日常的に通える場所にしたい」という想いでスタートした。
同氏によれば、MEZONの顧客は「約8割が20〜60代の働く女性で、残りが専業主婦や男性会員」とのこと。働く女性のうち、子育て中の利用者は約4割を占めており、ここが現在最も伸びている層だという。
「定額にすることで、女性の『いつでも髪をきれいにしておきたい』という潜在的なニーズに応えたことが、実際の登録動機としても大きいのでは」と、鈴木氏は想定していた欲求を捉えられたことへの手応えを語る。
だが、定額制サービスは、新たな顧客のニーズも顕在化させた。通い放題の中でも価格帯の低い平日プランを新設した2018年11月末から、同社は2ヶ月間に渡って顧客の利用動向を調査。すると、MEZONの利用回数は平均で月9回、利用シーンは「帰宅前」が1位(回答者の56%)という結果になったそうだ。
これは鈴木氏によって予想外の回答だった。同氏が想定していたのは、仕事やデートなど大事な時間の「前」に利用するというものだ。だが、蓋を開けてみると、仕事の「後」にも利用する顧客が多かったという。
顧客からは「リラックスできる」「家で髪を洗って乾かす面倒から解放される」「家で帰って寝るだけなので時短に繋がる」などの声も寄せられており、「こうしたマッサージ感覚での使い方は意外でした」と鈴木氏は語る。
定額制にしたことで、従来の美容室の利用ニーズである「容姿を整える」というもの以外に、「自分を解放する」「自分の代わりにヘアケアをしてもらう」というニーズに応え始めているという点が興味深い。MEZONが、サービス提供者の想像以上に“日常”での美容室の活用機会を生み出しているといることが伺える。
美容室との日常的な接点がもたらすもの
2018年6月に株式会社リクルートライフスタイルが発表した調査によれば、美容室を過去1年間に利用した割合は、男性が5.37回 、女性全体が4.44回。数ヶ月に1度が、従来の顧客と美容室の関係だった。MEZONという定額サービスの登場は、これを変え始めている。
これまで行けなかった美容室に通いやすくなることも、顧客にとっての大きなメリットだろう。鈴木氏も「初めての店舗で、パーマやカット、“特別な日”のセットを依頼するのは抵抗があるが、シャンプー・ブローといったメニューで気軽に利用できることで、相性の良い美容室を見つけやすくなる」と述べる。
顧客と日常的に接点が持てることは、美容室側にも大きな変化だ。顧客との信頼関係も築きやすくなり、好みも把握できる。顧客にあったカラーや髪型なども、これまで以上に提案しやすくなるだろう。
気軽な“日常”の体験を通じて、その店舗でしか得られない価値を感じてもらうことができれば、数ヶ月に1度という“特別な日”の際にも、数ある中から「選ばれる美容室」になっていくかもしれない。
img:Jocy提供