楽天が2016年9月にフリマアプリ「フリル」を提供するファブリックを買収してからおよそ1年半。これまでは楽天が提供するフリマアプリ「ラクマ」と共存する形で2つのフリマアプリがグループ内で運営される形となっていたが、ついに2月26日に2つのサービスが統合し新生「ラクマ」としてのスタートを切った。
「フリル」という名前はなくなってしまったものの、旧「フリル」が存続サービスとなり、旧「ラクマ」が2019年中にサービスを終了することが発表された。その為、新生「ラクマ」もファブリックが運営主体となり今後もサービスが提供される形だ。
「フリル」は日本初のフリマアプリとして登場したサービスだ。急激に普及したスマートフォンとの親和性も手伝い、現在はフリマアプリは誰もが知るサービスとなったが、ファブリックがベースを作りあげたといっても過言ではないだろう。
そんなファブリックのCSチームを率いるカスタマーサポート事業部 統括責任者の齋藤高輝氏に、フリマアプリによりどのような体験が生まれ、どのようにCSチームが作りあげられたのかを伺った。
―― まず、ここ数年でフリマアプリは一気に広がりましたが、フリマアプリによって、ユーザーにどのような価値がもたらされていると考えていますか。
齋藤:新しい価値としては、スマートフォンで家にあるモノを簡単に撮影して、すぐ出品して、すぐ売れるという、速い体験ができるところですね。
これまでは、CtoCといえばネットオークションだったと思うのですが、手続きが面倒と感じていた面がありました。その点をよりカジュアルにすることができたと考えています。
シェアリングエコノミーという考え方が、海外も含め大きくなっていますが、その考えが日本に根づくきっかけにもなったかもしれません。
家にある物を簡単に売ることができて、それをお金に換える。さらに、そのお金で新しい物を買えるという、そのような循環で生活を豊かにするきっかけが生まれていると思います。
―― 私の家族との会話でも何かを捨てようとする前に「フリマアプリで売れるかなあ」ってことをよく言うようになりましたね。捨てる前に考えるようになったといいますか。
齋藤:確かに捨てるという発想が、売るって発想に変わったというのはあるかもしれないですね。
捨てる前に「これを欲しい人がいるかもしれない」って考えますよね。可能性を信じたくなるところがフリマアプリにはあると思います。
スマホを持っていない人が少ないぐらいの時代になったと思うので、誰でも手軽に出品できますしね。
僕も経験があるのですが、スマホのカメラで簡単に撮影して出品したものが、いいものだとすぐ売れてしまうので、その感動は結構大きいと思います。
―― 実際にラクマでは売れた商品の40%が24時間以内に売れているそうだ。出品される商品はある意味1点ものになるため、買いたいものをこまめにチェックするユーザーが多い側面もある。
―― ファブリックでは、コアバリューとしてずっとユーザーファーストを掲げてきていますよね。大切にされているポイントはどういったところになるのでしょうか。
齋藤:「必要とされるものを作る」というのが大前提としてあります。では、必要とされるものは何なのかってことになりますが、我々はユーザーから使ってもらえるものが、必然的に必要とされるものなのだと考えています。
そう考えたときに、ユーザーが求めるものと向き合う為には、「ユーザーと直接対話をしながら作っていくのがベストだ」というところに、ファウンダー陣が行きつきました。
ファウンダーは全員男性なのですが、当初は女性限定のフリマアプリとしてサービスを開始したんですよね。女性が使うものを男性が妄想してもうまくいかないだろうというところで、直接使ってもらいたい層にインタビューして作り上げた経緯もあります。サービス開始前に100名以上にヒアリングしたのですが、その後も継続してヒアリングは続けています。
―― ユーザーファーストを実現するために、サポートチームにも実際のヘビーユーザーを採用しているとお聞きしたのですが、どのようなメリットを感じていますか。
齋藤:フリル(現ラクマ)は、2012年7月に日本初のフリマアプリとしてサービスを開始しているのですが、当時はそのフリマアプリのCSをどうしたら良いのかというモデルがありませんでした。モデルがない中で、CSをどうするか考えた時に、使っている人が一番わかるのではないかというのが、発想としてあったんです。
では、使っている人を採用するとどのようなメリットがあるのかというと、大きくは3つあると思います。
1つ目としては、自分自身もヘビーユーザーなので、フリマアプリを使っている相手のシチュエーションがイメージできるんですよね。ユーザーの問い合わせに対して、必然的に共感が生まれるというか。
「このタイミングでこういうことを不安に感じるんだよな」とか、「メールの文面だとこう書いているけど、たぶん奥にはこういう不安があるのだろうな」とか、かゆいところに手が届くじゃないですけども、ユーザーの思いをキャッチできるんですよね。
なので、必然的に、親身なサポートができる状態になったというところが、まず一つ大きいところだと思います。
もう一点が、CSではお問い合わせいただいたことに対して実際に検証して、メール対応をするってプロセスを踏むんですけれども、明らかにサービスのことを知っているので、概要研修みたいなのがほぼほぼ必要ないんですよね。なので、研修の時間もすごくショートカットできるので、すぐ即戦力で現場に投入できるというメリットもあります。
最後の3つ目はちょっと独特なのですが、やっぱりユーザーにはラクマのファンが多いんですよね。なので、CSに加わったメンバーも単にサポートをするだけではなくて、一緒にラクマというサービスをよくしていきたいという自発的な気持ちを持ってもらえるので、単純にサポートをするだけではなくて、「この機能ってこうした方がいいかもしれない」といったアイデアを出してくれるんですよね。
例えば、「ユーザーからすると、この動線は本当にストレスなので改善したい」というケースがあった場合に、エンジニアやデザイナーと意見を交わしながら作っていけるというところがあります。
なので、サービスをよりよくしていきたいという気持ちが強いことが大きいですね。
―― 何割ぐらい実際のユーザーから採用できているのでしょうか?
齋藤:ほぼ100%ですね。なので、有料求人媒体を使ったことがないんですよね。求人する場合には、アプリのプッシュ通知で「一緒に働きませんか?」と送る形にしているので、求人はアプリを使っているユーザーにしか知り得ない形になっています。
オフィスが東京なので、関東圏内のユーザーに絞り込むような配慮はしています。
―― ファブリックでは、開発スケジュールの中にCSメンバーによるレビューがスケジュールに組み込まれており、そこをクリアできないとリリースできない仕組みになっているという。ある意味厳しいユーザーレビューが常に行われているという珍しい環境だ。
―― フリマアプリで商品を購入した時に、商品にメッセージが添えられて届いたことがあるのですが、手書きですごいほっこりするようなメッセージだったんですよね。そういう文化って、フリマアプリにあると思うんですけど、どのようにして生まれたと考えていますか。
齋藤:そうですね。「フリル」には当初からフォロー機能があったので、一定のファンを作るというところに注力する面もあって、必然的に生まれたカルチャーなのだと思っています。
1人のユーザーさんからリピートして買ってもらえるような関係ができると、やっぱり、いろいろな人にリピートして欲しいって思うようになるので、そういった流れで、ホスピタリティーとかは必然的に生まれたのではないでしょうか。
「ラクマ」で実際にかなり売っているスタッフもいるので、「こうするといいよ」みたいなアイデアがいっぱい出るんです。そういった情報をブログなどで積極的に配信しているので、それを参考にしてくださるユーザーも多いと思います。
―― 現役のユーザーがサポートにいると心強いですね。サポートの流れで個別にアドバイスするようなことはあるのでしょうか?
齋藤:現状は個別にアドバイスというところまでは行っていないのですが、将来的にはそういったアプローチも検討していきたいですね。
―― ずっとユーザーファーストで取り組んできて、現在のラクマで、こういうところはうまくいっているところだとか、ここはもうちょっと何とかしたいとか、今後こうしていきたいみたいなところがありましたら。
齋藤:「親身に対応する」ということがカルチャーとして根づいてきたと思うんです。無機質なテンプレ返しみたいな対応ではなく、割と人間味があるような対応ができる組織は作れてきました。ただ、親切に対応するがゆえに、対応が遅れがちな面が出てきています。ありがたいことに、ユーザー様がすごく増えまして、多くの問い合わせもいただいています。そこで、質を担保しながら、いかにスピーディーに返していくかは、現在取り組んでいる課題ですね。
あとは、より安心で安全に使っていただけるようなマーケットプレイスにするために、パトロールや不正対策なども、より強固に対応していきたいと考えています。
やはり対策をやりきったということはなく、対策をすり抜ける人が出てきて、いたちごっこになってしまう面があります。
単純にリソースを補完するという手段もあるんですが、テクノロジーを使って撲滅する取り組みも楽天と連携して進めています。
―― サービスを提供する中で、ユーザーに生まれている新しい体験がわかるようなエピソードなどはありますか。
広報:ハンドメイドは、出品している人が2万人以上いるのですが、インタビューしてみると、ほとんどの人が30代以上の女性です。みなさん結婚や転職、退職を機に、今までとは違う生活環境に入って、空いた時間に作品づくりを始めるそうなのです。
昔であれば、近所の人に自慢して終わっていたものが、フリマアプリで出品することで、日本中の人たちが「かわいい」と褒めてくれたり、実際に買ってくれたりして、いろいろな人が評価をしてくれる。
一方で、家では家事をどんなに頑張っても旦那さんは褒めてくれないし、家の中にずっと閉じこもっていると、外から隔離された社会の中にいるような気になってくる。
そんな中で、出品することで承認欲求を満たしてくれる要素になっていると。
―― ほかにも、持て余した高級品を出品して、若い人とのやり取りを楽しむ人。育児で家にこもりがちだった人が、メッセージを添えたモノを発送することを習慣にすることで、生活にハリが出ている人など、モノを起点とした新しい交流が生まれているそうだ。
広報:ママ層のユーザーさんって結構多いのですが、子どもの服とか靴って、すぐにサイズアウトしちゃうので、結構フリマアプリに向いているんです。使えなくなったから出品すると、同じようなサイズ感のお子さんがいる人が買ってくれるわけなのですが、同じように成長していくので、その方をずっとフォローしていけば、毎回その方から買うってことができるんです。バーチャルといいますか、フリマアプリの中でのママ友ができるような関係性が、できあがったりすることもあるそうなのです。
あと、子ども服って捨てるのはすごく心が痛らしいんです。自分の子どもが使った物だし、まだまだ使えるというのはわかっているから、誰かが使ってくれるって考えると、すごく気分が楽になるそうで、高く売れなくても、捨てずに済むので助かってるって声もあります。
―― 確かに、不思議な話ですね。継続的なコミュニケーションが生まれるというのが、一つのフリマアプリの特徴にもなり得ますね。リアルのフリマだと一期一会というのが普通だと思いますが。
齋藤:もちろん、一期一会のケースが多いとは思います。単純に、フリマアプリというものに対して何を求めているのかというというのはユーザーさんによって異なります。「いらなくなった物を売りたい」だけの人もいれば、「いらない物を売ることによって、いろいろな人と交流したい」という目的を持つ人もいたりして、それぞれ目的は変わってくると思うんです。
いろいろなユーザー層に、どういう体験を提供していくのかっていうのは、我々はいろいろな想定を考えて対応していかなきゃいけないと思っています。すぐ売りたいという人には、さらに売りやすくしていくことが必要ですし、交流が生まれるカルチャーも、我々がアナウンスしていくことで醸成していけたらなと思います。
―― 最後に、ユーザーに対してどういった価値を提供するかというところで、大事にしているところを改めて教えていただけますか。
齋藤:まず大前提としてあるのが、安心で安全に取り引きができるマーケットプレイスであることを、価値として提供していきたいと考えています。そして、ベーシックな部分になるのですが、ユーザーと共に作っていく姿勢は今後もずっと続けていきたいです。もう1つは、ラクマというアプリケーションに出会ったことで、ユーザーの生活が豊かになるような機会を与えていきたいですね。大きくその三つの価値というところは、今後もユーザー様のほうにご提供していきたいなというふうに考えています。
サービスが急成長する中で、CSも同様の成長が求められている。年内にCSのスタッフを倍増させる計画もあるとのこと。
ユーザーからの採用は最優先に考えつつ、ほかのアプローチも模索して行くとのこと。今回の記事で興味を持った方はコンタクトしてみると良いかもしれない。
撮影/畠中彩