「今日は外に食べに行こう」
その一言は、人々にさまざまな感情を呼び起こす。たくさんのメニューの中から選ぶ楽しみ、普段はあまり食べられない料理を食べる幸せ、洗い物をしなくていい喜び――。「どこに行こうかな」と少なからず期待し、わくわくするのではないか。
外食の目的は「おなかを満たす」ことだけではない。リクルートライフスタイルの調査機関「ホットペッパーグルメ外食総研」は、2019年2月に外食に求める期待と予算についてのアンケートを実施。人々が「食べること」以外で外食に何を期待するのか、通常の食事と比べてどの程度プラスで出費しているのかなどを調査した。
対象となったのは、首都圏・関西圏・東海圏在住の20~69歳の男女9,607人。アンケートで見えてきたのは、人々が外食に普段の食事では得られない「非日常性」や「レジャー性」を求めていること。そして、それが性別や世代によっても変化することだ。調査結果から、現代の外食産業における消費者のニーズの変化を読み解いていく。
「おなかを満たす」以外にお金を支払う
現在、日本国内の外食市場は少しずつ縮小している。
同機関の外食市場調査によると、2019年2月の市場規模は首都圏・関西圏・東海圏の3圏域の合計が3,152億円と、前年同月比で63億円の減少。外食頻度の低下に加えて、1回あたりの外食単価も全ての圏域で2カ月連続前年割れするなど、外食産業が厳しい状況に立たされていることが示された。
人々が外食への支出を減らしている中、今回の期待と予算に関するアンケートの結果は示唆に富む。いざ「外食をする」となったとき、支払う1回あたりの金額の幅広さだ。
このアンケートではまず、食事場所を「自宅」と「外食」、食事内容を「普段の夕食」と「特別な夕食」に分けて調査した。それぞれにかける費用は、「自宅での普段の夕食」では8割以上が「1,000円以内」、平均は626円だった。一方、「外食での特別な夕食」の平均は3,826円。「自宅での特別な夕食」の平均1,569円に比べても、大幅に費用が上昇していることがわかった。
しかもその内訳では「3,000円~3,500円未満」「5,000円~5,500円未満」「6,000円以上」の割合が増えるなど、支出の幅が広いことがうかがえる。
外食の頻度は減り、外食したとしても普段は費用を抑える。しかし同時に、特別な外食には、奮発してお金をかける人々がいるのだ。
外食に期待される「レジャー性」
では、なぜ人々は「特別な外食」にお金をかけるのか。
「おなかを満たす」以外に期待することを聞いた同アンケートの結果は、「料理する手間を省く」を挙げた人が全体の58.3%で1位。男女問わず高い割合を占め、特に30~60代の女性は7割近くがこれを選んだ。準備から調理、後片付けまでの手間が省けるなら、お金を出してもいい、という発想だ。
注目したいのは2位と3位。2位は「非日常感やレジャー性を楽しむ」の49.2%、3位は「食事相手やお店のスタッフなどとのコミュニケーションや会話」の48.4%と、実用性よりも外食という体験の質や時間の過ごし方を重視していることがわかった。
この結果を男女で比べると、全体として男性よりも女性のスコアが高い傾向にある。1位の「料理をする手間を省く」では、現状、日本ではまだ料理をする割合が女性の方が多いと思われる分、女性のスコアが高くなることはあり得るだろう。
しかし、2位の「非日常感やレジャー性を楽しむ」という項目で、すべての年代で女性が男性よりも10ポイント以上高いスコアになっていることは、飲食店にとって重要な知見と言えるのではないだろうか。この調査からは、女性は男性に比べて、外食では「食べること」そのものとは別に、いつもとは異なる体験を求める傾向があることがうかがえる。
“非日常”を感じる食事体験とは
さらにアンケートでは、「外食で非日常感やレジャー性を感じることがある人」に対して、その内容を具体的に質問している。
外食の食事内容やサービス・設備でレジャー性を感じるポイントの上位は「料理が豪華であること」60.5%、「旬の素材を使っていること」46.7%、「食べ放題や飲み放題」33.7%という結果になった。
「レジャー性」という言葉だけを聞くと「パフォーマンスなど演出があること」や「音楽や映像などと一緒に提供されること」などのアトラクション的要素が上位に来そうなものだが、そうではない。むしろシンプルに「普段、家ではできない」食事への期待が大きいようだ。
また、ここでも女性の方が男性よりも全体的にスコアは高め。特に20代の女性は、多くの項目で回答者平均を上回る結果となった。幅広い年代の女性が「デザート・甘いものを食べること」にレジャー性を感じていることも、外食に対して特別感を重視していることのあらわれかもしれない。
次に、業態別でのアンケート結果を紹介する。「レジャー性」を感じる業態の1位は「和食料理店」61.5%で、2位「フレンチ・イタリアン料理店」51.1%、3位「焼肉、ステーキ、ハンバーグ等の専業店」48.4%と続いた。
ただし、年代別で見てみると「和食料理店」は男女60代や女性50代で多く、「フレンチ・イタリアン料理店」は女性20~50代、「焼肉、ステーキ、ハンバーグ等の専業店」 は男性30・40代と女性20・30代が多いなど、性別や年代による回答のばらつきがみられた。
育ってきた時代や環境の違いによって、「レジャー性」を感じる業態に差があるのではないか、というのがホットペッパーグルメ外食総研の見立てだ。
筆者(女性20代)としては、すき焼きや回転寿司、バーなどにも「非日常」を感じる。しかしどれも他の属性よりスコアは高いものの、上位ではない。年代や性別による一定の傾向はあるが、「レジャー性」を感じるポイントは属性の中においても多様化しているのだろう。
飲食店は業態よりも、食事自体のクオリティや内容で、自店の顧客にとってのレジャー性を作り出すことが重要だと示唆された。
なぜ外食に「レジャー性」を求めるのか
繰り返すが、人々が外食をする頻度は下がり、金額は減りつつある。自炊をして外食の費用を抑えても、おなかを満たすだけなら十分に可能だ。中食やミールキットなども充実し、自宅でおいしい料理を食べることが容易になった背景も関係しているかもしれない。
それでも、人々は「ここぞ」という特別なときに外食をする。それも、普段は行かないような場所で豪華な料理を食べたり、家では食べられない新鮮な食材を本格的に楽しんだり。それは「お金をかけなくてもおなかがいっぱいになる日常の食事」とは別の、「外食だからこそ体験できる非日常」を買っているということだろう。
そんな特別な時間を提供するのが、飲食店だ。人々がどのような「レジャー性」を求め、自分の店のどこに「非日常」を感じてもらえるのか――飲食店のみならず、これはあらゆる顧客サービスにおいても、提供者が常に持つべき視点かもしれない。
時代の変化とともに、人々のニーズも変わる。こうした調査結果を参考にしながら、今一度、顧客にとっての体験価値を見直してはどうだろう。
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