上司とアプリの機能ラベル(機能の名前)の話をしているときに、「そういえばInstagramの『親しい友達リスト』は素晴らしい機能ラベルだよね」という話になった。
「親しい友達リスト」とは、2018年冬に公開されたInstagramの機能で、StoriesをUploadする際に、公開範囲をフォロワーからさらに制限できる機能である。
「誰かを選んでリスト化する、という意味では、Twitterを始めとして『リスト機能』というのは珍しくないし、これまでも散々考えられてきた機能だ。
だけどInstagramはあえて、『親しい友達リスト』という名前をつけている。これが本当に上手だよね〜」と上司は言った。
では、具体的にInstagramが『リスト機能』を『親しい友達リスト』と名付けた効能は何か。大きく分けて2つあると思っている。
「リスト」よりも、「親しい友達リスト」のほうが作成しやすい理由
まず、「親しい友達リスト」の功績の1つはシンプルに「用途を固定したこと」だ。
Twitterのリストを使っている人はどれだけいるだろう。機能としてはInstagramの「親しい友達リスト」の閲覧版で、自分が選んだアカウントだけのタイムラインを表示することができる。私も便利で活用しているが、この記事ではじめてリスト機能を知った人もいるかもしれない。
あまり使われてない機能について誰かに紹介すると、高確率で返ってくるのが「それ、何に使うの?」という問いだ。
ニーズにぴったりそのまま応えた機能でない限り(似た言い方をするとすれば、ユーザーのニーズが「○○機能が欲しい」という、機能にまで落とし込まれた要望でもない限り)、機能は「何に使うのか正解がわからない」ものも多い。
だからこそ私達は機能Updateする度にリリースを出したり、チュートリアルを表示したりするのだろう。
そして、何に使うかわからない機能は「使われない」。そんなことも多いのが現実である。
その点、名前を聞くだけで、どのようなリストを作ればよいかわかる「親しい友達リスト」は素晴らしい。Storiesを投稿する際に「親しい友達リストを選ぶ」という選択肢を表示するから、ここで「Storiesを限定公開するための機能なのだ」ということが理解できる。
わかりやすい機能は使いやすい。
「親しい友達リスト」はリリースされてからすぐに使っている人を見かけることが多くなったことを覚えている。
「親しい友達リスト」は友達同士のInstagramコミュニケーションを強化する
そして、2つめは「Instagram上のコンテンツの幅を広げた」ことだろう。
まずは、単純に投稿できるコンテンツの話をすれば、投稿の表示範囲を定められるようになったことで、鍵をかけていないアカウントでも、全員に向けたオープンな投稿と、親しい友人だけに見せたいクローズドな内容の両方を投稿できるようになった。
さらに、Instagram上にあるコミュニケーションもコンテンツとするならば、親しい人とのコミュニケーションも濃密化したことは間違いないだろう。「親しい友人リスト」は、登録されていない人には全く表示されないが、自分が親しい友達リストに含まれている人の該当コンテンツが掲載されると、他の投稿とは異なるデザインでアプリ上に表示される。自分がそのリストに含まれていることがわかるのだ。
それはつまり、普通のリストに含まれているならただの「通知」なのだが、「親しい友達リスト」だと、「私は親しい友達リストに入れられている」という気付きに変わるのである。
Storiesは元々、Instagramのfeed投稿(タイムラインに流れる投稿。Storiesは24時間で消えるのに対し、feed投稿はArchiveしない限り残り続ける)のフォーマルな雰囲気に対し、カジュアルでリアルタイムな投稿ができることで人気を博したが、この「親しい友達リスト」ができたことで、より「カジュアルでリアルタイム」という利点をエンパワーメントし、さらにInstagramをクローズドなコミュニケーションを可能な場にした。
「CXの提案」とはつまり、「ユーザーの行動の制限」である
私達は、ユーザーに選択肢を与えることは、ユーザーの間口を広げると思いがちだ。そして、選択肢を減らして、応えられるニーズを狭めることに恐怖を覚える。
しかし、本当は、ある程度ユーザーの行動を制限することで導いてあげたほうが、その機能の理解や利用が進むのかもしれない。
そして、楽しくわかりやすい機能の名前と、使い方やUXを想定して落とし込まれたUIによって「ワクワク感」を醸成すれば、それは「クリエイティビティを刺激する楽しいルール制限」であり、「楽しい使い方の提案」になるに違いないのだ。
ユーザーに自由を与えるだけが優しさではない。楽しい使い方を想定し、それをエンパワーメントする方法を丁寧に設計してユーザーに伝えるのもまた、UXやCXの役割なのである。
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