XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年3月23日から26日の放送では、埼玉県の大宮にあるセレクトCDショップ「more records」が、リアル店舗として提供する音楽との出会いの体験を紹介した。
ネットショッピングやストリーミングサービスが普及した中で、あえて店頭にCDを並べるmore records。大宮駅のにぎやかな駅前から徒歩約10分の場所にある店舗には、新たな音楽との出会いを求め、多くの人々が集まる。放送では、店長の橋本貴洋氏に店舗でのこだわりや工夫している音楽との出会い方、これからCDショップができることについて伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
受動的な出会いを通して、自分の枠を広げる場としての店舗
――「CDが売れない」と言われる現代において、あえてリアル店舗でCDショップを作ろうと思ったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
15年ほどチェーンのCDショップで働いたことが、大きなきっかけとなりました。チェーンの店舗では、やはり世間で人気のあるものを揃えておかなければならず、「音楽を提案する」ことが難しいんですよね。ただ、それだとネットで買うのと変わりません。すでに知っているものを手に入れたり、さらに深く知ることができたりするのがネットの魅力だと思います。しかし、言葉にできない自分の気分や好みに合う出会いを生むのは難しい。
だから、アーティストやジャンルに関係なく、音で判断してもらえる店舗を作ろうと。そういうお店がだんだんと減っている現状も知っていたので、more recordsを開店しました。
――ネット上では難しい出会いを、店舗ではどのように作り出しているのですか。
お店に入ってきた人が、日々変わっていく感覚や気分で「今日はこういうのが聴きたい」と思えるものに出会えるようセレクトしています。専門知識がある人には、あえて違うジャンルと出会ってもらえるよう、ちょっとずらしてオススメするとか。「これもきっと好きだと思う」と話して気に入ってもらえれば、お客様の見える世界がまた変わると思うんです。
選択肢が多くある今だからこそ、能動的に自分から好きなものを探しに来るのではなく、受動的な出会いを生み出すことで、自分の枠を広げられる場所にできたらと思っています。
店頭に並ぶCDは全曲視聴できる。買ってもらえなくてもいい
――商品を選定するうえでのこだわりを教えてください。
こだわりは「濃くない」ものですね。インディーズだけで、全ジャンルの入り口になるようなセレクトを心がけています。チェーン店での経験をもとに「聴けば好きになりそうな音」を目安に選んでいますね。ずっと置き続けているCDもあれば、新しいものもあります。
専門知識がある人やすでにその曲を知っている人以外が商品を手に取れるよう、内装やCDの並べ方も工夫しました。たとえば、ジャケットの表紙がよく見えるようにして、そこから気になった商品と出会えるとか。ジャンルも、あえて棚に書きません。書いてしまうと、興味がないから聴かないという棚が出てきてしまうから。その代わり、言葉のイメージから手を伸ばせるように「グルーヴ」や「フィール」「アーバン」などを表記しています。
商品説明用のポップも、分かりやすい情報しか書きません。こってりした内容じゃなく、読んだときに「聴いてみようかな」と思えるような入り口みたいな文章にこだわってます。これは、手書きじゃなきゃだめなんです。出力だとスマホの情報を見ている感覚と一緒になるので、店舗だからこそ得られるDIY的な体験はオープン当初から意識していますね。
――たくさんの場所に、音楽と出会う入り口を作っているんですね。
何でもかんでも買う時代ではないから、色んなCDを聴いてもらい、良いものが見つかったら買ってほしいという感覚なんですよね。つまり、買ってもらえなくてもいい。物を持たなくなった時代だからこそ、納得のいくものを購入してほしいという思いがあります。
そのため、店頭に並ぶCDは全曲視聴できるようにしています。音楽はやっぱり聴かないと分からないですよね。聴けば聴くほど迷いますから、そこから厳選したものはよっぽど気に入ったもののはず。そういう体験を店舗でしてもらいたいと思っています。
また、視聴している様子を見ながら、「あの辺聴いてるならこれも流してみようか」と、店内に流れている曲を変えることもありますね。そうすると、やっぱり「今かかっているの何ですか?」と、お客様から聞かれるんですよね。これも演出する出会いの一つです。
お店に来れない方向けに、コミュニティCDショップも
――さまざまな出会い方の他、リアル店舗だからこそ大切にしている点はありますか?
店舗だからこそできる「対面での会話」は大切にしたいと考えています。気に入った音楽はもちろんですが、気持ちの半分以上は会話を持って帰ってほしい。音楽好きの人って、年齢を重ねるうちに音楽の話ができる人が周りからいなくなってしまうこともあるんです。そういう会話を思いっきりできるのが、more recordsの強みだと思っています。
――確かに「店員さんと会話ができる」「知らないことを聞くことができる」というのは当たり前のように感じますが、リアル店舗だからこそ提供できる強みですよね。
はい。ただ、直接お店に来ることが難しい方とも店舗でするような会話をしたいと考え、2019年11月には「モアレコラボ」というオンラインコミュニティCDショップも始めました。モアレコラボでは、毎月500円の会費をいただいて、Facebookの非公開グループに招待します。このグループでは、メジャーでもインディーズでも、店舗にあるないも関係なく、CDになっていない音楽すらも含め、良かったものをオススメします。もちろんお客さん側も投稿できるので、店内と同じような音楽好き同士の会話が生まれていくんですね。
毎月厳選したCDを1枚送る3000円のコースと、2枚送る5000円コースもあります。好みは聞かず、私たちが良いと思ったものを届けるのですが、意外と需要があるんです。「とりあえず良い音楽が聴きたい」人が多いんですよね。何でも探せる時代だから、逆に探すのが大変なんだと思います。
欲しいのはお客様と一緒に作る、CDを残すためにできること
――ストリーミング型の音楽配信サービスが増えていく中、これからの時代にCDを残していくためにはどのようなことが考えられると思いますか?
売れなくなってCDをリリースすること自体がリスクとなり、アーティストもレーベルも苦しい状況となっていますよね。だから、これまでのCDづくりの仕組みとはまったく違った形でCDを作ってみようと思い、クラウドファンディングをしてみたんです。
このクラウドファンディングは、モアレコメンバーであるお客様とmore recordsによるレーベル「morerecolabo records」を始動するというもの。モアレコラボ内でアーティスト選定から、選曲、ジャケットまで意見交換しつつ良いCDを世の中に送り出す取り組みです。
CDができてから世の中に紹介するのではなく、作る前から聴いてもらえる環境を作る。そのCDが欲しいお客様には、「予約」という形でクラウドファンディングを通して支援をしてもらいます。集まった金額でCD化ができれば、リスクが少ない状態で、もっとCDを生み出せることにつながるのではないかと。これにより、売れる音楽だけでなく、「良い音楽」「面白い音楽」が増えていくと、業界はもっと良い方向に変わっていくと考えています。
――お客様と一緒にCDを作っていくという新たな取り組みですね。
はい。今、選べる選択肢がゼロか100かしかないんですよね。柔軟に考えて、中間の50くらいを考えて動くことができれば、もっとCDを残していく道はあると思っています。
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