ベーシックアイテムだからこそ「まいにち、着たい」「まいにち、持ちたい」と、お客さまに感じてもらえるアイテムをつくりたい――。
新しいスタンダードをつくろうとする、日常使いのアイテムを捉え直そうとする、そんな動きがメーカーに広がっている。
顧客のニーズを的確に捉えて商品化するために、アダストリアがとったのは顧客と一緒に商品をつくるというアプローチだ。
顧客と一緒に服をつくる
株式会社アダストリアは、「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」などを国内外で17ブランド、約1,300店舗を展開するファッションカジュアル専門店チェーン。そんな同社のライフスタイル提案型ブランド「studio CLIP」では、顧客と一緒に商品をつくるプロジェクト「みんなでつくる HELLO! iDEA HELLO! New basic」を2019年2月にスタートさせた。同プロジェクトでは、アンケートや座談会などで顧客の生の声を聞き、顧客と共に商品づくりをおこなう。
第1弾商品となったのは「春のピクニックボーダー」。2019年1月のウェブ先行販売は1日で、ほぼ完売。2月にスタートした店頭販売も一週間で完売。追加生産が行われるほどの好評を得た。第2弾は「リネンシャツ」で、3月20日からウェブ先行発売がスタートしている。今後は2ヶ月に1商品ペースで、顧客とのものづくりを進めていくという。
なぜ、同社は顧客と共に商品づくりに取り組むのか。
社内の予想とは異なる、顧客のニーズを把握できた
「みんなでつくる HELLO! iDEA HELLO! New basic」はどのような背景で生まれたのだろうか。同プロジェクトが生まれた背景について、アダストリアの広報担当者はこう語る。
「studio CLIPは、弊社のオンラインショップを通じた会員数がかなり多く、他の弊社ブランドと比べてSNSのエンゲージメントやメルマガの回答率が高い。すでにお客様と良い関係を築けていましたが、それを活かす施策を実施できていませんでした。studio CLIPであれば、お客様と一緒に商品づくりを行うことで、ある程度の手応えは得られるであろうという予想があり、商品づくりの対象をベーシック商品に絞って、プロジェクトをスタートさせました」
プロジェクトがスタートした当初、社内の商品開発チームからは疑問も出ていた。「ベーシック商品のデザイン変更は、顧客からの支持を得られないのではないか」と、社内の商品開発チームは想定していたそうだ。しかし、プロジェクトを実施してみた結果、社内だけでは発見できないニーズにたどりつけた。
「ベーシックな商品であっても『カラーリングにはトレンド感を出してほしい』『シンプルに仕上げつつ、オシャレに見えるデザインアイデアは入れてほしい』『ベーシックだからこそ、シルエットは自分に合ったキレイなシルエットを出してほしい』など、お客様が様々な要望を持っていることが分かりました」
リネンシャツの作成にあたっては「studio CLIPメルマガを受信しているオンラインショップ会員、かつ2018年8月1日~2019年1月31日の間にstudio CLIPのウェアを1点以上購入したことのある方」を対象にアンケートを実施。シャツを着る際に気になるポイント、好きなデザインのディティール(袖、襟、シルエット)、カラーに関しての意見を集約、分析し、商品の詳細を決定していった。
できあがった商品は「閉じて品よく開けてカジュアルにも着られる『女性らしい角を取った小さな襟』」、「手首がキレイに見える『七分袖』」、「おしりをほどよくカバーする『フレアライン』」など、顧客の意見を反映したデザインに仕上がった。
顧客の声を聞くことで、企業内だけでは気づけなかった顧客の視点やニーズを知ることができる。その結果生まれた商品は、追加生産が必要になるほど支持されている。顧客のニーズを汲み取るだけではなく、顧客が商品開発プロセスに参加していること自体に価値がある。
「みんなでつくる」ことで生まれる特別な顧客体験
「みんなでつくる」というのは、これからの時代に支持されるブランドのポイントのひとつだ。
顧客と一緒に商品づくりをすることで、ニーズを直接聞き、商品に反映させることができる。加えて、自分の意見が反映された服は、他の服とは異なる愛着を生む。ブランド自体のファンにもなっていくだろう。
24ヶ月連続でクラウドファンディングを展開し、顧客ニーズを的確に捉えた服づくりをおこなう「ALL YOURS」の木村昌史氏も、顧客を「共犯者」と呼び特別な関係性を築いている。共犯者は「ブランドへの参加権」を持っており、ブランド側の立場として新商品のアイデア提案もできるし、消費者として服のリペアを無料で受けることもできる。
木村「顧客の意見を取り入れてボトムアップに服を作ることで、各々が自分なりのブランドロイヤリティを作って欲しかったんです。インターネットが台頭して、雑誌で掲載されたりドラマで俳優が着た服が大量に売れる時代は終わりました。これからの時代、ファッション感度が高い人以外が求めているのは、自分が好きだと思ったモノへの参加権だと思ったんです」
顧客を“共犯者”にする、アパレルブランド「ALL YOURS」流の顧客体験の作り方
一方通行ではないブランドづくり、プロダクトづくりは、顧客に特別な体験を与える。studio CLIPの新しい試みは、そんなメッセージを我々に伝えてくれる事例の一つだ。