ワンセグ、着うた、赤外線通信――。「ガラケー」を使ったことがある世代にとっては、どれも懐かしいと感じる携帯電話の機能だ。しかし、当たり前のように使っていたこれらの機能は、スマートフォンの登場によって一変してしまった。
テクノロジーの発達や多くの選択肢が生まれたことによって、消費者の生活は日々変化している。それに伴いトレンドも変わる中で、企業は消費者とどう向きあえばいいのだろうか。
英国に本社を構える市場調査会社のEuromonitor International(以下、ユーロモニターインターナショナル)は、2019年における世界の消費者トレンドTOP10を発表した。
このレポートは、消費者の傾向を10個のカテゴリーに分けて解説している。2018年のトレンドもXDでは紹介したが、今回もまた新しいキーワードが浮かび上がってきた。
本記事では、10個のキーワードが何を示すのか、レポートを参照しながらまとめていく。
年齢にとらわれない(Age Agnostic)
他者から年寄り扱いされることを嫌い、常にありのままの自分でいたい「年齢にとらわれない」消費者たちが出現しているという。これは、特にベビーブーマー世代(54歳〜74歳)に見られる特徴だそうだ。
「ユーロモニターインターナショナル消費者サーベイ2017」によると彼らの35%が「人生を謳歌したいと思っており、将来も心配していない」と回答。これはジェネレーションZ世代(6歳〜22歳)よりも高く、ミレニアル世代(23歳〜37歳)の38%に近い数字だ。
彼らはミレニアル世代と同様に、最新のデバイスやアプリへの関心が高く、テクノロジーの変化にも敏感だ。心と体を若く保つために役立つ製品やサービスを求めているという。
企業が「年齢にとらわれない」人たちと信頼関係を築くには、彼らを年寄り扱いするのではなく、世代を越えて利用可能な製品、サービスの開発が重要になるだろう。
旅行サービスを提供しているFlight Center NZのサービスチームでリーダーを務めるショーン・ベレンソン氏によると、「成長中の分野として特に人気を集めているのは、オーダーメイドの体験旅行」と語る。贅沢な旅行をする消費者でさえも、自分の内面を変えるような旅を強く望み、個人的な価値観や願望に沿う本格的な体験を追求しているとした。
原点回帰(Back to Basics for Status)
本格的で他とは異なる製品、サービスを求める「原点回帰」の消費者たちが増えている。
グローバライゼーションにより多くの製品がコモディティ化し、あらゆる製品を世界中どこからでも、いつでも低コストで入手できるようになった。2008年の金融危機をきっかけに、過度な規模や速度で成長するリスクも知った先進国の消費者は、量産品やありふれた一般品を拒み、自分の個性を表現できるような差別化された製品や体験を求めているという。
このトレンドに紐づくサービスとして、株式会社ONESTORYが主催する「DINING OUT(ダイニングアウト)」が挙げられる。数日限りの野外レストランと題して、一流のシェフが地域の特産品や歴史文化を反映させたオリジナル料理を考案し、提供するもの。参加費は安価ではないが、募集した途端に売り切れになってしまうほど人気のサービスだ。
意識の高い消費者(Conscious Consumer)
あらゆる場面において動物由来の製品の使用を控えるヴィーガニズム。かつては一部の人々の習慣とみなされていたものが、近年は幅広い人々の身近なものになっているという。ジェニファー・ロペスやマイリー・サイラスなど世界のセレブの支持や、SNSの影響によって、ヴィーガニズムは今や誰もが受け入れやすく、クールな価値観へと変化した。
このような変化を象徴とする「意識の高い消費者」は、自身の消費行動が環境や動物に与える影響を意識し、商品を購入するかどうかを決める。彼らは「世の中の消費主義が地球環境にもたらす悪影響に対抗したい」と考えていると、同調査は指摘している。
今後、自身が購入する製品がどこから、どのように来ているかを確認する人は増加し、環境や社会に配慮する「エシカル」という概念がより注目を集めるかもしれない。
IKEUCHI ORGANIC 株式会社は、「最大限の安全と最小限の環境負荷でテキスタイルをつくるトータルオーガニックライフスタイルカンパニー」を掲げている。行動指針の中には、「KEUCHI ORGANICを知ることは、オーガニックの最新状況を知ることとイコールでありたい」と書かれている。同社はタオルの染色工程において、従来よりも化学薬品の使用とエネルギー消費を抑えたと手法を取っており、その姿勢からファンが年々増えているという。
デジタルにつながる(Digitally Together)
高速なインターネットの実現やデバイスの普及などテクノロジーの発達により、「デジタルにつながる」ことで、可能になることは増えた。高速なインターネットは、中東アフリカやアジアでも広がりを見せ、オンラインに接続する人々の数は世界的に増加している。
SNSは多くの人が日々利用しており、いまだ世界中でユーザー数が増え続けている。プライバシーの課題があるにもかかわらず、自身の活動や現在地、友達などを共有している人は世界全体で45%にのぼり、2015年の38%から7%も上昇したと同調査は記述する。
また、「デジタルにつながる」トレンドが拡大する背景には、オンラインゲームやマッチングアプリなどの普及も一つの大きな要因として挙げられていた。同調査によると、世界中で2億人が毎月マッチングアプリを使用しているという。米国では、3分の1以上がデジタルな出会いをきっかけに結婚しており、その率は今後も上昇していくことが予想されている。
誰もがエキスパート(Everyone’s an Expert)
次に紹介するトレンド「誰もがエキスパート」を牽引するのは、若い頃からインターネットに触れてきた15~40歳くらいのインターネットを使うことに慣れている年齢層だ。
これまで消費者が購買を検討するときは、特定のブランドや情報源を頼りにしなければならなかった。しかし、現在はSNSや口コミサイトといった情報を手に入れられる手段が増え、様々な知識を持ったうえで製品やサービスの利用を検討できる。
このトレンドには、インフルエンサーとそのフォロワーの両方が関わっているという。インフルエンサーは報酬を得て、洋服や化粧品、ホテルなど、あらゆるもののレビューをしている。また、SNSにそれほど熱心ではないフォロワー(消費者)も、購入までのプロセスにおいてさまざまな情報源を利用し製品を調べている。同調査によると、オンラインで情報が入手しやすくなるほど、オンラインでの支出額も増加が続いているという。
つながらない喜びを求めて(The Joy of Misshing Out)
デバイスやSNSの発達により、オフラインとオンラインの時間の境界が曖昧になっている。自分の楽しい体験や意見を発信することを義務のように感じてしまう人もいるだろう。
トレンドの一つである「つながらない喜びを求める」人たちは、オンラインの時間を意図的に断つことで、自分のメンタルヘルスを整えているという。特に、ミレニアル世代はその傾向が強いという。また、彼らはオフラインでのリアルな体験を好む傾向もある。
Wi-Fiを利用できない仕組みを取り入れたカフェは、ランチタイム中に仕事や顧客からの呼び出しを避け、気晴らしをしたいと考える人に好まれているという。着信や通知に邪魔されず何かを楽しめる場所やツールの需要は、国内でも増えていくことが予想される。
日本デジタルデットクス協会が主催するイベント「DIGITAL DETOX JAPAN」 は、「デジタルデトックスを日本に普及すること」を目的に掲げ、定期的に開催されている。デジタルデバイスの使用を禁止し、焚き火と食事を囲み、参加者で会話を楽しむデジタルデトックスは、「つながらない喜びを求める」人たちを癒す体験を提供しているのではないか。
自分のケアは自分でできる(I Can Look After Myself)
病気から部屋の片付けまで自身の抱えている問題を解決したいとき、専門家に相談するのではなく、自ら解決する人たちが増えている。この「自分のケアは自分でできる」というトレンドは、 世の中に蔓延しているファストファッションやお手軽な美容整形、一過性のダイエット方法などに代表される、「衝動的な消費主義」への反発の表れだという。
彼らは、生活をシンプルにする方法を模索しており、日常生活を改善してくれるサービスを求めている。また、誇大広告や著名なブロガー、インフルエンサーによる情報に振り回されることを避け、自分用にパーソナライズ化された製品やサービスを好んで使用している。
イギリスの「Spoon Guru」は、180以上の異なるタグを利用し、食事の好みをカスタマイズした個人プロフィールを作成できるアプリだ。プロフィールに基づき、ユーザーの好みに合わせたレストランやレシピを推薦してくれる。店舗の商品をスキャンすると、それぞれのプロフィールから、その商品が個人の好みにマッチするかどうかも教えてくれるという。
アレルギー体質のユーザーにとっては、選択肢の幅を広げることを可能にし、彼らの食品の安全な購入、調理、準備のためにも役立っているという。食べられないものではなく、食べられるものに焦点を当てることで、食事制限をポジティブなものに変えているのだ。
プラスチックフリーな世界を目指して(I Want a Plastic Free World)
BBCが放送する「Blue Planet」は、プラスチックゴミがいかに自然界を汚染しているかを、ゴミを喉に詰まらせた海洋生物などを通じて大きく取り上げた。その影響もあってか、プラスチックゴミのない社会に向けた取り組みはこの1年で勢いを増しているという。
プラスチックは耐久性の高さゆえに、廃棄物になった後、地球環境に汚染をもたらしてしまう。プラスチックゴミをなくすために行動を起こす人たちは、企業の無責任な使用に抗議するために、自身の消費行動を変容させていると同調査では言及している。
家具量販店のIKEAは、石油由来のプラスチックを段階的に排除しており、2020年8月までにすべての製品をリサイクル素材から作ることを表明している。363店舗を展開するIKEAが他の企業や個人消費者に対して与える影響は非常に大きく、持続可能性の側面において業界のトレンドを形作ることで、他社や個人消費者が追随することが期待される。
今すぐ欲しい!(I Want it Now!)
日々忙しくする人たちは、製品やサービスをできるだけ早く、手間のかからない形で手にすることを望んでいる。彼らは、生活の効率化を叶えてくれるサービスを求める。
フードデリバリーサービスの「Uber Eats」の普及や、米国のマクドナルドやスターバックスが始めた事前注文、決済サービスは、そのニーズを満たす一つといえるだろう。
今後、ますます大手テクノロジー企業が最先端技術を駆使して、消費者の時間とお金を節約する製品やサービスを提供するようになる。これらが当たり前になると、消費者はすべての企業に同じレベルのサービスを求める可能性があるという。
効率的に消費者のニーズにあったサービスを提供するには、ユーザーデータの分析が重要だ。このトレンドが長期的なものになるには、企業が倫理観を持ってユーザーデータを扱い、社会やユーザーから信頼を築くことが必要になってくると、同調査は指摘した。
独りを楽しむ(Loner Living)
独り暮らしは、ネガティブなものではなく、ライフスタイルの一つになった。トレンドの一つに入った「独りを楽しむ」人たちは、特にシニア層が牽引しているという。
彼らは「高耐久性」「高品質」「流行もの」「自然派」とみなされる製品への支出が低く、「利便性」や「価格の手ごろさ」を求める傾向にある。また、世代を超えて受け継ぐものではなく、不要になったときに捨てやすい製品を好むという。
人々が生涯のパートナーを見つけるという価値観が薄まるなかで、「独りを楽しむ」人たちを一つの消費者トレンドとして見つめることが企業には求められるかもしれない。
今回は、10のトレンドを紹介した。企業がすべてのトレンドに対応するのは難しいだろう。しかし、自社がどのようなスタンスを持って消費者と向き合っていくかを見直す材料としては、有効ではないだろうか。トレンドを把握しつつ、自社のスタンスを選択する。トレンドが刻々と変化する時代に必要なのは、そういった姿勢なのかもしれない。
img: Unsplash,DINING OUT,IKEUCHI ORGANIC,DIGITAL DETOX JAPAN,