XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年10月4日から10月7日の放送では、青山にある靴磨き専門店「Brift H(ブリフトアッシュ)」のCXを紹介した。バーのようなカウンターで、顧客の目の前で靴を磨くスタイルをとっている同店。代表の長谷川裕氏は2017年に初開催された靴磨き職人の世界大会で優勝し、世界チャンピオンになった人物だ。
放送では、長谷川氏にカウンターで靴磨きをすることになった経緯やコロナ禍の顧客体験の変化、今後の展開について伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
お客様からの「かっこ悪いね」という言葉がお店のスタイルを決めるきっかけに
――バーのようなカウンターで靴を磨くスタイルになった経緯を教えてください。
以前、私が路上で靴磨きをしていたときに訪れたあるお客様の一言がきっかけです。私が小さい椅子に座って、かがみながら靴を磨いている姿を見て「かっこ悪いね」とおっしゃったんです。おしゃれに気を遣っているつもりだったので驚きました。
お客様が言った言葉の真意を知りたくて、「なにがかっこ悪いと感じますか」と聞いたんです。そうしたら、「小さくしゃがんで磨いているのがかっこ悪い」と言われました。続けて、「美容師のように、お客様と同じか高い目線で靴磨きをすれば職人の地位も上がるのではないか」とアドバイスもいただきました。
ちょうど百貨店から靴磨きイベントの依頼があったので、担当者の方に「バーテンダーのように、スーツを着て立って靴磨きをしたい」とお伝えしました。その意図を汲んでいただき、会場にカウンターを用意してもらいました。イベント中はスーツを着てお客様の目の前で靴を磨いたんです。大変好評だったので、そのスタイルがそのまま定着しました。
――お店の名前「Brift H」にはどのような思いが込められているのでしょうか。
「Brift(ブリフト)」は、私たちがつくった「靴磨き」という意味の造語です。“輝かす”は英語だと「brighten(ブライテン)」。それに“靴”という意味の「footwear(フットウェア)」を掛け合わせました。
「H(アッシュ)」 は、英語の発音ではなくフランス語読みです。この「H」は様々な意味を含んでいます。例えば、靴磨きは手を使って行うので「Hand」のH。壊れた靴を直す病院のような役割も担っているので「Hospital」を表すH、私の名前「長谷川」の頭文字でもあります。
また疲れた靴が癒される家「Home」のような存在でありたいという思いや、お客様を幸せ「Happy」にしたい気持ちなど、色々な「H」を叶えたいという思いが込められています。
靴磨きをショーのような驚きがある体験にしたい
――来店するお客様からはどのような反応がありますか。
私たちは一足ごと、一時間くらいかけて磨き上げていくのですが、みるみるうちに輝きを増していく靴の変化に感動される方が多いですね。まずはクリーナーを使って靴の汚れを丁寧に取り除く。クリームなどで栄養補給していくと革が潤ってもちもちしてきます。最後にはピカピカと光る靴に仕上げます。ある種、靴磨きショーのような体験をしていただけているんじゃないかなと思います。
あとは普段、自分の靴をまじまじと見る機会が少ないので、靴底の減り具合や意外なところに傷があることに驚く方もいらっしゃいますね。
――どのような方が靴を磨きに来店されるのでしょうか。
自分の靴を磨きに来る方はもちろん、靴磨きをプレゼントされて来る方も多いんです。例えば、誕生日プレゼントや昇進祝いなどです。お祝いごとをきっかけに靴磨きの体験を楽しんでいただいています。
――オープン当初から靴磨きをプレゼントにされる方は多かったですか。
プレゼント需要が増えたのは、オープンして3年ぐらいたってからです。友達や会社の後輩に「おごるから、靴磨きをしにいこうか」と来店される方が多かったので、ギフトカードを作りました。プレゼントしやすいように、靴磨き一回分のチケットを可愛いカードにしました。
靴磨き世界大会に出場し、他国の色づかい技術の高さを知る
――長谷川さんは第一回靴磨き世界選手権で優勝されている経歴をお持ちです。この大会について教えてください。
この大会には、世界中どこからでもエントリーができます。そして、選考を経た選ばれた人だけがロンドンで行われる決勝大会に参加できます。
大会では新品の靴の片足を20分かけて磨きます。自分が使っている布などは持っていけるのですが、使う道具は決められているんです。
評価基準は、靴を磨いた際の光沢感、その光沢感のバランス、所作。これら3つのポイントで見たときに、総合点の高かった人が優勝者となります。
――世界各国から集まった靴磨き職人と競うわけですが、大会に参加するなかでなにか発見はありましたか。
世界には様々な靴磨き職人がいるんです。革靴はヨーロッパが本場なので、ヨーロッパやアメリカの方が多かったり、南米だと子どもが靴磨きをしていたりします。
様々な職人がいるなかでも日本人は、オタク気質、追求していく特性があると思っています。そのため日本の職人は、靴磨きの世界でもずば抜けて技術の高い人が多いですね。
ただヨーロッパの方々、例えばフランス人やイタリア人は色の感覚がとても豊かなんです。芸術的な磨き方にたけている。靴を美しく光らせるのは日本人が得意とすることですが、色のニュアンスを出すのはヨーロッパの職人の方が優れているなと感じました。
靴磨道の家元となり、日本発の靴磨きを世界中に広めたい
――コロナ禍でお店への影響や変化はなにかありましたか。
私たちはECショップも運営しているのですが、最初の緊急事態宣言が出たとき、オリジナルの靴磨き商品がよく売れました。おそらく、自宅で自分の靴を磨く方が増えたんだと思います。
InstagramなどのSNSで投稿された靴の写真を見ると、皆さんどんどん上手くなっていくんです。鏡のように輝かせる「鏡面磨き」をされている人がいたり、色を入れたりしている人もいました。
来店してくれるお客様のなかには「最近、靴磨きを始めたんです」「なかなか上手くできなくて」と、話してくださる方もいます。靴磨きを、始めたばかりの習いごとのように捉えている方が多いと感じました。
――最後に、長谷川さんが考える今後のビジョンについて教えてください。
私はあと3年で靴磨き職人を引退すると宣言しています。引退後は茶道や華道のように、「靴磨道」と書いて“くみどう”と呼ぶ道を作っていきたいと考えているんです。自分が家元となり稽古を行いながら、日本発の靴磨きを世界中に芸術的なものとして広めていきたいです。
靴を磨いている時間を豊かなだと感じる方もいるんです。靴磨きが靴を磨くためだけではなく、自分を磨いたり、精神統一のひとつになったりしているのではないかと感じています。
お客様にはよく「足元に輝きが出ると、人生の角度がちょっと変わる」と言っていただけます。歩き方も変わって、背筋もシャキッと伸びて、目線が上がるんです。すると、人生に対してポジティブになれるなと思っています。きれいな靴を履くだけで気分が良くなったり、元気になったりする体験は、一度してみないとわからない。この体験をもっと広めていければと考えています。
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