XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年8月16日から8月19日の放送では、自分自身と向き合う時間が過ごせる場所「自由丁」が届けるCXを紹介した。蔵前にある同店は、未来の自分に手紙が書ける場所であり、考えごとや悩みごとが自由にできる場所だ。
放送では、自由丁オーナーの小山将平氏に、自由丁を作った経緯やその場所でできる体験、また自由丁の今後の展望についても語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
未来の自分に向けて手紙を書くことでポジティブな気持ちを届ける
――「自由丁」という場所を作ったきっかけを教えてください。
私は、どんな時でも自分と向き合うのはとても大事なことだと思っています。しかし社会には「自分と向き合っていいですよ」と言ってくれるサービスや場所がなく、それが私自身生きていく上で、とてもつらかったんですよね。
そうした時に、自分で書いたメモや文章に勇気づけられた経験がありました。過去の自分が書いた言葉たちのおかげで、もしかしたら今自分が悩んでいることも、未来の自分はもうとっくに解決して、忘れているかもしれない。そしてきっとまた違うことで悩み始めているかもしれないな、と思えたんですよね。
そんな風に未来を捉え、自分自身と向き合える時間や機会を提供する場所があったなら、もう少し世界は平和になるのではないか。そんな想いから「自由丁」を作りました。
多くの人は、今の自分が未来でも同じ状態であると想像しがちです。また、未来の自分を過小評価していることも多い。しかし例え何か新しいことができるようになっていなかったとしても、時間を費やし、色んな経験をし、変化して成長している部分もあるはず。そんな風に未来を少しでもポジティブに考えられる場所に自由丁がなれたらと思っています。
―― 現在は店舗をかまえていますが、最初はWebサービスから始まったそうですね。
はい、もともとは「TOMOSHIBI POST」というWebサービスから始まりました。未来の自分自身に向けてつづったメッセージをWeb上のポストに投函すると、希望の日付けに合わせて手紙が届くというサービスです。それから実際に送れるレターセット「TOMOSHIBI LETTER」の販売を開始し、その後に店舗ができました。
「TOMOSHIBI POST」や「TOMOSHIBI LETTER」の名前にある「TOMOSHIBI」とは「火」のことを指しており、未来の自分に手紙を書くということが不透明な未来に対して明かりを灯せるようにと、コンセプトには「未来を、照らそう」と置いています。
未来の自分に向けて書くということをポジティブな行為として、TOMOSHIBI POSTやTOMOSHIBI LETTERをご利用下さる人や自由丁を訪れた人が、書くことによって「これから何か頑張ってみようかな」と少しでも明るく未来のことを思ってもらえたら、私としてはとても嬉しく思います。
文化を育む店作りをするために蔵前を選ぶ
――どうして蔵前という場所にお店をオープンしたのでしょうか?
自分がユーザーに届けたいものは体験や時間だったので、それらを届けるためには「空間を作ることが一番だ」という結論に至りました。例えばWebのサービスだけは画面の中を最適化することしかできなくて。体験の解像度を高めるにはWEBだけではなく、やはり空間をつくらないとな、と思ったんです。
また一時のブームにはしたくなかったので、場所としては「ものづくりの町」と呼ばれる蔵前を選びました。蔵前ももちろん変化していますし、新しいお店も増えています。しかし個人の店が多く、長くコツコツと営んでいる人が非常に多い。それこそWebのサービスとは比べ物にならないくらい、桁違いに作ること、営むことに対する考え方のスパンが長いと感じ、文化を育みたいと思っていた自分にとっては「ここが最適だ」と思いましたね。
――店内では、お客さんが書いた手紙を一部見ることができるそうですね。その手紙からはどのような体験が生まれているのか、教えてください。
店内に展示している手紙は、以前「過去の自分へ言えることがあるとしたら何を言いますか」というお題で行ったワークショップやイベントで作られたものたちです。例えば、「二十歳の時の自分に」というテーマで書いた手紙もあります。
もちろん、書いた手紙は当然過去の自分には届きません。ここでやりたいこととしては、過去の自分と同じような境遇だった人に向けて、手紙が届けばいいなと思っていて。例えば「二十歳の自分へ」という手紙を書いた人がいたとして、別の日に実際に二十歳の人が自由丁に来た時に、その手紙を読んで何かしら感じてくれたり、刺激を受けたり、考えが生まれたりするかもしれません。
書き手にとっては、それが例えどのような過去であったとしても、誰かにとって何かしらの価値が生まれる。また読み手にとっても同様、何かしらの価値が生まれますよね。そうやって、どんな過去も誰かにとって価値が生まれるんだということをこの企画を通じて実現してみたかったんです。
孤独な体験をみんなで共有する場所でもある
――お店にある本棚も、普通の本屋とは異なる体験ができそうです。どのようなものなのか教えてください。
「繋がる本棚」と呼んでいて、簡単に説明すると、自分の持ってきた本と置いてある本を交換できる本棚です。交換代は1回550円。本を置いてくときには、なるべく次に読む方へのお手紙を書いて、挟んでもらっています。
お店側では本の交換の記録を取っているので、いつかWebで繋がりが見えるようになったらいいなと思っています。自分が本を置いたら、それが誰かに渡って違う本になる。さらに本を介して人も繋がっていく。そういう繋がりが見えるようになったら、読書という孤独な体験が、よい孤独な状態でありつつも、人と繋がっていけるものになるのではと思います。
――サービスによって、自由丁はどのような顧客体験を生んでいるのでしょうか?
私たちが提供しているサービスは基本的には“孤独な体験”なんです。例えば「TOMOSHIBI LETTER」に関して言うと、未来の自分に手紙を書くことは自分との対話で、孤独な行為ですよね。「繋がる本棚」に関しても、読書は基本一人で完結する行為です。
しかしその孤独な体験でも、他者を思ったり、他者と何かを共有したり、繋がったりするようにアレンジしているのが、自由丁の体験とも言えます。
例えば未来の自分にお手紙を書くという体験にも、レターセットの中に、誰か宛の普通のポストカードも入れています。未来の自分に手紙を書く時は、自然と身近な誰かを想像したり、友人や家族のことを考えたりするんですよね。その時に思い浮かんだ友人や家族には、そこで一緒に手紙を書いてもらえたら嬉しいなと密かに思っています。
手紙が書く機会が減ったからこそ、楽しい体験となる
――手紙をつづることとは、どういう体験だと思いますか?
人々が日々の中で自分の素直な気持ちを表現することが、難しいことでも特別なことでもないと思えるようになって欲しくて。それを実現するための方法として手紙は存在しているんです。
手紙を書くことが当たり前ではなくなった時代だからこそ、手紙を書く価値はより高まっていると思います。そういう意味では、自由丁に来て手紙を書くという行為は、現代においてある意味特殊で特別な、楽しい体験の一つなのではないかと思っています。
手紙を書く際に、ある人は言葉を書くかもしれないし、ある人は絵を描くかもしれない。写真や絵はがきなどもあり得ます。言葉に限らず「素直な気持ちに形を与えてあげたもの」を手紙と定義するならば、手紙の良さはこれからの時代にも受け継がれていき、新しい形で浸透していったら嬉しいですね。
――最後に、これからの自由丁のビジョンについて教えてください。
「自由丁」の丁は、町という意味を込めて「〇丁目」に使われる「丁」という字を使用しています。これからも「素直な気持ちを表現すること」「自分と向き合う時間を持つこと」が文化として浸透している優しい町をイメージしながら、いろんなものを作っていきたいです。
世の中に対しては、私たちは境界線を増やす側ではなく、なるべく減らす側でいたいと思っています。町を歩いている時に「どこからが蔵前で、どこからが浅草」などと町の境界線はあまり意識しません。歩いているうちに自ずと町は変わっていくもので、出入りも自由です。来たかったら来ればいいし、とどまりたかったらとどまればいい。誰に許可を取るものでもありません。
境界線をはっきりと作るのではなく、一人ひとりのペースに合わせて行き来できるような、自分にとって過ごしやすい「町」のような環境があることが、人間が自然体で生きるために必要なことだと思うんです。なので今後も「町」というメタファーで物事を捉えながら、自由丁というブランドを育てていけたらと思っています。
KARTE CX VOXの過去の配信は、Spotify、Apple Podcasts、Google Podcastsのほか、「ラジオクラウド」のアプリから聞くことができます。ラジオクラウドはアプリをダウンロードの上、こちらのリンクもしくは、アプリ内で「KARTE CX VOX」と検索してください。