「自動車業界はいま100年に1度といわれる大変革の時代を迎えています」ーートヨタ自動車代表の豊田章男氏は、現在の自動車業界の現状をこう表現した。
業界トップのトヨタが「クルマを作る会社から、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社モビリティカンパニーにモデルチェンジする」と宣言するほど、大きな変革を迫られているのがいまの自動車業界だ。
変革の中心には「電動化」「自動運転」「シェアリング」「コネクティビティ」といった新技術の登場がある。それは「競争のルールも、競争の相手も変わる」と豊田氏が説明するように、モノづくりだけで勝負できた時代の終焉が近づいていることを意味している。
2019年からサブスクリプションサービスを開始
そんな中トヨタは、“利用”に重点をおいた新サービスとして、11月1日にサブスクリプションサービス「KINTO」を2019年はじめを目処に開始することを発表した。まずは東京からのトライアルという形にはなるが、メーカーがこのようなサービスを提供するのは初めてのこととなる。
KINTOは、好きなクルマに月額定額制で乗ることができ、(おそらく一定の条件付きで)自由に乗り換えられるサービスだ。料金には、税金や保険、車両のメンテナンス費なども含まれており、車検も不要だ。
まだ料金や対象車種などは明らかにしておらず、具体的な運営方法や形態などは詳細を検討中としているが、イメージとしては乗り換えが容易となったリースと考えておけば間違いではないだろう。
サービス名称には“必要な時にすぐに現れ、思いのままに移動できる”「筋斗雲」のように使ってもらいたいという想いが込められているという。実際、どの程度自由に乗り換えられるのかという点がこのサービスのキモとなる。
国内での月額定額制の先行事例
先行して国内で展開しているクルマの月額定額制のサービスとしては、ガリバーを展開するIDOMが2016年8月に開始した「NOREL(ノレル)」がある。このサービスの特徴を見れば、KINTOがどのようなサービスになるか参考になるところがあるだろう。
上記にあるように一部新車の取り扱いもあるが、メインは中古車を扱っており、利用料は月額59,800円(税抜)から。価格は選択する車両によって異なる。
NORELによれば、「1車種を5年以上ずっと使い続ける場合は購入した方がお得なケースがほとんど」とのことで、長く乗る場合であればちょっと割高となる価格設定でサービスを提供している。その代わり、最短90日で乗り換え手続きを行うことができ、その後1ヶ月ほどで車を交換できるというサービスとなっているため、だいたい4ヶ月ごとにクルマを乗り換えることも可能だ。
“愛車”サブスクリプションサービス
トヨタはKINTOのことを「愛車サブスクリプションサービス」と表現している。“愛車”とあえてつけた背景には、「どんなに時代が変わったとしても、お客様にとってクルマがいつまでも愛車であり続けること」を目指したいという想いが込められている。
所有する以外の選択肢として、カーシェアリングやレンタカーがあるが、“クルマに愛着か持てるかどうか”というのはサブスクリプションの大きなポイントになるかもしれない。
カーシェアリングサービスは、企業から使いたい時だけ借りたり、ユーザー間で貸し借りできるタイプのサービスがあり、価格もレンタカーより安く設定されている。所有するだけでも税金や駐車場代、保険、メンテ費用などのコストが発生してしまうのと比較すれば、使いたい時だけ使えるカーシェアリングは、コスパの高いクルマとの付き合い方だ。
ただ、「借りたクルマには愛着を持てない」といった層にとっては物足りない選択肢にもなる。そんな層を狙うのがKINTOというサービスになるだろう。
KINTOはどのような顧客体験をもたらすのか
KINTOは新しい顧客層を開拓できるだろうか?と考えると、おそらくNOではないかと思う。ただ、クルマとの付き合い方を変えることで、新しいクルマ好きを生み出し、長く愛用してくれるユーザーを獲得できるかもしれない。
というのも、クルマは平均して8年程度所有するのが一般的で、数あるクルマの中から、その1台だけを楽しみ続けるというのが通常であるということ、そしてあらゆるシーンで使えるような利便性の高いクルマを選びがちであるということ(家族が増えたからミニバンに乗り換えるなど)を考慮すれば、クルマの楽しさや良さを本当に味わえているかというと疑問を感じる部分があるからだ。
初めてのクルマ選びに関しては、知識がないので自分にあったクルマを選ぶのも困難だ。もちろん試乗もできるが、そこですべてを理解するのは不可能といっても過言ではない。
そういった意味では、色々なクルマを味わえるサブスクリプションというサービスは、クルマの本当の楽しさを知る機会を増やし、自分にあったクルマに出会う機会を作り、ファンを増やしていける取り組みとも考えられる。
「スポーツカーに乗ってみたいけど、家族がいるから無理だな・・・」というのはよく聞く話だが、そういった人が期間限定で楽しむきっかけにすることができるのではないか。そして、思い切った選択も取れるようになる。
それから、夏用のクルマと冬用のクルマでの使い分けも可能になるかもしれない。夏はオープンカーで、冬はSUVでといった選択肢もできてくるという意味では、クルマへの満足度をあげる可能性も高まる。
“所有”から“利用”に焦点が移った最初のサービスといっても過言ではないKINTOがどのようなサービスになるのか、楽しみに待ちたい。