休日の朝、早起きしてお気に入りのカフェへ。おいしいパンを朝食に、コーヒーを飲みながら本を読む。その間に洗濯が終わっていたら、どんなに幸せだろうか。
そんな“幸せ”を実現するサービスが、OKULABが手がけるコインランドリー「Baluko Laundry Place」だ。店舗にカフェを併設し(一部を除く)、洗濯の時間を“カフェで過ごす自分の時間”へと変えた。また同社の洗濯代行サービス「Laundry OUT」では、日常の洗濯物を預かり、洗濯・乾燥・たたみまで完了して届けることで、日々発生する洗濯から顧客を解放した。
創業以前、ファウンダーの一人である永松修平氏は、メーカーのエンジニアとして業務用洗濯機を開発し、久保田淳氏はそのメーカーでコインランドリー事業の責任者を務めていた。共に仕事をする中で、両者が目指す洗濯事業の方向が一致していることが分かり、一緒に独立するに至ったそうだ。そんな両者が目指す新しいコインランドリーと、その経緯について話を聞いた。
洗濯機の良さを伝えるために“自分が使いたくなる”コインランドリーを
コインランドリーの業務用洗濯乾燥機は、家庭用の洗濯機にはない高温の「ガス乾燥」機能があるため除菌効果にも優れ、短時間でふんわりと仕上がる。そんな利点を知り尽くし、さらに高性能の洗濯機をつくることに夢中だった永松氏だが、自身が開発した洗濯機を使ってもらうには、顧客との接点であるコインランドリーに課題があると感じた。
永松氏「自分自身で業務用洗濯機を開発しているのに、日常ではコインランドリーを使っていませんでした。自分が使いたいと思える店舗がなかったからです。まず自分が行きたくなるコインランドリーが必要だと考えました」
一方で久保田氏は、一般的なコインランドリーに不便さを感じていたものの、繰り返し利用していたという。
久保田氏「引越しの際、布団洗いを利用したことがきっかけで、コインランドリーのリピーターになりました。しかし、店内の居心地は良いとは言えず、洗濯機を回して一度帰るのも面倒。不満はあるものの、それでも使ってしまうことに大きな可能性を感じました」
面倒でも使ってしまう理由は“時間”と“仕上がり”にあったそうだ。布団を洗濯する場合、クリーニングに出すと受け取りまでに約1週間、価格は7〜8,000円ほど。しかし、コインランドリーで洗えば1時間程度で仕上がり、1,000円程度の出費。一度に洗える量も多く、毛布なら3〜4枚入れてもふかふかに仕上がる。
久保田氏「日常の洗濯だって、コインランドリーを使えば質も効率も良い。今まで洗濯に費やしていた時間をもっと有効に使えれば、家族と過ごしたり、自分と向き合ったりできます。人々がもっとコインランドリーや洗濯代行サービスを使えば、それぞれのライフスタイルを大切に生活できるだろうと考えました」
独自開発の洗剤で、「肌も衣類も地球も喜ぶ」洗濯を追及
家庭用洗濯機よりも、短時間で高品質に仕上がるコインランドリーの洗濯機だが、Baluko Laundry Placeではさらなる質の向上を目指し、肌にも衣類にも地球にもやさしい洗濯サービスを追及している。
ベーシックな『スタンダードコース』で使用される洗剤や柔軟剤は自社で開発したものを使用。希望する仕上がりの状態によって、コースと洗剤を分けた。オリジナルの洗剤&柔軟剤は天然のアロマオイルを使用し、洗濯後にはラベンダーやユーカリなどのすっきりとした香りがほのかに漂う。
久保田氏「晴れた日に風になびく洗濯物は気持ちのよい光景ですが、洗剤や柔軟剤との相性で衣類の繊維をダメにしてしまうこともあります」
永松氏「ただ洗ってきれいにするだけではなく、衣類が長持ちする洗濯方法を追及しています。たとえば当社の『ナチュラルコース』では衣類を傷めず、赤ちゃんの肌や敏感肌の人にもやさしい木村石鹸の『SOMALI』を使用。普段肌に触れることの多いタオルの洗濯に適しています。『スタンダードコース』は、オリジナルの洗剤&柔軟剤の『peu(ピウ)』を使用。一定の洗浄力は保ったまま、衣類はもちろん肌や環境にも優しい中性洗剤です」
オーガニックタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC」の代表者と、よく“洗濯談義”をするという永松氏。
IKEUCHI ORGANICでは最大3年保証のメンテナンス付きタオルケットを販売している。保証期間中に戻ってきたタオルを調べると、洗剤が原因で品質が損なわれているものが多いそうだ。柔軟剤が繊維の表面をコーティングしてしまい、吸水性が損なわれるから、と永松氏は指摘する。
永松氏「従来の洗剤や洗濯機、クリーニングサービスは洗濯時間の速さや、効率に目が行きがちで『良い洗濯とはなにか』といういちばん大切なところを追求していないと感じています。私たちは、自分が使いたい洗濯機、より良い洗濯とは何なのかを考え抜きたい。だからこそ、洗濯機の回転数を1RPM(回転毎分)単位で検証し、洗濯の方法を開発しています。衣類にとって良いものを追及し、真摯に向き合うことでお客様へ品質を約束していきたいです」
なぜここまでこだわりを持つのか。これはOKULABの理念である「世界中の人々に【衣】との新たな関係を提案する」に通じるところがある。提供するサービスの目指す水準が“洗えればいい”というレベルではなく、衣類と大切に長く付きあえる関係性を築いてほしいと考えているからだ。
久保田氏「検証したわけではないですが、服もタオルも洗い方を変えれば寿命が長くなると思います。お客様だけでなく、お客様の衣類までも大切にしたい。ただ洋服をキレイにするだけじゃなくて、洋服を長生きさせることまで考えていきたいです」
“自分が使いたいと思えるコインランドリーをつくる”という思いからサービス開発を続けた結果、今では両者ともに自社サービスのヘビーユーザーだ。自身がユーザーであることで、顧客の立場からサービスをよりよく知ることができる。それによって、さらなる品質向上へとつなげる。
カフェを併設し“生活のルーティン”にコインランドリーを入れてもらう
洗濯機自体の性能は優れていても、清潔感や居心地の悪さなど、課題もあった従来のコインランドリー。しかし、利益率が高く、一定の需要があり、廃業率はコンビニの10分の1程度と言われている。そのため「サービス向上の必要がなかったのではないか」と永松氏は続ける。
永松氏「一般的なコインランドリーは居心地の良さを意識していないように感じます。長時間、店舗に“居座る”ことのないようにあえて座りづらい椅子を置いていると聞いたことも」
つまり、一般的なコインランドリーは、その利回りの良さから店舗体験が向上する必要がなかった。むしろ、居心地が悪いほうが長居する顧客へサービスを提供しなくてもよいので都合が良かったのかもしれない。
永松氏「濯乾燥を待つ間、心地よくその場で過ごせれば、本を読んだり、仕事をしたりして、自分の時間を確保できます。時間を有効に使ってもらうため、居心地のよい空間を作り、一部店舗にはカフェも併設しました」
代々木上原の店舗内にあるカフェのコーヒーは、京都の老舗「小川珈琲」から豆を取り寄せて提供。パンは、職人が毎日生地作りから始める「CROSSROAD BAKERY」から仕入れている。カフェだけでも来店の目的になるほどのこだわりだ。
久保田氏「平均的な洗濯&乾燥は約1,000円、プラス400円で美味しいコーヒーが飲める。カフェはさらにブラッシュアップを重ねて向上させるつもりです。洗濯物がなくても、地域の皆さんが毎日この場所に足を運んでいただくきっかけをつくっていきたいです」
江の島店などではビールを提供している。洗濯を口実に家を出て、息抜きする人もいるそうだ。
久保田氏「Baluko Laundry Placeの使い方は洗濯だけではありません。私も洗濯はせず、ここでコーヒーを飲んで帰ることが日課になっています。日々の生活の中でふらりと立ち寄ることのできる場所になる。人の生活のルーティーンに入れてもらうことで、より店舗を活用してもらえるはずです」
こうして人々の日常に溶け込んでいくと、場としての価値も高まる。
永松氏「コインランドリーの利用者は主に周辺地域の人々。コインランドリーが滞在する場になれば、地域の方々が交流する場所にもなれるはず。以前に三軒茶屋の店舗で、リピーターの高齢の方が若い利用者に使い方を教えていたのを見て、洗濯を切り口にコミュニケーションや、さらにはコミュニティを生むことも可能だと感じました」
同店舗では「お洒落なランドリーバックに洗濯物を入れて訪れ、洗濯中は仕事をする」「親子のコミュニケーションを深めながら洗濯をする」「洗濯しながら、地域の人々が会話をする」といった、新しいコインランドリーの光景が広がっている。
アパレル業界にも変革を。洗濯サービスで人と衣類の関係を変えたい
日本でも多くの店舗があるコインランドリーだが、その発祥の地はイギリスのロンドンとされる。欧米諸国の利用率は日本に比べ高く、海外も見据えて展開予定と久保田氏は言う。
久保田氏「洗濯における日本のクオリティは、海外と比べてもかなり高いと思います。とくにホスピタリティの面では、海外の同業者からも世界一と言われている。機能も、クオリティも、ホスピタリティも、すべて“丸投げしておけば安心”なサービスを、今後もつくっていきたいです」
さらに久保田氏は、サービス内容を洗濯のみに留めず、衣類と人との関係まで広げ、人々のライフスタイルにも言及した。
久保田氏「衣類を買うと洗濯サービスがついていたり、洗濯代行からコーディネートの提案までしてくれたり、着る服に悩む人に向けたサービスができたら、もっと生活は便利になるはずです」
洗濯はそもそも“服を洗いたいから”しているわけではなくて、“次に着る服が必要”だからしていると考えることもできる。例えば、1週間着た服を持っていけば、次の1週間に着る服を提供してくれるようなサブスクリプションサービスを提供することも、衣類にまつわるストレスを失くし、良い関係に導いていく選択肢となりうる。周辺にはまだまだ可能性が眠っていそうだ。
優れた顧客体験を提供するにあたり、機器の開発だけでなく、顧客との接点であるコインランドリーという場をもアップデートし、生まれたBaluko Laundry Place。誰もが使いやすく、滞在しやすい空間を作り出すことで、訪れることが人々の日課に組み込まれ、さらにサービスが利用されるようになる。
一風変わったコインランドリーではじまる“新しい洗濯体験”から、たくさんの“新しい日常” がつくられていることだろう。
文/もりや みほ 取材・編集/葛原 信太郎 撮影/須古恵