XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年9月28日から10月1日の放送では、韓国文学の翻訳書籍を出版しているクオンのCXについて紹介した。小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が発行部数20万部超え、エッセー『私は私のままで生きることにした』が40万部超えなど、話題作が多く生まれている。この流行が始まる前から、韓国の書籍を日本に届けているのがクオンである。
放送では、同社社長の金承福(キム・スンボク)氏に、出版社を立ち上げたきっかけや本屋の運営に込めた思い、現在の韓国文学ブームの背景などについて語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
きっかけは「日本で韓国の本を出版したい」という思い
――最初に、キムさんがクオンを立ち上げたきっかけを教えていただけますか?
幼少期から文学が好きで、韓国文学はもちろん日本文学もよく読んでいました。大学を卒業後、1991年に日本の大学に留学しましたが、書店に行って気づいたのは、韓国文学を翻訳した本がほとんどなかったことです。韓国人作家の作品を、日本の若い方々は知らない。それは「とても残念だな」と感じ、韓国文学を自分で訳して友人に見せていました。
さらに「これを本にしたらもっと多くの人に読んでもらえるのでは?」と妄想して、出版社を何社か訪問したのですが、1件も実現せず……。しかし、あるとき懇意にしていた編集者に「翻訳出版ならキムさんにもできるじゃない」と言われて。だったら「私が会社を作って、自分で出版すればいいんじゃないか」と考えて、2007年にクオンを立ち上げました。
―—クオンでは韓国の本を翻訳出版するだけでなく、韓国と日本の本や出版社をつなぐ仲介業も行っています。これまで数々の本を手がけてきた中で、一番印象深い作品は何でしたか?
2011年にクオンで出版した、ハン・ガン著の『菜食主義者』です。私はいつも出版したい本のリストを作成し、その順番を常時入れ替えているのですが、一番はずっと『菜食主義者』でした。そして、実際に「新しい韓国文学シリーズ」の一冊目として出版したんです。
『菜食主義者』は大ヒットし、本を出した1カ月後には、だいたいの新聞に書評が掲載されるほどでした。「1冊の本が与えてくれた、新たなワールド」というポジティブな紹介のされ方をしていただいたのが印象に残っています。私にとって絶対に忘れられない作品です。
読者に直接会いたくて、神保町に本屋「CHEKCCORI」を開店
――クオンは韓国文学を身近に感じられる場として、神保町の本屋「CHEKCCORI」を運営しています。本屋を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
出版社は基本的に、書店を通して読者に本を届けています。最近は本の感想をSNSに載せる読者も増えましたが、どんな方がクオンの本を買って読んでいるのかは分からないんです。そのため、新刊を出すたびに韓国人の作家を呼んでイベントを開催したり、読書会を開いたりとさまざまな催し物を行って、読者との接点を持つようにしていました。
ただ自分が本屋さんを持てば、直接読者に会って声を聞けるし、いつでもイベントを開ける場所が手に入ります。そんな理由から、神保町に本屋を作ることにしました。翻訳者や作家のトークイベント、韓国文化の講習会などを週2〜3回、年間100回ほどは開催しました。
――イベントを積極的に開催されていた中でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大が進みました。コロナ禍では、どのようにイベント運営されていたのですか?
オンラインでの開催にシフトしていきましたね。CHEKCCORIは東京にあるので、地方の人たちはあまりアクセスできません。そのため、イベントのオンライン化は以前から考えていました。その最中にコロナ禍になったので、移行は比較的早かったです。
まずは私たちやお客様がオンラインに慣れるために、無料で何回か開催しました。そのうち私たちも運営に慣れ、常連のお客様もついてきて、80人規模のイベントも開催できるようになりました。そのため、現在は無料から有料に移行しているものもあります。
——特に大盛況だったオンラインイベントは何でしたか?
韓国ドラマ『愛の不時着』に関するイベントです。日本で大ブームになる前に、ファンミーティングのMCも担当したことで有名なYumiさんを呼んで、『愛の不時着』について語る会をやりました。有料でしたが、定員の50人はすぐに埋まりましたね。
その後も「お前が語るな!『愛の不時着』~ キタメシとOSTでお腹いっぱい ~」と題して、コリアン・フード・コラムニストの八田靖史さん、音楽ライターのまつもとたくおさんを呼んでトークイベントを開催しました。これも大盛況で、定員の80人はすぐに満席になりました。
韓国文学を広める約10年間の地道な活動が実を結びつつある
――韓国文学を身近に感じられる場としてCHEKCCORIのお話を聞いてきましたが、他の本屋における韓国書籍の扱いはどのように変わりましたか?
『菜食主義者』の出版で営業していた2011年頃は、本屋に韓国文学コーナーはなくて、アジア文学コーナーや中国文学コーナーに置いてもらっていました。
しかし、現在は韓国の書籍を出版する企業が増えたことで、状況は変化しました。韓国文学コーナーや特別コーナーなどを設けて、「韓国文学フェア」などを開催する書店が非常に増えています。本屋に韓国の本が並ぶ姿を夢に見ていたので、現実になって嬉しいですね。
韓国の翻訳書籍があまり書店にない状況を打開し、さまざまな出版社が韓国の本を出すような環境を作ろうと、2011年に「K-BOOK振興会」を設立しました。まだ翻訳されていない韓国文学の紹介や、ガイドブックの作成、編集者を集めた説明会を開くなどして、韓国文学の良さを伝える活動を続けてきたんです。その成果がある程度実ったと感じています。
――日本でここまで韓国文学が広まったのは、どんな背景があると考えていますか?
やはり「韓流」が流行ったからだと思います。映画やドラマ、K-POP、コスメなど韓国のものに親しんでいる人たちがいて、その流れが文学に到来した感覚です。
これは韓国に日本文化が流入したときと同じ流れだと思います。私は幼いときに日本のアニメやJ-POP、ファッションから、日本を身近に感じるようになりました。最後に村上春樹さんやよしもとばななさんの文学作品を読んで、私は日本文学が好きになったんです。
韓国と日本、編集者と読者をつなぐイベントを毎年開催
――日本の本屋で多くの韓国文学の翻訳書籍が手に取れるようになりました。クオンはこの翻訳者の育成にも取り組んでいるそうですね。
クオンには「韓国文学を翻訳したい」「自分が翻訳したものを見てほしい」という連絡が、毎日のように来ます。そこで、2017年から毎年「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」を開催しています。毎年多くの応募が来ていて、優秀な作品はすぐに書籍化することができます。これはどの出版社もやっていない、ユニークな試みだと思います。
「翻訳スキルを身につけたい」という声も多かったので、今ではスクールも運営していますね。文芸翻訳やビジネス翻訳、ノンフィクション翻訳などジャンルごとに学ぶことができます。ここで勉強して翻訳者になった方は、クオンだけではなく他の出版社さんにも紹介しているので、韓国文学が翻訳出版される機会を増やせているのではないかと考えています。
——最後に、今後注力していきたいことを教えてください。
昨年から、「K-BOOKフェスティバル」というイベントを開催しています。2020年は11月28日~29日の2日間、オンライン開催することにしました。「韓国文学界のBTS」と呼ばれるビッグスターや、日本で一番売れている韓国人エッセイストをゲストに読んでいます。また、韓国の作家やミュージシャンに生出演してもらったり、韓国と日本の作家やアーティストの対談も実施したりする予定なので、ぜひ期待してほしいです。
このイベントは、「出版社の編集者と読者が直接出会う」ということをテーマにしているので、どういう思いで本を作ったのかを編集者が直接プレゼンテーションする機会もあります。クイズ大会もあるので、プレゼントが当たるかもしれません!そんな盛りだくさんの楽しいイベントなので、ぜひ多くの方に参加していただけたら嬉しいですね。
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