“おもちゃ”は、子育て家庭にとって必要不可欠な存在である一方、子どもたちが、せっかく買ったおもちゃに興味を示さなかったり、増えゆくおもちゃで部屋が散らかったりと、さまざまな悩みの種となっている家庭も多いはず。
知育玩具のサブスクリプション型のサービス「トイサブ!」は、隔月で知育玩具が届く定額レンタルサービス。定期的におもちゃを交換できるだけでなく、丁寧なヒアリングをもとに一つひとつの家庭にマッチした知育玩具をプランナーが選んで送ってくれるという。知育玩具を通して子どもの成長に寄り添うだけでなく、冒頭に挙げたようなおもちゃにまつわる悩みにも寄り添うことができるサービスだ。
「『トイサブ!』を立ち上げたきっかけは、おもちゃ売り場で抱いた違和感でした」
そう語るのは、「トイサブ!」を運営する株式会社トラーナの代表・志田典道氏。彼が抱いた“違和感”とは?
志田氏「二人目の子どもが生まれた頃、家族で新しいおもちゃを買いに行ったときのことです。売り場に人気キャラクターのおもちゃがズラッと並んでいる光景を見て、どこか『買わされている』という感覚が芽生えました。大型のおもちゃ専門店や家電量販店のおもちゃ売り場など、いくつかの売り場を見ても、どこも目立つ位置に並んでいるのは同じようなものばかりで、自分たちは気づかないうちにマーケティングされていると感じました」
違和感を覚えた志田氏は、人気キャラクターのおもちゃ売り場を離れ、知育玩具売り場に足を運んだ。そこに陳列されたおもちゃたちに「マーケティングされていない魅力」を感じたという。
志田氏「ただ、知育玩具は見ただけでは使い方がわからないし、どれを買えばいいのかもわからなかったんです。その後、知育玩具について調べたのですが、『月齢によって遊ぶおもちゃを変える』というロジックが臨床心理学で証明されていることを知りました」
知育玩具は、遊びを通して集中力や意欲、創造力を身につけるなど、子どもの成長に深く関わるおもちゃを指す。たとえば、0歳〜1歳までは「握る」「叩く」といった単一行動による相応反応の学習と、体の動かし方を学習するおもちゃが必要など、月齢に応じたおもちゃ選びが必要なのだ。
もちろん自ら学んで我が子と遊ぶ方法もあるが、志田氏のなかに知育玩具をサービスへと昇華させるアイディアが浮かんだという。
志田氏「当時は、動画配信サービスのサブスクリプションが徐々に広がりはじめた、サブスクの黎明期でした。僕自身も『Hulu』を利用していて、ユーザーの好みに合った作品をおすすめしてくれる“プレイリスト機能”が気に入っていたんです。そこで、おもちゃのプロがその子に合った“おもちゃのプレイリスト”を作ってくれるサービスがあれば、自分も利用したいと考えたのが『トイサブ!』の原点でした」
彼がおもちゃ売り場で感じた疑問と、自身がサブスクを利用する中で感じた魅力。ふたつの体験が結びついた2015年、おもちゃのサブスク「トイサブ!」が産声を上げた。
サービス開始当初は3ヶ月から3歳までとしていた対象年齢は、現在では3ヶ月から満6歳まに拡大。取り扱うおもちゃの種類も大幅に増えた。1回につき、0歳から4歳未満は6点、4歳から6歳未満は5点のおもちゃが届けられる。さらには、気に入ったおもちゃがあれば延長して使い続けることや買い取ることも可能だ。プランの数も豊富で、子どもの月齢だけでなく満足度調査データにもとづいたプランニングを行っている。
「トイサブ!」がもっとも重視するユーザーとの対話
しかし、スタートしたばかりの頃は、志田氏が本業の合間に独学で知育玩具について学び、手持ちのおもちゃは30個、家族で配送手続きをするスモールビジネスだった。ときには、急な配送依頼を受けて自らおもちゃをユーザーの家に届けに行くことも。「その日は配送業者に間違われました」と志田氏は笑う。
その後、口コミやメディアを中心に注目を集めてトラーナを設立し、志田氏も本腰を入れて「トイサブ!」の運営を開始。口コミなどで徐々に利用者を増やしていき、取り扱うおもちゃも増やしていった。2016年秋にテレビ番組で取り上げられると一気に注目を集め、その後もテレビをはじめとした取材が定期的に入るようになったという。自宅で始まった小さなビジネスは少しずつステップを踏んで成長を続け、2021年5月現在、「トイサブ!」のアクティブ利用者数は9,000人を突破し、国内最大級のおもちゃ・知育玩具の定額レンタルサービスへと成長を遂げた。
同社が多くの親子に支持される理由は、ユーザーとプランナーのあいだで交わされる“対話”にある。
志田氏「『トイサブ!』がもっとも大切にしているのは、お客様に行うヒアリングです。当社のプランナーは、社内での特別な研修を受けた専任のスタッフですが、年齢的な情報だけではプランが立てられません。家族構成やペットの有無、現在持っているおもちゃ、お子さんの性格など、さまざまな観点でアンケートを取ります。さらにその回答から、言語化されていない“定性的な希望”を読み取らなければならないんです。今はコロナ禍でリモートになっていますが、以前は直接お宅に伺ってユーザーインタビューも行っていました」
ユーザーが抱える潜在的な希望を読み解き、最適解を導き出す。これまでそうした作業を累計1万人以上に行ってきた実績は、そのままプランナーたちへの信頼につながっている。ユーザー全体に向けてアンケートをとると1000人以上から回答が戻ってくるなど、「トイサブ!」とユーザーの良好な関係性を物語るエピソードは事欠かない。
実際に志田氏がユーザーインタビューで訪れた家庭で、“おもちゃの本質”を垣間見た経験もあるという。
志田氏「そのお宅のお子さんは、初めて手にするおもちゃの使い方・ルールを理解する速度が驚くほど早かったんです。それまで色々な知育玩具に触れてきたことが、その子の理解力や想像力の成長をサポートできていると実感しました。また、お母さんとの遊び方も印象的で、まずお母さんが遊び方を少し披露すると、子どもがその動きをマネる。日頃から“おもちゃを使って親子で遊ぶ”というプロセスを踏んでいる姿が浮かびました。自分たちの届けたおもちゃが子どもの成長、親子の関係を磨くことを助けているのはうれしいことでもあったし、その光景を見ておもちゃの本質に触れられたように感じました」
「トイサブ!」のおもちゃは、親子がコミュニケーションを学ぶ時間も提供しているようだ。また、「トイサブ!」を利用することで、自分では選ばないであろうおもちゃが届く点に価値を感じているユーザーも多いという。
志田氏「親御さんがおもちゃを選ぶとき『男の子なら乗り物』『女の子はままごとセット』など、どうしても固定観念にとらわれてしまいます。しかし、『トイサブ!』のプランナーは、性別や固定観念にとらわれることなく、お子さん個人を見ておもちゃを選んでいます。すると、おままごとセットで遊ぶ男の子や、乗り物おもちゃが大好きな女の子もたくさんいることがわかりました。ステレオタイプにとらわれず、その子に合ったおもちゃを提供できるのは『トイサブ!』の強みですね」
ダイバーシティやジェンダーフリーへの関心が高まっている昨今、おもちゃを介して子どもたち、ひいては親たちも新たな価値観を育む。「トイサブ!」は、さまざまな“知育”をサポートしているのだ。
「トイサブ!」ではおもちゃが破損した際には、社内でメンテナンスを行っている。
志田氏「おもちゃの壊れやすさ、壊れにくさについては、使ってみないと分からないんですよね。メーカーさんも、売るのがひとつのゴールだから、耐久性までのデータは持ってなかったりする。我々はすごい量のおもちゃを買って、さらには壊れたものをメンテナンスし続けていて、膨大なおもちゃのデータの蓄積があります。ユーザーからの声についてもこれまでの綿密なヒアリングやアンケートから膨大なデータを持っている。また、メーカーさんにそういったユーザーの声を届ける機会もあるので、橋渡し役としてデータにもとづいた意見を伝えることができています」
玩具メーカーにとってユーザーの意見は、製品の質の向上を目指す上で必要不可欠なデータだが、オンラインレビューだけでは意見や要望を吸い上げるのにも限界もあるだろう。「トイサブ!」がサービスを通して累計1万人以上ものユーザーから得た意見はデータベースとしても機能し、実際にとあるトラブルが頻発していた玩具の改善に寄与した例もあるという。
プライベートブランド玩具に込めた細やかな気遣い
トラーナでは、新たな試みとして昨年からプライベートブランド玩具の製造・開発事業をスタートし、「トイサブ!」のレンタルおもちゃとして提供している。第一弾は「ラトル 珊瑚の色」、続いて「木琴 小さな太陽」、2021年4月には「積み木 森の芽」を開発した。これらはすべてユーザーの意見に耳を傾けたこだわりのおもちゃだ。
志田氏「PB玩具で木琴を作った理由のひとつは、既製の木琴のおもちゃのほとんどが製造コストの関係で音階がズレていたこと。ユーザーからは『音階が揃った木琴がほしい』という要望が多く寄せられていたので、音階を揃えた木琴を開発しました。トイサブのPBはこうした小さなストレスを解消するおもちゃになっています」
木琴に2本のバチが付属しているのも、親子で一緒に叩きたいという意見から着想を得ている。親が木琴を奏でる様子を見て子どもも木琴を叩く……おもちゃを通じて同じ時間を共有することができるのだ。
志田氏「おもちゃを流通に乗せる場合、メーカー側は卸業者や小売店が間に入ると、売り場のトレンドが基準になるので、最後に手に取る赤ちゃんや子どもたちにはタッチできていないんです。しかし、『トイサブ!』には、のべ15万件以上のアンケートのデータがあり、卸や小売店のフィルターを通さずに “ユーザーの子どもたち”の声を直接おもちゃに反映できる。ユーザーの真のニーズが分かっているからこそ、卸業者や小売店に向けてではなく、子どもたちに向けて作ったおもちゃを届けることができるんです」
「エンドユーザーは子どもたち」そう語る志田氏の眼差しは、とてもやさしい。さらに「『トイサブ!』だからできる細やかなおもちゃづくりを心がけている」と志田氏は明かす。
志田氏「たとえば、第一弾のラトルの主な対象月齢は、0歳3カ月〜6カ月に設定しています。既成品のラトルではこの月齢の赤ちゃんの手の大きさにフィットするものがなかなか提供できないという課題があったので、重さや細さにはかなりこだわりました。
『トイサブ!』でレンタルをはじめてからも使用感をユーザーに聞き、改善の必要があればその都度チューニングしています。改善、場合によっては回収を細かく行えるという点で、流通に乗せるためのおもちゃでないということが強みとして働いていますね。流通させるおもちゃでは、バージョンアップを重ねるごとにJANコードを取り直す必要があったり、細かな調整にも時間がかかる。それに対してうちのPBのおもちゃは、ユーザーのフィードバックを元に『じゃあ次のロットからこういう仕様で』と、細かなアップデートがやりやすいです」
玩具メーカーの多くが卸業者や小売店のトレンドを軸におもちゃ作りをするなか、「トイサブ!」は“子どもたちが本当に求めるおもちゃ”を提供することを追求しつづけている。
志田氏「PB玩具なら、オリジナルのキャラクターが喋ったり電子画面で動いたりと、時代にマッチした自分たちならではのIPを乗せた玩具を作っていきたいです。何より、『トイサブ!』のユーザーがさらに増えれば、僕たちが提供するおもちゃがファーストタッチになるお子さんも増えていくはず。これからも、おもちゃを通して子どもたちにさまざまなメッセージを伝えていきたいですね」
2020年の夏からは、幼稚園、託児所等の法人に向けてもサブスクリプションサービスを始めている他、イオンファンタジー運営のキッズスペースである「スキッズガーデン」「わいわいぱーく」への玩具の提供も行っている。いずれもこれまでの活動を通じておもちゃへの知見を積み重ねてきた「トイサブ!」だからこそ提供できるサービスだ。
もちろん、トラーナの根幹をなす個人へのサブスクリプションサービスの拡大と、PB玩具の拡大についても、これまでと変わらず尽力していく予定だ。2021年5月には新拠点となる「トラーナ 千葉第三センター」も稼働を開始した。「トイサブ!」の合言葉である「幸せな親子時間を増やそうぜ」を実現させるため、今後も拠点を増やしていく予定だという。
志田氏「いまは、東京以外でも、大きな都市圏のお客様が中心ですが、住んでいる場所によってライフスタイルも変わってくるし、そうすると子どもの遊び方も変わってきます。それをサポートしていくには、お客様のところに通って、どんな生活の仕方をしているのか見ることは大事だと思っています」
遊びとおもちゃで子どもの成長を見守る「トイサブ!」。彼らから届くおもちゃ箱には、さまざまな願いと想いが詰まっている。
執筆/真島加代(清談社)、撮影/西村満、編集/サカヨリトモヒコ(BAKERU)