SNSを通じた情報の発信・収集は、もはや私たちの生活の一部だ。
同時に、SNSを通したブランドや企業が行う発信は、顧客にとってもっとも身近な情報接点ともいえる。それに合わせ、数多くの企業が、SNSで活発に情報発信を行い顧客と接点を持ち、関係性を構築しようと努力を重ねている。
2018年9月4日に虎ノ門ヒルズで開催された、CXについて学び、考えるイベント「CX DIVE」では、「フォロワーの体験を考えた情報発信」というテーマのもと日本有数のインフルエンサーとして知られる株式会社KOSの“ゆうこす”こと、菅本裕子氏によるセッションが行われた。
Twitter、Instagram、YouTube、LINE LIVEなど多様なタッチポイントを活用し、2018年9月時点でSNSの総フォロワー数が150万人を超える彼女は、フォロワーをどのように惹きつけているのか。その情報発信の裏側を紐解いていく。
“一冊の本”のようにアカウントを作る
2011年から地元福岡を中心に活動するアイドルグループHKT48に所属し、看板メンバーとして活躍していた菅本氏。“アイドル”という肩書きに疲れて1年でグループを離れ、お料理タレントとして芸能活動を再始動した。しかし、当初は自主開催したイベントに集まるファンは片手で数えるほどしかいなかったという。
その後、自分の売り出しかたを模索する中で、彼女に再びスポットライトが当たったのは“モテクリエイター”という言葉を肩書きに、SNSでの発信を活発化したのがきっかけだった。そこから怒濤の勢いで人気と認知を広め、全SNSの総フォロワー150万人の獲得にまでいたった。
150万という数字は、彼女がこれまでに獲得した「信頼」の数でもある。それを実現できたのは、菅本氏がフォロワーの体験を考慮した情報発信を実践してきたからに他ならない。
セッションの前半では、その第一歩として「フォロワーを獲得するためのアカウント作り」について語られた。価値ある情報をどれだけ発信していても、フォローしてもらえなければ意味がない。
菅本氏いわく、フォロワーを獲得するために、自分を本に例えたアカウント作りが欠かせないという。
菅本「SNSの世界は、自分のことをどこで知ってもらえるかわかりにくいんですよね。アカウントを複数持っている場合は特にそうです。だからこそ、どのSNSにおいても“自分が何者であるか”を簡単に理解してもらう必要があります。何者かを理解してもらうために私が大切にしているのは、SNSのアカウントを“本”のように作っていくことです」
一冊の本を作り上げるときに大切な要素として、菅本氏は「タイトル」「帯文」「ターゲット層」「内容」「読者の声」の5点を列挙した。
菅本「タイトルは自分の肩書き、帯文はフォロワーに提供するメリットのことです。ターゲット層というのは、メインフォロワーに合わせたデザインや文体。内容は投稿内容、読者の声はフォロワーの意見(コメントやツイートなど)が当てはまります。
これらがアカウントを見たらすぐわかるようにしておくことで、読み手がアカウントの素性を短時間で知ることができます。相手に理解の手間をかけさせず、自分のことを知ってもらう。これがはじめの一歩だと思います」
フォロワーの「グループ」に応じ、SNSを使い分ける
Twitter、Instagram、YouTube、LINE LIVEなど、菅本氏は実に多くのSNSを活用している。一見すると、手当たり次第にさまざまなツールを試しているかのようにも見えるが、これも彼女の戦略の一つだという。
菅本「たくさんのツールを使うのは、フォロワーの“グループ分け”をしているからです。そのグループに応じて、SNSを使い分けています。それぞれのフォロワーにとって居心地のよい環境を作り上げる。そうすることで、発信した情報の拡散率が上がるんです」
菅本氏の場合は、フォロワーを以下の4つにグループ分けし、それぞれに応じてメインで活用するSNSを変えている。
1つ目が「フォローしている」、2つ目が「毎回、SNSの投稿に反応(いいね・コメント)してくれる」、3つ目が「ブログやライブ配信を見てくれる」、最後の4つ目が「時間やお金を使ってくれる」だ。
グループに応じて、SNSも使い分ける。最初にフォロワーとなるのはYouTubeなどが多いが、徐々にTwitterやInstagramへ移り、時間が経過するとブログや生配信も見に来てくれるようになるという。1つ目から4つ目へシフトするほど、ファンはよりエンゲージメントが高い状態へと変化している。
求める情報のボリュームや粒度はグループに応じて異なる。情報発信に対するニーズを適切に理解し、それぞれの求めるものに合わせて、メッセージング内容や、チャネルを使い分けることが必要だと菅本氏は考える。
菅本「どこかしらのチャネルで新しく関心を持って頂いたフォロワーには、私の発信する情報のファンになってもらうように、短期間でどんどん更新させていくTwitterやInstagramで継続的な関係を築いていきます。
そこでファンになってもらった方には、ブログ・生配信などで、中学時代の恋愛ネタなど自分のことをさらけ出した、身内度の高い情報を発信します。自分のことをさらけ出すことで、コアなファンがさらにコアになってくれるんです」
顧客体験を考えたライブコマースの価値
セッションの終盤では菅本氏が今後力を入れようとしている「ライブコマース」へと話題が移った。
菅本氏自身ライブコマースで大きな成果を上げてきた第一人者的存在でもありつつ、自身の事業として2年前ほど前から「TaVision」というライブコマースサービスも提供している。顧客に提供する体験価値の大きさから、彼女はこの領域を重要視しているという。
菅本「ライブコマースの最大の価値は、購入者の不安をその場で解消できることだと思います。ECサイトだけでは伝わりにくい情報もリアルに共有することで、購入者の不安を取り除くことができるんです」
店舗に買いに行くのとは異なり、ライブコマースは決まった時間にライブ配信を見続ける必要がある。菅本氏はこのハードルを乗り越えるほどのメリットを提供し、ライブコマースを顧客にとって、より価値の高い体験に押し上げることが必要だと考える。
菅本「配信者と視聴者のコメントを通じたコミュニケーションはライブコマースにとって欠かせません。顧客にも参加してもらい、一緒に配信を盛り上げるような体験を提供することで、視聴ではなく“参加”してもらうんです。
また、数量限定や限定カラーなど、ライブ配信でしか手に入らないバリューを提供することも必要でしょう。体験や限定など、商品に“付加価値”をつけることで、ライブで買う意味が今後のライブコマースでは求められてくると思っています」
徹底されたSNS戦略の裏側に見える、揺るぎない「フォロワーファースト」の姿勢。それを証明するかのように、イベントの冒頭で彼女はオーディエンスにこう呼びかけていた。
菅本「あとからみなさんの感想が分かるように、『#ゆうこすCXDIVE』という独自のハッシュタグを作ってきちゃいました。このタグをつけてツイートしてくださるとすごく嬉しいです」
SNSを活用しながら、フォロワー(顧客)の意見を集め、振り返り、次回の情報発信に生かす。その繰り返しこそがフォロワーの体験に還元されると、彼女は信じている。
菅本氏が実践しているような“CXを考えた熱量のある情報発信”は、今後さまざまなSNSツールが発達するに伴い、より重要視されていくのではないだろうか。