XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年9月7日から10日の放送では、ワコールが2019年にサービスを開始した「3D smart & try」のCXを紹介した。無人の3Dボディスキャナーで体を立体的に計測し、接客AIのサポートでインナーウェアを選べるこのサービス。販売員の手による採寸という常識を覆すとともに、「パーソナライズされたインナーウェア選び」という新しい価値も提供している。
放送では、同社執行役員 総合企画室イノベーション事業推進部部長の下山廣氏に、「3D smart & try」を開発したきっかけやお客様の反応、今後の展開などを語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
下着選びをもっと自由でストレスレスにしたいお客様の声
――最初に、「3D smart & try」とはどのようなサービスなのか教えてください。
3Dボディスキャナーと接客AIという2つの仕組みを使って、採寸からインナーサイズの特定、商品選び、試着、そして購買といったフローを、お客様自身で行えるサービスです。お客様が希望される場合は、ワコールの販売員がカウンセリングに入ることもできます。
インナーウェア売り場では、販売員が試着室に入ってサイズを測ったり、フィッティングのお手伝いをするのが一般的でした。しかし「販売員に体のサイズを測ってもらったり、相談したりするのが恥ずかしい」というお客様の声も少なからずあったため、すべてご自身で完結できるような自由でストレスレスなサービスとして提供し始めました。
―—3Dボディスキャナーと接客AIは、どのような仕組みになっているのですか?
3Dボディスキャナーは5秒でお客様の体を計測します。計測された約150万点の点群から、点と点の間の距離から求められるサイズだけでなく、体積(バストのボリューム)や胴の形状など、体型の特徴まで正確に計測できます。下着は体を包むものなので、バストや体積などの測定が重要だと考えました。
さらに接客AIは、お客様の悩みや商品の要望などを伺い、蓄積されたサイズデータと照らし合わせて、お客様に合う商品を提案してくれます。この接客AIによって、販売員ではなくAIに聞くという選択もできるようになりました。
買うだけでない、「自分を知る」ことに価値を感じていただいた
――「3D smart & try」のリリース後、お客様からはどのような反響がありましたか?
サービスリリース後の2019年4月、表参道に期間限定のポップアップショップをオープンしました。ここにはあえて商品を置かず、「3D smart & try」だけを設置したのですが、驚いたことにオープン翌日から、毎朝約30人の方がお店が開くのを待ってくれていたんです。
今までは「インナーウェアを売ること=サービス」だと考えていたのですが、実は「自分のことを知る」という価値もお客様が求めているということが分かりました。
また、ローンチ後も採寸結果をSNSに投稿、拡散されるお客様も多く、そのイキイキとしたリアクションにも驚きました。リアル店舗で築いてきたお客様との接点を大切にしながら、デジタル投資も積極的に行い、提供できる価値を広げられてよかったと思います。
――店舗作りをする上で、工夫されたことを教えてください。
今回こだわりがあって、理想的な数値や平均の数値を一切お客様に提示していないんですね。サイズを測ると、どうしても「理想とするサイズはこうですよ」「平均的な数字はこうですよ」といった言葉を押し付けがちですが、それをしませんでした。
なぜなら、美しさというのは、正解がなくて、お客様それぞれが考える美しさが正解だと思うからです。そのお客様自身が考える美しさを大切にしていただきたい。こういった姿勢も好評をいただいた要因になったと感じています。
「必要な無駄話」は、販売員の接客でしか生み出せない
――「3D smart & try」を導入したことで、販売や接客の仕方には変化がありましたか?
インナーウェアの販売員は日頃から、各人の経験値に基づいて、ベストな商品をお客様に提案しています。ただ、販売員の経験や考え方によって結果的にオススメする商品が左右されるのも事実です。
「3D smart & try」を活用することで、販売員の経験値だけでなく、データを掛け合わせて提案できるようになったのは、お客様にとってプラスになると考えています。AIによるリコメンドは、従来の販売員の経験によるオススメにはなかった、新しい満足感や納得感を提供していく部分もあると思います。また、販売員自身もAIのリコメンドから新たな発見があると聞いています。
――データがあることによって、販売員の学びにもつながるんですね。
はい。デジタルを追及していく結果、人にしかできないことが残っていくのを学びました。以前、開発段階の「3D smart & try」を販売員に見せたとき、販売員から「すばらしい。この3Dデータがあれば、私たちのカウンセリングの質が上げられる」と言われたんです。
今までは、お客様との会話の中で、商品の情報を一方的に伝えがちだった。しかし、「3D smart & try」で得たデータがあれば、販売員はお客様のニーズや思いを受け取ったカウンセリングにより集中することができます。私は「必要な無駄話」と言っているのですが、会話や相談、笑いなどゆとりあるコミュニケーションは人間にしかできないことだと思います。販売員は会話を通して、お客様に寄り添うことがより徹底できるようになりましたね。
3Dボディデータが新たな美や健康のプラットフォームになる
――「3D smart & try」の可能性は、今後どのように広がっていくのでしょうか。
「3D smart & try」は、スキャンによるサイズ測定のみならず、お客様の希望や意思を聞き、体型を分析する機能がセットされているものなので。それらの可能性を感じていただき、さまざまな企業からオファーをもらっています。この仕組みは、インナーウェア以外にも応用可能です。例えばアウター販売店舗では、似合うアウターのルールを掛け合わせることで、お客様にあった商品選びをサポートできるでしょう。
近年は多くの企業がさまざまな個人情報を集めるようになりましたが、その情報は基本的に企業側がお客様と接点を持つためのデータとなっています。しかし3Dボディデータは、お客様自身が必要としているデータなんです。データの性質が違うからこそ、インナーウェアに留まらず、「新しい美や健康のプラットフォーム」になる可能性を感じています。
――「3D smart & try」を含めて私たちの購買体験が変化していく中、ワコールとして今後どのような展開を考えているか教えてください。
インナーウェアは、人の生活を支える役割があると考えています。お客様の日々の生活に密着しているものであれば、一人ひとりに合った、パーソナライズされた商品やサービスを届けることがより重要になってくると思います。ワコールとして、一人ひとりのお客様に深く、広く、長く寄り添っていきたいと考えています。
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