XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年8月3日から6日の放送では、中目黒にあるフリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER」を紹介。全国で作られたさまざまなフリーペーパーを扱う場所だ。
放送ではオーナーの松江健介氏に、フリーペーパーのもつ魅力や、お店での体験が読み手と作り手双方にもたらす役割、今後の展開などについて伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
「これを見て!」と語りかけるフリーペーパーの世界観
――最初に、フリーペーパーにはどのような魅力があるのかを教えていただけますか。
フリーペーパーには、この年代に届けるために○○をやるといった、マーケティングの視点で考える世界とは全く違う世界観があるのが魅力かなと思っています。
専門店を始めるに当たって、いろいろなフリーペーパーを見せてもらったときに、直感的にしかわからない、説明がつかないような作品によく出会いました。例えば、味のある紙に印刷して、冊子にして、しっかり出版しているけれど、中身はゆるい4コマ漫画が羅列してあるだけみたいなものとか。そんな“よくわからない世界観”がとても面白いと思いました。
――お店にはモノづくりをしている方や、しようと思っている方、出版関係の方が多く来られると聞きました。フリーペーパーのどんなところに魅せられて訪れていると思いますか。
フリーペーパーの中には、アマチュアの方が作ったものが多くあります。まだ色がついてない、雑に言うと滅茶苦茶な編集ではあるのですが、それに味がある。そんな不思議なレイアウトやデザインが、新しい着眼点や発想のもとになることがあるんです。
また、アマチュアだからこそニッチなテーマが多くあります。自分の思想や好きなものを、「これを見て!」というように、その人の言いたいことがはっきりしているんです。その主張が考えたこともないものだったとき、読み手の人生を広げるきっかけになるかもしれない。新たな何かを発見できる可能性がフリーペーパーにあるのかなと。
プロになるほど発想が凝り固まったり、流行りのデザインや売れやすい要素や読者が求めているところに帰結したりしてしまう。プロであればあるほど知らないうちに視野が狭まることがあるからこそ、出版関係の方が新たな刺激を求めて来てくれるのだと思います。
読み手と作り手が「グラデーション」のようにつながる
――フリーペーパーでは作り手と読み手の間にどのような関係性があるのでしょうか。
本は読み手と作り手がはっきり分かれていると思いますが、フリーペーパーは作っている人がアマチュアなことも多いので、読者との距離感がすごく近いのが特徴です。
そのため、読み手として最初に訪れた人が、次また来た時に「私、これ作ってみました」と持ってくることが結構多いんです。読み手と作り手との境界線が、グラデーションのようになっている。フリーペーパーを読むという体験を通して、発信する側になるモチベーションが生まれ、能動的に動いてみたくなるのかもしれないですね。
――作り手の距離感が近いことで、読み手の創作意欲が生まれることにつながっていると。
制作者同士でつながることも多いですよ。フリーペーパーは自分の世界の中で作っているので、その人自身、その人の一部です。「名刺代わり」とよく言われていますね。
例えば、自費制作して「発酵のフリーペーパーを作っています」といった時点で、発酵に対する思いが強い方というのがわかりますよね。作らなくてもいいのに、せざるを得なかった。これには何かがあると思うんですよ。強い意思は、その人そのもの。フリーペーパーを通して“人となり”を知ることで交流が生まれ、制作者同士で仲良くこともあります。
手に取って読むほうが情報量や濃度が圧倒的に違う
――松江さんは、お店という場所にどのような考えを持っていますか。
モノづくりをしている人は見逃しがちなのですが、流通していく販路がないと作った意味がないじゃないですか。本だけじゃなく、絵や音楽も、販路がないと伝わらないですよね。みんなに見てもらう場所がないと、モチベーションも上がらないですよね。
フリーペーパーの置いてある場所を考えても、多くの人は「駅のラックにある冊子でしょ」といった程度のイメージだと思います。そうなると、作り手も「どこに置けばいいんだろう」と困ってしまう。同じ本でも値段がついているかで扱いが違うのは、モヤモヤするところが自分自身にあって。だからこそ、インフラを整える意味もこめて、無料版のフリーペーパー置き場としてONLY FREE PAPERを作りました。
今までの考え方だと、お店は目的があって訪れる場所だったと思うんです。しかし、フリーペーパーが常にたくさん置いてある場所となると、「面白そうだからそこに行ってみよう」といった流れから、新しいベクトルが生まれますよね。これは結構大きいことだと思っていて。フリーペーパーの裾野を広げていきたくて、ずっと続けています。
――お店で実際に手に取れる、最大の強みは何だと思いますか。
親交を深めたい人がいるとき、会ったほうが圧倒的に早く距離が縮まるじゃないですか。それと一緒で、本も深く入りこみたいとか、これを知っていきたいという気持ちがあるなら、オンラインで見るよりも手に取って読んだほうが情報量や濃度が圧倒的に違うんですよね。
たとえば、写真集だと色の発光の工夫やちょっとしたニュアンスをこだわって作る人が多いので、実際に手に取るほうがグッとくる。微々たる差でも、自分に影響を与えることって結構あります。そういうところが、フィジカルのメディアは面白いと思いますね。
それぞれの思いを乗せた「ONLY FREE PAPER」を全国に
――オンラインとフィジカルメディアの違いについて言及されていましたが、「紙」媒体だからこそ与えられるインパクトは他に何かありますか?
感情に直接訴える強さがあります。例えば、発酵について私がフリーペーパーを出したいと思ったとします。しかし、別に発酵の「情報」を伝えたいわけじゃないんです。発酵が好きすぎて、もうどうしようもなくて、この思いを一人で抱えられなくなったときに、「この感じわかってよ」と出すのがフリーペーパーなのかなと。情報が有益だろうが無益だろうが、どっちでもいいんです。それよりも、試行錯誤して企画したことや、デザインのソフトを勉強してとりあえず形にしたとか、作る過程のすべてが読者にグッとくるポイントなんです。
情報より、感情的なものというか。オンラインだと感情的なものを伝えるのは難しくて、手に取らないとなかなか伝わりません。人間に感情がある限り、紙も生き続けると思います。
――最後に、ONLY FREE PAPERが目指す今後の展開について教えてください。
今は東京と名古屋にしか店舗がないのですが、他の地域へも展開できるようすでに仕掛けています。コミュニティを生んだり、その地域を耕したりする機能がフリーペーパーにはあると思っていて。フリーペーパーが本屋にある状況を作りたいという人たちが、それぞれの「ONLY FREE PAPER」を展開していけるよう今動いている最中です。
具体的には、山口県や長崎県でもうすぐ始まります。まずはその場所で、関係人口を増やしていきたいですね。小さい輪がどんどんどんどん広がって、結果的にすごく大きな輪になっていくのが理想かなと。最終的には都道府県に1カ所ずつあったらいいですね。
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