皆さんは店頭で日用品を手に取る時に、どんな点に注目するだろうか。デザイン・商品名・求める性能など、その時の目的によってさまざまだろうが、多くの商品が並ぶ中で、何かしら引っかかりがないと手に取りさえしないのが実際のところだろう。
おのずとメーカーがパッケージをデザインする上でも、「店頭で手に取ってもらうためのデザイン」が重視され、試行錯誤が重ねられてきた。
しかし、手に取った商品を家に持ち帰った時に「あまり見えるところに置いておきたくない」と感じたことはないだろうか。店頭で目立つデザインは、家の中に入れば目立ちすぎてしまう面がある。わかりやすく記載された商品名や機能表示も買ってからは不要な情報ともいえる。
「性能には満足しているから、デザインは仕方がない」と考えて商品を選んでいる人も多いのではないだろうか。
アスクルが運営する日用品ショッピングサイト「LOHACO」は、そんな思いに着目して「暮らしになじむデザイン」をコンセプトにしたオリジナルデザインの商品を展開している。
そんなアスクルの取り組みについて、バリュー・クリエーション・センター本部 バリュー・クリエーション・センターの前田友里氏に話を聞いた。
この商品をおしゃれな空間に置きたいだろうか?
「暮らしになじむLOHACO展」として2015年に始まったこの取り組みは今年で4年目を迎える。そもそもの始まりとしては、 法人向け通販「ASKUL(アスクル)」でオリジナル商品を展開したことがきっかけだった。
その中のひとつ、エステーの「消臭力」をアスクルのオリジナルデザインにした「消臭スプレー」を販売したところ、これが好評だったのだ。
「消臭力」の中身はそのままにデザインは北欧風のデザインにして販売した商品で、ウェブやカタログで販売することが前提となっているため、情報は極限まで削ぎ落とし、商品名さえも目立たせないシンプルなデザインを実現した。
前田:“店頭でいかに目立って、他社と差別化を図ってお客様に選んでいただくか”ということではなく、機能に関してはウェブやカタログで訴求することを前提として、“商品のデザインとしてよい物を”というところから始まったプライベートブランドです。
その商品を実際に使用する場所、たとえば「おしゃれなレストランに置きたいと思うだろうか」というところに、お客様の潜在的なニーズがあることがわかりました。
店頭に並べることを前提とした場合、いかに目立ち、いかに前面で機能性を訴求できるかという点が重要になる。
その中でシンプルなデザインは、例えおしゃれであっても、埋れてしまうというのがこれまでの常識になるのだろう。デザインが良くても機能性が伝わらなければ、棚に戻されてしまう可能性が高い。
カタログやウェブで展開する「ASKUL」だからこそできた割り切りから、利用するシーンに焦点を当てて開発されたのが「ASKUL」のオリジナル商品だった。
「ASKUL」で展開した時に個人からも好評だったことから「LOHACO」では「暮らしになじむ」というコンセプトのもと展開することになった。最初のメーカーの反応はどのようなものだったのだろうか。
前田:最初は「アスクルさん、何言っているのかな」という、半信半疑な反応でしたね。「ASKUL」のカタログでは“デザインされた商品の方が売れている”というのが傾向として見て取れてはいましたが、「暮らしになじむって?」という反応がありました。
消費者からしてみると「暮らしになじむ」という視点は納得感があるように思えるが、メーカーにとっては狐につままれたような感覚だったのかもしれない。
前田:メーカーさんにとっては非常に新しい試みだったと思います。今まで店頭で置かれるときに重視していたポイントをそぎ落とし、研ぎ澄ます。デザインとして美しくする。“暮らしになじむ”というところにフォーカスを当てるというのは、メーカーさんからしても新しい視点でしたから、そのために受け入れられるまでには時間がかかったのかもしれません。
暮らしになじむデザインに関してはアスクルが手がけるのではなく、メーカー自身が行う。「本当に自分の家に置きたい商品はどういうデザインだろう」という視点が生まれたことで、メーカーの社内でもコミュニケーションが活性化しているという声もあるという。視点が変わったことでデザインが自分ごとになったということのなのかもしれない。
参加企業には個人情報以外のデータを惜しみなく開示
アスクルは2014年2月からメーカーを対象とした「LOHACO ECマーケティングラボ」を展開している。「LOHACO」で蓄積した購買行動などのビックデータを参加企業に開放することで、業種や競合関係といった垣根を超えた取り組みによる革新的なマーケティング活動を実現していこうとするものだ。
商品別に売上のデータを閲覧することも可能で、どのような商品が売れているかを確認することもできる。
たとえば、暮らしになじむデザインで展開した「リセッシュ」は、販売を開始してから8カ月程度で通常パッケージの7.5倍の売上を実現したといったことも参加企業なら誰でも確認できてしまう。
しかも通常のパッケージより約100円高い値段での結果ということなので、デザインが付加価値となっていることがデータを通してわかる。こうしたデータが参加企業であれば閲覧できるのだ。
もちろん“どんなデザインの商品が売れているか”ということも閲覧できるので、それらのデータを活用した自社の商品を企画することが可能だ。
前田:参加企業は、“自社商品がどこのメーカーの商品と同時に購入されているか”という、いわゆる併売率を参照することもできます。たとえば、“紙おむつと特定の飲料が一緒に買われることが多い”といったこともデータからすぐにわかります。
その為、メーカーさん同士で、他メーカーと協力して、同時に販促をかけて効果が上がったという事例も生まれているんです。
昨年のLOHACO展の商品では、トイレットロールと消臭剤とトイレのお掃除シートの三つは、大王製紙さんとエステートレーディングさんの2社のコラボで生まれていますが、トイレに置かれるものを同じデザインにしています。従来ではかなり高いハードルがあったことですが、メーカーの垣根を超えてデザインを統一していただいた事例です。単品だけでなく3点セットでの販売も行っています。
たしかにトイレに置く商品は、デザインがバラバラのことが当たり前になっている。統一されたデザインにするために、わざわざ容器を詰め替えるというニーズもあるほどだ。
前田:中身を詰め替える方はとても多く、傾向として顕著に出ています。コラボの例では詰め替えなくても、最初から統一されたきれいなデザインでありながら、中身はよく知られている企業の有名なブランドのものなので、安心の品質で心地のよいデザインが実現されています。
ヒアリングする中でわかったことなのですが、トイレ用品は生活の中でもっとも隠したい物の一つだったんです。
トイレットロールも、袋から出してしまうと衛生面で問題がありますし、1個でも見えると生活感が出てしまいますよね。そういった事情から、トイレットロールが一つ一つ包まれていて、置くだけで完結できるというところが評価につながっています。
前田:ハンドソープなどをおしゃれな容器に詰め替えている方も多いと思うのですが、デザインは良くても、ノズルが商品に合っていなくて「うまく中身が出ない」「出る量が微妙」ということもあります。
泡で出るハンドソープなどは、そのメーカーさんが作られたボトルでないと、機能的には最適なものにはならないんですよね。
なので、“見た目を取るか使い勝手を取るか”を選択しているところがあったと思うのですが、オリジナルデザイン の商品は両立できる点で好評をいただいています。
塩素が入っているものなど、詰め替えを躊躇してしまうような商品でも、デザインされた容器で使えることがひとつのポイントとなっているようだ。
このほかに、隠したかった商品を見える場所に置いてもらえるようになったことで、使用頻度を上げることができたという事例もある。
前田:「暮らしになじむ」商品に関しては、通常の商品と比べるとレビューが集まりやすく、9割ぐらいがデザインに関しての声です。「これなら出しっ放しにしておいてもおしゃれで、あえて出しているような感じに見えますよね」という嬉しいお言葉もいただいているんです。
これはメーカーさんにとっても嬉しいことで、出しっ放しにしていただいていれば使用頻度が増えますし、リピート購入につながります。お客さんも出しっ放しでも心地よいデザインということで満足しながら継続して買っていただけるということで、出しっ放しが双方にとって有利に働いています。
昨年LOHACO展に出していただいた、ユニ・チャームさんの「ウェーブ」という商品がありますが、筒状のケースで収納できるデザインを開発していただきました。この「ウェーブ」はテレビの裏などに隠して置いている方が多い商品なんですが、このケースがあることによって、テレビの横や前においていただき、使用頻度を増やしてもらう狙いがありました。そして、それに見事に成功しています。これならこのふわふわとした部分は見えませんし、すぐに使えて倒れないので気軽に置いておけるというのが、大変ご好評をいただいています。
デザインによって新たな市場を開拓する例もある。亀田製菓さんは、柿の種をアレンジしておしゃれなパッケージに包んだ「KAKITANE」を販売したところ、好評だったという。
ダイニングテーブルに置いておけるデザインという面もあったと思うが、ギフトニーズを捉えることもできたようだ。
キユーピーさんの例では、もともとは介護食として売っている商品のデザインをリニューアルし、若い女性に持ち運んでもらえるようにしたことで、新たなターゲットを捉えることに成功している。
すりおろしたリンゴをパウチに詰めたもので、高齢者向けの商品として販売していたが、忙しい女性のフルーツ摂取というニーズに合致させた例だ。
考えてみると、1つの商品を1つのデザインだけで展開するというのは、多くの機会ロスを産んでいるのかもしれない。「デザインが気に入らない」「ターゲットではなさそう」といった理由から、手にとってもらえないことは非常にもったいないことである。
そういった意味でも、LOHACOの暮らしになじむデザインは、新しい可能性を切り開く大きなきっかけとなっていきそうだ。
「店頭で目立つのではなく、お客様の生活に寄り添った商品」これからの広がりに期待したい。
撮影/伊藤圭