XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年2月17日から20日の放送では、六本木に佇む本屋「文喫」を紹介した。平日1500円(税別)、土日祝日1800円(税別)の入場料を払えば、何時間でも滞在できることが特徴の文喫。
本屋では、本を選ぶ時間こそが最良だ――。Webサイトにこう書かれているように、さまざまな工夫を通して顧客が本とじっくり向き合い、新たな出会いを生む機会を提供している。
なぜ本屋に入場料を設定しようと思ったのか、顧客が文喫に求めているものは何なのか。放送では、店長の伊藤晃さんに、文喫だからこそ提供できる本屋での過ごし方を伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
じっくりと「本と出会う」時間を楽しめる空間づくり
――最初に、なぜ本屋に入場料を設定しようと思ったのか教えてください。
「本屋で本を選ぶこと」自体が、美術館や博物館で時間を過ごすのと同じくらい価値がある行為だと思ったからです。一般的には本屋で長時間立ち読みすると、罪悪感を感じてしまいますよね。文喫では入場料をいただいているので、何時間いてもらっても大丈夫なんです。
むしろ、長時間いてもらえる方がありがたい。一度入ったら朝から晩まで利用していただくことで、本を選ぶ体験や本とゆっくり出会う時間を作ってもらいたいと思っています。
――本とゆっくり出会う空間を作るうえで大切にされていることは何ですか?
1カ所に留まるのではなく、いろいろな環境で本を選べるようにしました。選書室の他に、研究室や閲覧室、イベントスペースには寝っ転がって本を読める小上がりもあります。
他にも飲食を提供する喫茶室を設けて、お腹がすいてもお店から出ることなく、本と向き合う時間を邪魔されない環境も作っています。また、あえて硬さや形状の違う椅子を置き、適度に姿勢を変えてもらうことで、長時間いやすくなるような工夫もしていますね。
大切にしているのは「回転率」ではなく「滞在時間」
――快適な空間を作るほど、回転率が下がってしまう心配はなかったのでしょうか。
私たちは、回転率を上げてお客様を増やすことは目指していないんです。
一番大切にしているのは「滞在時間」。実は、オープンしてからわかったことなんですけど、滞在時間が長くなればなるほど客単価が上がっていく傾向にあるんです。
長時間滞在しているお客様は、お腹が空いてくると喫茶室で食事やデザート、飲み物を頼んでくれることが多いです。長時間いてくださると、それだけ本にふれ合う時間が増えてくるので、自然と書籍の購入冊数が増える傾向もあります。滞在時間を伸ばすことによって、一人ひとりの客単価を上げていく。そのほうが、「文喫らしい」と思いますね。
――満足できる時間を提供することが、自然と売り上げにもつながっていくと。
お客様の中には、9時から22時までいらっしゃる方もいるんですよ。どんな過ごし方をされているのかなと思ったら、朝は仕事をして、お昼ごはんを食べてから本を読み、おなかいっぱいになったら寝て。そして、お酒を飲みながら本を読んで、また寝て、本を読んで寝てと。「理想的な体験をしてくれているな」と思いながら嬉しく見ています。
目的の本になかなか出会えない、文喫ならではの工夫
――文喫には、他の書店とは一味違う「本と出会ってしまう仕組み」があるそうですね。
はい。言い方は悪いですが、あえて検索性を悪くしています。日本文学や宗教、自然科学などの分類はしているのですが、そこから先はあんまり分けていません。お客様が目的としている本まで、なかなかたどり着けないような状況を作り出す。そうすることで、探している途中で別の本に出会ってしまう環境を、わざと作り出しているんです。
――本の並べ方にも、何か工夫があるのでしょうか?
通常、平積みは同じ本を何冊も積むものですが、文喫の場合は違う本が山積みになっています。文喫と同じ面積の一般的な書店なら、3万冊があったとしても平積みに同じ本が並んでいるため150点ほどしか扱えないところ、3万点の本があるということです。
一見、乱雑に積んであるだけのように見えるんですけれども、この山積みの中でも一つのテーマでくくられています。一番上の本に興味を示されたら、実は下の本も同じようなテーマで並べてあるので、そちらも気になって手に取るお客さんがいらっしゃいますね。
「本を選ぶ体験」を特別にした文喫が考える書店の今後
――他に「本との新たな出会い」を生むうえで、工夫されている点はありますか。
お客様と一緒にヒアリングし、テーマを絞っていく選書サービスも文喫の特徴の一つだと思います。例えば、あるお客様が海外旅行に行くのでガイドブックがほしい、となったとします。文喫の選書サービスでは、そこから深掘りして「なぜ行くのか」や「その旅行によってお客様の人生がどう変わるのか」というところまで聞いていくんですよ。
そうすると、「実は初めての海外旅行で、しかも一人旅。心細くてどうしようもない」みたいな話になってくるんですよね。そこで、ガイドブックだけではなく、自己啓発的なビジネス書を混ぜたり、旅に寄り添えるような日本文学とか世界文学を混ぜたりして、どんどん提案するジャンルの幅を広げていきます。そうするとガイドブックを探しにきたはずなのに、いつのまにかビジネス書を持っている。これが、私たちが求める本との出会いなんです。
店内の本を選んでいるのも各ジャンルに特化したスペシャリストです。演劇の棚は、役者をしている人。建築の棚は、建築の学校に通っている人が本をセレクトしています。こうした選んだ本は、お客様が予想していなかった本との出会いにつながっています。
――新たな気付きにつながる出会いを作り出し、「本を選ぶ体験」を特別なものにしているんですね。最後に、書店の今後についてどのように考えているか教えてください。
本屋単体では、なかなか厳しい状況が続いています。だからこそ、仕事や勉強をしたり、カフェのようにゆっくりしたり、本を読む目的以外の場所としての本屋を作っていきたいと考えていますね。本のある空間には、人が集まります。だから、いろいろなものと組み合わせることによって、今の時代にも受け入れられる新しい本屋の形が生まれると思っています。
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