知識や経験を積み重ねる“学び”と聞くと、長く険しい道のりをイメージする人も多いだろう。しかし、株式会社チームボックス代表の中竹竜二さんが説く「Unlearn(アンラーン)」という思考法を身につけると、学びに対する固定観念を覆すことができるという。そうした思考法を武器に名門・早稲田大学ラグビー蹴球部で監督を務め、チームを2年連続で全国大学選手権優勝に導いた中竹さんに、学びの概念を変える方法について話を聞いた。
(この記事は2021年9月21日(火)に発売された『XD MAGAZINE VOL.02』より転載しており、記事の内容は取材当時のものです)

中竹竜二
1973年、福岡県生まれ。2006年に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自立支援型の指導法で2年連続で全国大学選手権優勝。その後、日本代表のヘッドコーチなども務め、2014年に企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立、代表を務める。
大手企業のリーダー育成やスポーツ指導者育成に携わる中竹竜二さん。彼が大切にしているのが「Unlearn(学びほぐし)」という人材育成の概念だ。“学び”を意味する「Learn」に打ち消しの「Un」がついているので、学びを捨てるというネガティブな印象を受けるが、中竹さんは「これまでの知識や経験を捨てるものではない」と語る。
中竹さん「Unlearnとは、今まで自分が信じてきた知識や経験を“疑う”こと。たとえば、仕事がルーチン化していると感じたときに一度立ち止まって、自分の働き方や仕事内容を根底から見直してみるのもUnlearnです」
これまで多くの企業の人材育成に携わってきた中竹さんは、Unlearnができている人の特徴について「いい意味でプライドが捨てられる人」と話す。
中竹さん「ある大企業に勤め、出世をしていた男性は、ひとつの部署に留まらず、自ら希望して社内のあらゆる領域をわたり歩いていました。彼は新たな部署にいくと、必ず若手の部下に『わからないから教えてほしい』と、素直に頼んでいるそうです。彼は日本社会に根づく“上司たる者、部下の手本であれ”という固定観念をUnlearnしているので、プライドを捨てて部下に教えを乞うことができるのです」

また実践している人は、周りにも好影響を与えるようだ。中竹さんの言うように、柔軟な発想をもち、自身のポジションに固執していない人物にはリスペクトを抱きやすいのはたしかだ。彼に出会った部下にも“上司は部下に頼ってもいい”という新たな価値観が生まれ、互いに高め合うことができる。中竹さん自身も昔から他者に頼ることに抵抗はなかったという。
中竹さん「私は非常に冷めた子どもで、小学生の頃から“自分にはずば抜けた才能はない”と自覚していました。なので、ひとりでは何も変えられないけど、自分よりも能力が高い人と一緒なら成果が上げられるはず、と考えていたんです。ラグビー部で主将をしていたときも私ひとりが全員を引っ張るのではなく、部員一人ひとりがリーダーになるようなチームづくりを目指しました」
子どもの頃から自分を客観的に見てきた彼だからこそ、不要なプライドを捨てて前に進むことができたのだ。
中竹さんは、指導経験がゼロの状態から早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任した。大学対抗戦最多優勝記録を誇る名門・早稲田大学ラグビー蹴球部での監督時代について、中竹さんは「Unlearnの日々だった」と振り返る。
中竹さん「大学卒業後に留学をして、日本の企業でサラリーマンをしていたので、監督は未経験。そのため選手たちは、ハイレベルな指導をしていた前任の清宮克幸監督と私を比べて、指導力不足を罵りました。私は反論せず、試合に負けるとき『申し訳ない、すべて私のせいだ』と謝ったことがありました。すると、選手の一部が勝てない理由を監督の指導不足にしていることが、何より勝てない理由なのではないかと気づき、そこから私も含め、みなが自分自身に向き合い、意識を変化させていきました。自分たちで意見を出して助け合う“考えるラグビー”をするようになったのです。以来、彼らにとって監督は指示を出す人ではなく、学生と対等な関係で一緒に勝利を目指す人に変わった。私も含めて監督に対する固定観念を捨てられたのは、チームにとって大きな財産になりましたね」
恥を捨てて弱さをさらけだした中竹さんだが、「自分にとっては大した“恥”ではなかった」と笑顔で話していたのが印象的だった。

じつは、Unlearnをしたあとには、必ず行わなければならないことがあるという。
中竹さん「Unlearnをしたら、新たに価値観や知識を得る『Relearn(学び直し)』をして初めて“学び” が完成します。自分の固定観念を一度手放し、空いた隙間に異なる知識や価値観を入れる、 UnlearnとRelearnはセットなんです」
Relearnによって自分の価値観の幅を広げることで、より多角的に物事を捉えられるようになるという。
中竹さん「私はUnlearnを推奨していますが、個人的には学ぶことが大好きで、学びに対して見返りも求めていません。幸い、仕事を通して様々な人の価値観に触れられるので毎日UnlearnとRelearnを繰り返しています。これからも自分自身が楽しみながら、たくさんの人の学びを支援していきたいですね」
学ぶために凝り固まった知識や思い込みを手放すことができれば、世界はさらに広くなるのかもしれない。
取材・文/真島加代 写真/タケシタトモヒロ




