朝起きて、布団に潜り込んだまま「Instagram」のアイコンをタップする。アプリを起動し、ストーリーズを流し見でチェックしながら、お気に入りのアパレルブランドの投稿で指を止めた。自分好みのアイテムを見つけ、画面下の「もっと見る」ボタンを親指でスワイプアップする——。
朝に見るInstagramは、眠気覚ましのコーヒー代わりになる。ランチタイムにはグルメ雑誌の代わりになり、ときにはヘアカタログやレビューサイトの代わりにもなる。
今やSNSは私たちの“生活の一部”となった。なかでも、2017年に流行語大賞となった「インスタ映え」という言葉があるように、Instagramでは情報が活発に流通している印象だ。
国内では、投稿した画像に商品をタグ付けし、ECサイトに誘導できる「ショッピング機能」を2018年6月に実装。ビジネスシーンでの存在感が増す今、企業がブランド体験を設計するうえで、Instagramにおける消費者のインサイトを無視することはできない。
本記事では、Instagramにおける利用者行動にスポットを当てる。フェイスブック ジャパンでInstagramの広報を務める市村怜子氏への取材のもと、ショッピング機能の実装による利用シーンの変化や、新機能追加による利用者行動の変化を紹介していきたい。
投稿を見た利用者の8割が、検索や購入のアクションを
Instagram公式の発表によると、2018年6月時点で世界の月間アクティブアカウント数(MAA)は10億を超える。国内のMAAは3,300万を超えたという(2019年6月時点)。
市村氏は「女性の利用者が多いと感じるかもしれませんが、国内の男女比は女性が57%、男性43%とそこまで差はありません(※1)。朝起きてすぐ、通勤・通学時、休憩時間など1日を通して何度も利用する人が多く、日常生活の一部として定着しています」と語る。
Instagram公式のブログには、一度に長い時間コンテンツを見るのではなく、短時間で何度も見ている国内の利用者が多いことも記されている。コンテンツの見逃しを防ぐため頻繁にフィードをチェックし、新しく投稿されたものだけをチェックしているという。
また、ハッシュタグ検索をする回数がグローバル平均の3倍であることも特徴的だ。筆者(20代女性)の周りでも、「○○(地名)カフェ」などで週末に行きたいお店を探したり、化粧品や服などを検索して口コミを確認し、購入の検討材料にする場面をよく見かける。
こうした利用者の動きに対して、市村氏は「投稿からインスピレーションを得たり、商品やサービスを発見したりするだけでなく、実際にアクションを起こす利用者が多いです。投稿を目にしてすぐに検索やフォローなどの行動をしたことがある利用者は83%、後日ブランドサイトやECサイトで商品確認や購入をする利用者は44%にのぼります(※2)」と述べた。
日本は世界で最も「ショッピング機能」を活用する国の一つ
当初は写真を加工してシェアするプラットフォームだったInstagramも、上記のようなインサイトを受けて、ショッピング機能や飲食店予約ができるアクションボタンを実装した。
ユーザーが投稿を見て商品に興味を持った場合、以前は、そのブランドやお店のプロフィール画面に移行して公式サイトのURLをタップし、そこから該当する商品を探したり、新たに検索エンジンで商品を探したりするなど、複数のステップを踏む必要があった。
しかし、ショッピング機能を実装したことによって、ユーザーは興味のある商品写真のタグをタップすることで価格やブランド名などをアプリ内で確認できるようになったのだ。そこから公式サイトの該当商品ページへ直接アクセスすることが可能になっている。
これに対して、市村氏は「利用者の発見、検討、購入までの流れをシームレスにつなげることで、利用者の利便性を向上させるとともに、事業者にとっても売上獲得の機会を活かすことができるようになります」と、その可能性を語る。
利用者や企業の反応についても尋ねると、同氏は「Instagramが日常生活に定着しているからなのか、日本は世界的に見てもショッピング機能の活用が最もアクティブな国の一つで非常に好意的です(※2)。ビューティ、アパレル、雑貨・小物、食品など幅広い業界で活用が進んでおり、大企業に限らず、中小企業も広く利用しています」と答えた。
Instagramの多様な機能を活用するブランドの傾向とは
Instagramを介した消費行動が増えるなか、利用者はブランドに対してどのような情報発信を求めているのだろうか。
市村氏によれば、動画や写真を24時間限定で投稿可能なストーリーズの利用が進むにつれ、「インスタ映え」に代表されるような作り込んだ写真や動画だけではなく、企業やブランドであってもカジュアルで親近感が湧くような投稿が受け入れられる傾向にあるという。
また、「全体の 80%が何らかのビジネスアカウントをフォローしていることからも分かるように、 利用者は企業やブランドからの情報発信にも好意的です。そのときに一方的な情報発信をするのではなく、ストーリーズのアンケートスタンプ機能で意見を求めたり、ライブ配信で視聴者の質問に答えたりするなど、双方向のコミュニケーションが重要になります」とした。
こうした双方向のコミュニケーションを上手く実践しているブランドの事例として、市村氏は身長155センチメートル以下の小柄女性の服に特化した「COHINA」を挙げる。
Instagramを活用して成長したブランドの一つであるCOHINAは、ほぼ毎日Instagram上でライブ配信をして、スタッフが商品の説明をするほか、身長の異なるモデルが商品を着用し、サイズ感や着心地を伝える。
ライブ配信では既製品だけではなく、開発中のサンプル商品も紹介し、色やデザインについて視聴者に質問を投げかけることもある。ユーザーの声が商品に反映されることで、「ともにブランドを作っていく感覚」がコアなファンを生み出している。
COHINA以外にも、Instagram公式が公開している「ショッピング機能 活用のヒント」では、店舗に来店するのが難しいユーザーに向けて、着用の仕方など個別の質問にはできる限り返答しているというアクセサリーブランド「PLUIE(プリュイ)」や、ブランドコンセプトを軸にした投稿のシリーズ化を行うことで、世界観や魅力を届けるようにしているというボタニカルライフスタイルブランド「BOTANIST」などの事例が紹介されている。
Instagramのアップデートは、ブランド体験の価値を広げる
サービス開始から10年。利用者の利用シーンの変化を受け、アップデートを重ねてきたInstagram。2019年3月にはサービス内で決済まで完結できる「チェックアウト機能(ベータ版)」、5月には企業やブランドだけでなく、インフルエンサーなども含めたクリエイターもショッピング機能が利用可能になることを発表した。
市村氏は今後のInstagram活用について、サービスのミッションである「大切な人や大好きなことと、あなたを近づける」を引用し、「家族や友人などの『大切な人』と交流したり、趣味や関心など『大好きなこと』への愛を深めたり、それに関連するビジネスやクリエイターとつながったりするための、機能の拡充や改善を続けていきます」とコメントした。
今回の機能拡充により、消費者はこれまで以上に「大好きな人やもの」を発見し、調べ、手に入れやすくなるだろう。Instagramによって、消費が変わる。企業はブランドの認知拡大や共感を得ていくうえで、Instagramが消費者に与える影響を無視することはできない。
消費者の生活に溶け込んだSNSが活発なアップデートを見せる中、事業者は今回紹介したような利用者のインサイトを参考に、顧客体験を設計していくことが求められる。
※1:株式会社カンタージャパンが、16歳~59歳男女を対象にしたFacebook委託調査による(2018年5-6月実施)。
※2:「Project Instagram」より。イプソス株式会社(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、ドイツ、フランス、インド、イタリア、日本、韓国、トルコ、英国、米国在住の13歳~64歳および日本在住の18歳~64歳の2万1,000人を対象としたFacebook委託調査)、2018年11月実施。すべての調査対象者は少なくとも1週間に一度Instagramを使用している。調査の回答形式は文化の違いにより国ごとに異なるが、評価指標はそれぞれの国において一定。
img:Instagram Businessブログ, Facebook newsroom(1), Facebook newsroom(2), COHINA,Facebook newsroom(3)
文/なかがわあすか 編集/庄司智昭