柔和で、ユーモアがあって、楽しそうで、自由——。
テレビや雑誌で見る彼女の姿はいつだってそんなポジティブなイメージで彩られていて、親しみやすさに溢れている。バラエティタレントや女優、エッセイスト、歌手などさまざまな顔を持ちながらもどこにも属さない、気取らない。その「遊ぶように働く軽やかさ」が彼女の大きな魅力だ。
一方で「ひとりで居るのが好きで、人付き合いは限られた人だけ」という一面もあるという。やりたいことが明確で、意志が強い。やわらかな“自分らしさ”を貫き、好奇心の赴くままに日々を謳歌する彼女に、その秘訣を聞いた。
(この記事は2023年7月20日(木)に発売された『XD MAGAZINE VOL.07』より転載しています)
ひとり遊び、という土台
その日、YOUさんはスカジャンにTシャツという彼女らしいファッションに身を包み、少し眠たげな表情で登場した。昨晩も、朝まで遊んでいたのだろうか。「よろしくお願いします〜」と、控え室に入ることなくインタビュー席に座る。その着飾らない姿に緊張感が一瞬でほどけた。「毎晩、大勢の人に囲まれて夜遅くまで飲んでいるイメージです」と伝えると、「イメージは、そうですよね」と笑った。
YOU「よく遊んでいる人っていうイメージはあまり間違っていないんですけど(笑)、全然開放的ではないです。大人数ではなくて、心を許しているごく限られた人としか遊ばないですね。本音を言えばひとりで遊ぶのが一番好き。それは、やりたいことがはっきり決まっていて、やめたいときにやめたいからだと思います。
一人っ子だったことが原因かもしれないけれど、幼稚園くらいの頃から人と関わるのが面倒だった。一定の距離を保って、自分を守っていました。周りは優しくしてくれたし、いい子たちばっかりだったけど、遊ぶのはひとりか多くて二人。小学校、中学校と環境が変わっても常にたったひとりだけ、寄り添ってくれる子が現れるんですよ。そういう子を介して、いろんなコミュニティに顔を出しながら、なんとなく人付き合いをしていました。心を開いているようで、本心が見えないタイプだったと思います」
小さな頃から土台となる性格が変わらなければ、好きなものもあまり変わらない。トレードマークでもあるロックTシャツからイメージされる洋楽の世界に夢中になったのは、小学校6年生のときのこと。UKロックにハマり、同じ趣味を持つ同級生の男の子たちとおすすめの音楽を教えあったり、ライブに行ったりした。
高校生活に入ると、朝から晩まで部活でテニスに打ち込む一方で、社会的な「なめ猫ブーム」もあり、放課後は不良遊びも覚えるように。少しずつ交友関係が広がっていき、人と関わるのが好きになっていったという。
楽しみ方を分類して、コミュニティをいくつも持つ
ひとりが好きではあるが、過去のインタビューには「20代から40代までの20年間、睡眠時間は3時間くらい。仕事ではなくて、遊んで寝ないだけ」と書かれていたYOUさん。人と関わるのが面倒なら部屋にこもってしまいそうなものだが、彼女は正真正銘「寝る間も惜しんで」遊ぶ日々を選んだ。それは、親を反面教師として、誰かと過ごす面白さに気づいたのだという。
YOU「父はゴルフに出かけたり友だちとごはんに行ったりするけれど、母は全く遊ばない人だったんです。その姿がつまらなそうというか、寂しそうだと幼心に感じていて、高校生くらいの頃『外に出よう』と思ったところはあります。閉じこもってしまうと、執着しちゃいますよね。それは自分も相手も息苦しいだろうし、どんどん世界が狭まっていく。そんなふうになりたくなくて、成人してからクラブに出入りするようになったことで、大人に『人と遊ぶこと』の楽しさを教えてもらった気がします。
当時のクラブは社交場で、最初は遊ぶのが“楽しい”というよりも“社会勉強”みたいな感覚で行っていました。人と会って、しゃべっていると、知らない世界が広がっていく。あと、そこで生まれたアイデアや関係性が仕事につながることも面白かったし、クラブに行ってなかったら今の仕事はしていなかったかもしれないです。次第に仲間が増えていって、その人たちと過ごす毎日に夢中でした」
ひとりが好きなタイプだと、人との関わり方に悩みを抱えている人も少なくないだろう。中学や高校に限らず、職場やサークルといった限られたコミュニティの中で気の合う友人を見つけることは想像以上に難しく、インターネットやひとりでの時間を優先するようになることも。そんなとき、彼女のように楽しいつながりをつくるには、どうしたらいいのだろうか。
YOU「厳選するっていったら相手に失礼だけど、コミュニティとか仲間はいっぱい居なくていいと思っています。性格的にもグイグイ積極的に交友関係を広げていくタイプではないので、寄り添ってくれる人は……なんというか、もたらされるんですよね。多少は時間をかけて、じっくり関係をつくっていくとひとり、またひとりと大切な人ができる。そういう人を見つけると、確保するんです。
大切な人はいっぱい居なくていいけれど、いくつか居場所があるといいですよね。趣味がいくつもあるように、気分や楽しみ方もいろいろあるじゃないですか。コミュニティをいくつか持っていると、それぞれの良さがあるから、そのときの気分に合う仲間と過ごすことができる。なので、なんとなく自分の楽しみ方を分類して、差別化しておくんです。そうすると、あの人とだったらこの話をしたい、あの仲間たちとならこんな場所に行きたいって思える。それが、自分にとってヘルシーな人付き合いの方法ですかね」
大事なのは、いつでも頼れるし離れられる、ちょうどいい距離感。
YOU「朝まで一緒に飲んでいて、どれだけ楽しくても、解散するのが分かっている、というのがとても大事。これだけ毎日一緒に居ても、一緒に住むのは嫌ですね。たぶん、私以外も全員嫌だと思う(笑)」
やりたいと思ったら端から端までやってみる。
ダメだったらやめればいいだけのこと
音楽活動をしながら、バラエティやコント、映画やドラマなど新しいジャンルにも次々と挑戦し、プライベートでは子育ても。「すごいタフだから」とあっけらかんと話すけれど、その忙しさを想像するだけで、どうやってやりくりしていたのだろうと身が震える。何かをやるなら、何かを手放さなければいけないと人は言うけれど、彼女にその選択肢はないようだった。音楽もバラエティも演技もファッションも子育ても、やりたいことはたくさんある。やりたいと思ったら、端から端まで全部やりたい。自分で決めたことに、迷いはない。
YOU「コロナ禍で自宅待機になったとき、唐突に『絵を描きたい』と思ったんです。それまで描いたことなかったのに、画材を大人買いして、写真を参考にしながら思うままに描いてみました。すごく楽しくて、今もひとりの時間が取れると集中して描いています。そうやって、やりたいと思ったら、できるかどうかよりもとりあえずやってみる。ダメだったらやめればいいだけじゃないですか。やってないのに悩むなんて、『なんで!?』って全く共感できないです(笑)。迷うってことがないんですよね。それはもしかしたら、短い時間で決断をしなきゃいけないことが多いので、『どっちにしよう?』なんて考える隙間がないのかもしれない。例えば買い物も移動の合間の15分しかないことが普通だし、メニューも即決ですね」
穏やかで、やわらかそうな雰囲気に隠れている、はっきりとした意志と決断力。楽しい、嬉しいといった自分の感覚と直感に敏感であることで、「自分軸」のようなものをつくり上げているように感じた。一方で、常に追われていて、生き急いでいるようには全く見えない。どうやって、その好奇心と柔軟性の絶妙なバランスを維持しているのだろう。
YOU「緩急がついているのが好きなんですよね。仕事になったら仕事モードだし、カメラの前を離れて帰る頃は完全にオフモード。出かけるって決めた日は動き回るし、出ないと決めた日は家にこもって一日中韓国ドラマやYouTubeを見漁っています。仕事と休日という線引きではなくて、やりたいこと(オン)と思いっきり力を抜くこと(オフ)のメリハリをつけることが、自分にとっては大事です」
嫌なら、理由をとことん考える
テレビに映る彼女の仕事ぶりは、遊ぶような軽やかさが感じられる。「オンとオフ=仕事と休日」という線引きをしていないように、彼女の中で仕事と遊びの境界線はほとんどないという。
YOU「同じ仕事はひとつとしてなくて、やることも決まっていないので『仕事』だと思ってやっていることが、あまりないです。わりと判断を間違えないので、自分で選んだものなら楽しむ、というのが大切にしていること。仕事も遊びも、全力で楽しみたいと思っています。
もし、不安があったり『大丈夫かな?』と思ったりしても、行ってみなきゃ、やってみなきゃ分からないというのが大前提ですね。やったことがないなら、とりあえず一回やってみる。例えば初めてスノボに行ったとき、行くと決めたときは、楽しいかどうかなんて分からない。いざやってみたら、痛いし寒いし、散々なこともあるけれど、慣れてくると滑るのが面白くなって。興味を持って楽しもうとすれば、捉え方が変わるのかなって思います。そういう場面はたびたびありますね」
楽しめるポイントを見つけるけれど、直感的に違うと思ったら距離を取ったり、やめたりする。そこにも迷いはない。そのときに大事なのは、「嫌な理由」を考えることだ。
YOU「やってみたいけれど今は違うとか、なんか嫌だなって思うことがありますよね。そういうときは自分の感覚を信じて断ります。一度手を出したものだとしても、違うと思ったらすぐやめてしまう。そこはあまり迷いません。ただ、次に活かすためにも、嫌な理由をきちんと考えるようにしています。その時々で嫌な理由は違いますよね。人だったのか、手順だったのか、タイミングだったのか。縁がなかった、みたいなこともあります」
自問自答して、心に引っかかったことを整理できると、すぐ次のことを考え始めているのだそう。
YOU「本来性格が飽きっぽいので、ある程度まで把握できると新しいことをやりたくなるんです。時間がもったいないから、思いついたなら早くやろうって。そばを食べたくなったら絶対食べに行くし、描きたいと思ったらすぐ画材を揃えて描く。迷ったり悩んだりすることがないのは、天性だと思います。『やるやる詐欺』みたいなことを言われますけど、私は思い立ったら『今やればいいじゃん』って思っちゃうんですよね。あーだこーだと理由をつけてやらない人を見ていると最初は理解ができなくてイライラしていたけれど、息子が生まれてからいろんな人がいるって思うようになりました(笑)。あとは、経済的な側面も大きいですよね。私は遊びたいから稼いでいる部分もあるけれど、それぞれにいろんな事情があるだろうなと思います」
最近では、好きが見つからない、遊びたいことが分からない人も多いという。やりたいことが尽きないという彼女に「好きの見つけ方」を聞くと、こう返ってきた。
YOU「新しいことを知ったり、思わぬ出合いがあったりすると、『好き』の入り口が見つかりますよね。なので、影響を受けられる自分である、ということは大事なのかもしれません。例えば、どうして葉っぱが揺れるんだろうとか、どうして暑い毎日が続くんだろうとか。それは、感性が閉じてしまっていると疑問にも思わないはず。なので、オープンな状態だと新しい知識やきっかけが生まれやすいのかなと思います。
私は、知識が広がっていくのが楽しいから仕事をしていて、それが遊びにもなっています。そんなに難しく考えなくても、遊びなんていっぱいあるし自分でもつくれるから、思いついたことを片っ端からやってみたらいいんです。『楽しいことはないかな〜』って常に探していると、勝手に見つかると思いますよ」
「遊ぶ」と聞くと、仕事とは割り切った時間を想像しがちだ。しかし、遊び場は勉強の場でもあるとYOUさんは言う。確かに遊びから得た学びが仕事に活きる経験は幾度もあり、多方面にわたる好奇心と決断力は新しい世界を広げてくれるのかもしれない。柔軟に、果敢に、やりたいと思ったらやればいいしやめたいと思ったらやめればいい。
遊びとは、自由とは、そこに「自分の意志」がなければ楽しめないものだと彼女は教えてくれたように思う。自分にとって居心地のいい遊び場を守りながら、遊ぶことで知っていく楽しさも謳歌したい。
取材・文/羽佐田瑶子 写真/須田マリザ
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