使い続けることを前提とするサービスでは、使うほどユーザー側に体験が積み重なる。愛着が増すほど、提供者側によるルール変更に反発が起きることがある。
「ユーザーさんはパートナー。一緒に価値をつくっていきたい」と話すのは、登山アプリ『YAMAP』を運営する、ヤマップ代表の春山慶彦氏だ。
電波が届かない山の中でもスマホのGPSで位置情報がわかることや、ユーザー間のコミュニティ機能などが支持され、2013年のリリース以降の累計ダウンロード数は280万件。
そのYAMAPが2021年7月、方針を大きく転換した。他のユーザーの活動などに「いいね」できる仕組みを、“循環型コミュニティポイント”と定義する「DOMO(ドーモ)」に刷新。ポイントをユーザー間で送り合うほか、山の再生などの支援にも使えるようにした。
「いいね」を撤廃し、3カ月で失効するといった新ルールに、当初はユーザーから戸惑いや批判の声が相次いだ。だが、ユーザーの質問に一つずつ返信し、春山氏自らがライブで対応する「DOMO意見交換会」なども経て、少しずつ受けとめ方が変化している。11月末時点で他のユーザーにDOMOを送った人は9.2万人、もらった人は10.9万人となり、ユーザー間で巡ったDOMO総量は2.6億に上った。
大きな変更の根底にある思い、新たに生まれようとしている顧客体験を探るため、福岡の本社を訪ねた。聞き手はYAMAPのユーザーで、プレイド社内の登山部副部長も務める稲葉航が務めた。
創造性を育む「遊び」として、登山を広めたい
――はじめに、春山さんが登山をするようになったきっかけを伺ってもいいですか?
僕が登山に出合ったのは、大学に入ってしばらくしてからでした。国内・海外の各地を訪れ、その土地の自然に親しんでいく中で、登山のおもしろさや奥深さに熱中していきました。
登山はスポーツと違って、厳密なルールがあるわけではありません。もちろん守るべきマナーはありますが、楽しみ方は自由です。同じ山を登っていても、感じ方は人によって違ってくる。とても心地のよい遊びだと思いました。
遊びには、「創造性」があります。遊びは単なる余暇ではなく、クリエイティブの源泉です。遊びがあるから人生の醍醐味を知ったり、遊びを通して、新たなアイデアを思いつく。登山にはそんな遊びの本質があると感じました。それが、ヤマップの創業にもつながっています。
――企業理念には、『人と山をつなぐ 山の遊びを未来につなぐ』と掲げられています。
山で遊ぶことを通して生まれる創造性、また自分の生命(いのち)を開放する感覚が、僕ら人類にとって、より重要になっていくと感じています。たとえば、登山ルートで切り立った岩場に遭遇すると、「最初に誰が登ろうと思ったんだろう」と考えたりしますよね。最初に登った人は、岩場に「登れるのか?」と挑発されているように感じて足をかけたのかもしれない。そうやって想像力、もっと言うと妄想力を刺激される機会が、登山にはたくさんあるんです。
登山はただ山を楽しむことにとどまらず、環境や風土を考える機会にもなります。ヘルスケアや、マインドフルネスという観点で、登山の社会的価値は、今後深まっていく。登山というアクティビティをレジャーという狭い枠から広げていきたい、という思いをYAMAPの企業理念に込めています。
――その実現のためにも、経験の浅い人でも登山を楽しめる、まさにYAMAPのようなサービスが必要になるはずだと。
はい。YAMAPは、登山中にスマホに内蔵されているGPSの便利さに気づいたことから構想しました。
ただ、開発する前に、YAMAPのアイデアを周囲の登山愛好家に聞いてみたところ、ほぼ全員に否定されました。「そんなものは要らない、紙の地図とコンパスで十分だ」と。
――理解されなかったんですね。
はい。でも、同時に理解してもらえないのも無理はない、と思いました。当時、GPSはプロの登山家や探検家が使う高価な専用機器でした。一般の登山者が、山の中でスマホを使う習慣もなかった。新しい価値に対して、大半の人は拒否を示すか、傍観します。人は、慣れていないものを受け入れるには、時間がかかります。
だから、YAMAPを広げていくには「登山中にスマホを使う」「スマホで自分の位置を把握しながら登る」という文化自体をつくっていく必要があると考えました。
新たな文化をつくるには、一人ひとりを大切にするしかない
――「新しい文化をつくる」といっても、とても難しいことだと思います。最初に何から着手していったのでしょうか?
とにかく一人ひとりを大切にして、理解を得ることから始めようと考えました。
具体的には、山に登りながらすれ違う人に、片っ端からチラシを渡していく。あるいは駐車場の車のワイパーにYAMAPのチラシを挟む。電話やメール、掲示板などあらゆる連絡手段を開放し、ユーザーさんからの問い合わせに対応する。創業から2年くらいまでは、土日を含めて僕のスマホで問い合わせに対応していました。
――代表自ら電話対応をしていたんですか! 近い距離での対応を積み重ねていったんですね。
網をかけるように一気にリーチしようとしても、使う方々の理解が追いつきません。YAMAPの良さや価値を知った上で使ってくださるユーザーさんを、一人ずつ増やす。そんな波紋のような広げ方でないと、文化として根づかないと思ったんです。
なので1対1で自分をさらけ出しながら、近距離でユーザーさんに接することを徹底しました。このときの姿勢は、僕らの顧客対応の原点とも言えます。
――直接やりとりをするなかで、ユーザーの変化を感じることはありましたか?
オフラインを前提としたアプリのため、初期は不具合が多かったんです。そこから顧客対応を積み重ねる中で、僕らの本気度と熱量がユーザーさんへ次第に伝わり、いち利用者から「一緒にサービスをつくっていくパートナー」といった雰囲気が出てきました。新しいアプリとワンオブゼムのユーザーの関係ではなく、「YAMAPの運営者と◯◯さん」という、1対1の関係性が生まれていくのを感じました。
サービス開始から半年ほど経ったころ、よく問い合わせをしてくるユーザーさんから「今度一緒にごはん食べに行かない?」と誘われたんです。
――それは興味深いですね。ユーザーが直接、サービス運営者を食事に誘うのは、あまりないことだと思います。
僕も驚きました(笑)。どんな人なのか知りたくて、技術責任者の樋口と2人で出向いたところ、「直接お礼を伝えたかった」と言われまして……。ダイエット目的で使い始めたら、やせて健康になった上に「40代後半でこんなに友達が増えるとは思っていなかった、生き方が変わった。ありがとう」と言ってくださった。YAMAPを通じて、たくさんの交流が生まれたそうです。
YAMAPではアプリ上でユーザーさん同士で交流ができます。登山道の最新情報をシェアしたり、活動日記を読み合ったりできます。コロナ禍前までは、ユーザーさん主催のオフ会も、全国各地で開催されていたんです。
ユーザーさんと直接接する中で、YAMAPが「誰かの人生に触れている」ことを教えてもらい、運営者として背筋が伸びる思いがしました。
ニッチコミュニティの熱量を“価値”にする仕組み
――今のお話は、YAMAPを象徴するエピソードですね。コミュニティに参加する楽しみは、私自身もYAMAPを使う理由のひとつになっています。自分の記録だけでなく、ほかのユーザーの投稿にもコメントできる機能は、山の最新情報をアプリに蓄積する目的も当然あると思いますが、どういった考えに基づいて設計されているのですか?
ウィキペディアのように、ユーザーの集合知を集めて登山地図の精度を上げていくことを第一の目的にしています。YAMAPのサービスのコアは、地図です。地図の精度と情報の鮮度が、ユーザーに提供できるいちばんの価値です。ユーザーが投稿してくれる活動日記をもとに、地図の精度と情報の鮮度を上げる取り組みは、今も懸命に続けています。
もうひとつ大事にしていることは、同じ趣味の人たちがつながる「コミュニティ」です。登山人口を増やし、山のよさを世に広げていくためには、運営者だけでは力が足りません。今、山を楽しんでいる人たちを束ね、その人たちと一緒に山のよさや楽しさを発信する。コミュニティの力によって、登山の楽しさや意義を、広く社会へ届けることができるのではないかと考えました。
――先ほどおっしゃった「文化をつくる」話にもつながりますね。
そうですね。そもそも、YAMAPのような同じ趣味でセグメントされたコミュニティは、僕らが生きていく上での、大切な「インフラ」になると思っています。人間は群れで暮らしてきた生きものです。一人では生きていけない。核家族化が進む現代社会では、血縁ではないつながり、つまり、コミュニティがこれまで以上に大事になってきています。
小さなつながりが数多くあると、生きやすくなります。ニッチなコミュニティがたくさんあり、その人の価値観や人生のステージに応じて、コミュニティを選択できることが重要です。趣味でたとえると、野球が合わないなら、サッカーや囲碁など自分が好きなものを選べばいい。コミュニティに関しても、そんな感覚で選ぶことができたらと思ってます。
ただ、コミュニティは事業化や維持することに難しさもあります。創業時、投資家にYAMAPの事業を説明して回っていたとき、「登山はニッチ過ぎるからやめた方がいい」と言われました。総務省統計局によると、2016年時点の登山・ハイキング人口は1,000万人弱です(※参照)。しかし、年に1回だけ山に登っている人もカウントに含んでいるので、実際に「登山を趣味として楽しんでいる人」はおそらくその半分だと思います。登山に行く頻度を考えると、たしかに市場規模は大きくないのかもしれない。
でも、そんなことはわかった上で、「やめた方がいい」という意見は無視しました(笑)。僕はお金儲けを目的に起業したわけではないし、市場規模の大小で登山を選んだわけではないので。
――たしかにニッチなコミュニティの存在は肯定したいですが、一方で経済合理性も見逃せない視点だと感じます。「金儲けが目的ではない」とおっしゃる意図を、もう少しうかがえますか?
今の時代は、売上高1兆円の会社が1社あるより、売上高100億円の会社が100社、10億円の会社が1,000社あるほうが、世の中は良くなると思っています。地域に根差し、企業活動を通して、社会課題の解決に取り組めるからです。
なのになぜ、「ニッチではダメ」と言われてしまうのか、ずっと考えていました。同時に、コミュニティに関しても、ほとんどが企業視点のマーケティング文脈で語られていることに違和感がありました。
ニッチなコミュニティの価値が理解されない理由を考えて、僕が思い至ったのが「熱量が“価値”として可視化できていないからだ」という仮説でした。
――たしかにYAMAPのユーザーは、登山で使うだけでなく、閲覧やコミュニティ参加も含めてアクティブな人が多いと感じます。その熱量が“価値”になっていない、とはどういうことでしょうか?
価値が価値として見える化されていない、またその価値が流通・循環する形になっていない、という意味です。もともと設定していた「いいね」も、何らか心が動いた証ではありますが、押したら終わりです。「いいね」を価値化し、貯めたり使ったり、循環させる仕組みがあれば、ニッチコミュニティの熱量の高さを可視化できるのでは、と考えました。
貯めたり使ったりできる価値の代表は、国が担保する貨幣です。ただ、今の貨幣は、マネー資本主義のルールで勝つ人だけが豊かになってしまう弊害を生んでいる。国が担保する貨幣以外に、仮想通貨でも地域通貨でもいいから、コミュニティに応じた価値や通貨が増え、流通・循環すると暮らしやすくなるのでは、と考えていました。
コミュニティの熱量を価値化し、循環する仕組みを構築できないか。3年前からずっと考えていて、実現したのが今回の「DOMO」というYAMAPのコミュニティポイントです。
ユーザーと共に未来をつくる。「DOMO」に込めた思い
――「DOMO」は“循環型コミュニティポイント”と定義され、YAMAP上でのさまざまな活動に応じて獲得できるようになっています。これまでの「いいね」と何が違うのか、改めて教えていただけますか?
過去の「いいね」は他のSNSと同様、コミュニケーションやお礼、また承認欲求に応える役割を持っていました。その良い点は引き継ぎながら、「いいね」を価値化し、外部経済にも貢献できるよう設計したのがDOMOです。
まず、DOMOを使い始めるとき、2000 DOMOがもらえます。その後は活動日記を公開するなど、YAMAPの機能を使うとその内容に応じて、DOMOがもらえる仕組みになっています。
DOMOはアプリ内ポイントとして「共感」や「感謝」を込めてユーザー同士で送り合えます。貯めたDOMOは、どんぐりの植樹や登山道の整備など「山の再生や保全」にも使えます。DOMOを山の手入れに還元することで、登山文化の存続につなげていきたい。現在、原資はすべてYAMAPの運営側が負担しており、アプリ外でDOMOが使われる際の費用も当社が出しています。
DOMOの名前は、挨拶や感謝の「どうも」にちなんで名付けました。もともと登山には、すれ違う人同士で挨拶したり、情報を共有するなど、利他的な行為が根づいています。YAMAPもサービス開始以来、利他的な思想を大事にしてきたので、コミュニティの中での利他的な行いを、DOMOを通じて後押ししたいと考えました。
――一般的な貨幣やポイントとは違うんですよね?
はい。国が担保する貨幣は、長く保有すると利子がつきますよね。そのため「貯めること」自体が目的化し、貯めている人が得をする状態を生んでいる。であれば、貨幣とは正反対の特徴にしようと思いました。
DOMOは長く保有できないよう、3カ月で失効する仕組みにしました。いわば“腐るポイント”です。ポイントを腐らせることで、貯めることよりも、使うことや送ることに重きを置ける。DOMOを通じて、利他的な行為とそれに伴うポジティブな感情の循環を促進したいと考えました。
――“腐るポイント”というのは興味深いコンセプトです。
そもそも、生物界には腐らないものは存在しません。現状、お金だけが腐らない。腐らないからお金がお金を呼び寄せる「マネー資本主義」がはびこってしまっている。お金を腐らす仕様にすれば、金利や金融取引を中心とした「金融経済」ではなく、具体的なモノや自然資本をベースとした「実体経済」に近づきます。そうすることで「農業や漁業、林業など一次産業に従事している人が報われる社会になるのでは」という思いがありました。
……でも、こうした独自のコミュニティポイントをつくりたいと発案した当初、社内メンバーからも“ぽかん”とされました(笑)。何人かのユーザーさんにDOMOのアイデアを話したときも、多くの方が「理解できない」という反応でした。慣れ親しんでいる「いいね」をなぜ変える必要があるのか、今のままでいいじゃないか、という声が多かったです。
――実際にDOMOを発表した際、ユーザーからの反発の声は大きかったように感じました。YAMAPへの愛着があるからこそだと思いましたが、私も驚いたほどです。
ユーザーさんの3割ほどは否定的でした。「いいね」に戻してほしいという意見のほか、DOMOという独自の価値を提示したことで、ヤマップが仮想通貨を発行したように誤解され、「仮想通貨事業に乗り出して儲けようとしているのか」といった批判もありました。
ただ、DOMOは理解されにくい仕組みであることはわかっていたので、理解してもらうためには1、2年の歳月は必要だと、僕も腹をくくっていました。
――ある程度は想定内だったんですね。たしかに、意見をどう受け止めているか説明した「DOMOに関するご意見・ご要望」というお知らせを出したり、「お問い合わせ掲示板」へのコメントに逐一対応したりと、丁寧な姿勢が印象的でした。あのとき、どんな思いを持たれていたのですか?
どんなコメントも、まずは冷静に受けとめようと思いました。ユーザーさんからの意見は、すべてヒントですから。理想と現実のギャップを知るためにも、いったんすべてふせんに書き出し、可視化しながら対応していきました。
また、ユーザーさんの質問に僕が直接答えるライブ配信も必要だと考えて、実施しました。
――私もライブ配信に参加しました。ネガティブな意見も一部ありましたが、春山さんの説明を経て、次第に全体の話題がDOMOの新しい機能や、寄付先の提案に移っていった。ユーザーが積極的にYAMAPに関与して、両者がフェアな、ある種対等な関係になっていく感じを受けました。
そうなっていたならよかったです。以前の「いいね」も、コミュニケーションのいち手段として一定の役割を果たしていたと思います。ですが、YAMAPがこのまま「いいね」を続けても、新しい未来はない気がしていました。どうしてそんな考えを持ったのか、何を目指して「DOMO」を導入したのか。その実態が伝われば、ユーザーのみなさんもアイデアを出してくれるのでは、という期待もありました。
ユーザーとして、稲葉さんはDOMOを実際どう捉えましたか?
――私は最初から賛成でした。というのは、はじめは登山記録を介した交流が楽しかったのに、だんだん「いいね」を必要以上に意識しているような気もしてきて。自分にとっての登山を考えたとき、「いいね」の意味がちょっとわからなくなっていたんです。そんなときにDOMOが発表されたので、むしろ「みんなにもDOMOの価値がわかってほしい」と思っていました。
ありがたいです。DOMOに納得できないユーザーさんから「お客様は神様。だから、自分の言うことを聞け」と言われたことがありました。でも、もし僕らが「お客様は神様」として接していたら、YAMAPはそもそも生まれていません。今の時代において、ユーザーはお客様ではなく、パートナーです。
ここが、ある信念の下に起業するスタートアップの難しくもおもしろいところですが、僕はユーザーさんをパートナーとし、一緒に価値や事業をつくっていきたいと思っています。
身近な「冒険」が美しい風景とつながるように
――難しくもおもしろい、というのは共感します。もちろん顧客の意見は重要ですが、顧客の意見だけを指針になってしまったら、スタートアップの存在意義がなくなってしまう。
僕はいつも、鳥の群れをイメージしています。鳥の群れのように、ユーザーさんと一緒になって、登山を盛り上げている。しかし、群れが進む方向や目指すべき場所を示す役割は、僕ら運営者側が担っています。
会社経営は一貫して自責です。未来をつくっていくことを、人任せにし、他責にするような経営だけはやりたくない。目指したい場所を社内外に共有し、情報や課題も含めて伝えながら、一緒にサービスを育てていきたいと常に思ってきました。
また、同じようにニッチな領域で挑戦するベンチャー企業の参考になるのであれば、これまでのチャレンジの中で得た知見は、DOMOに限らず、どんどんシェアしていきたいです。
――他のニッチなビジネスを後押ししたいお考えがあるんですね。
はい、小規模でも熱量の高いコミュニティは、社会のインフラになると確信しているので。
YAMAPは、ふたつの十字架を背負っています。ひとつは、ニッチなサービスでもベンチャー企業として成り立つのか、という十字架。もうひとつは、そんなニッチ事業を、地方で成り立たせることはできるのか、という十字架です。このふたつを成り立たせることができれば、次に続く地方ベンチャーのロールモデルのひとつになれる。難易度は高いですが、あきらめずにやり抜く覚悟です。
――冒頭で、そもそもサービスの成り立ちの根底に、登山を楽しむ人を増やしたい考えがあったと伺いました。「山の遊び」をライトユーザーに伝えていく上で、意識されていることはありますか?
まずは、あまり構えず、身近な山から登山を楽しんでもらえたら嬉しいです。僕は、今の時代は、高い山に登るよりも身近な山に登ることの方が「冒険」だと思っています。自分たちが暮らしている風土の豊かさや美しさを、登山を通じて感じてほしい。それが、現代の冒険なんじゃないかと思います。
登山が、身近なフィールドを大事にするきっかけになれば。たとえばスマホから気軽に入れる「YAMAP登山保険」や、クラブツーリズムとの共同の登山スクール「YAMA LIFE CAMPUS」などは、その一歩になればという意図もあります。
また、初心者の方が山に安心して親しむことができるよう、ガイドとユーザーをつなげる仕組みも今後つくっていきたいです。ガイドは風景の翻訳者であり、技術の伝達者です。ガイドと一緒に登ることで、山のマナーやスキル、自然との向き合い方を学ぶことができます。
――春山さんの原体験を通じたサービス設計や、レジャーとしての登山にとどまらない社会的意義や責任を知ることができて、いちユーザーとしてもとても興味深かったです。最後に、これから取り組みたいことを伺えますか?
YAMAPの事業を通して、引き続き登山の楽しみを広げ、山の再生や登山道整備にも貢献していきたいです。YAMAPはデジタルサービスですが、自然が舞台なので、いつかリアルに出て行きたいという思いがありました。その一歩が、DOMOで実現しつつあります。
登山者だけでなく多くの人に、山や森に関心を持ってもらい、一緒に山を豊かにしていきたい。山で遊ぶだけでなく、山そのものを整える仕組みを、ユーザーさんと一緒につくっていきたいと思います。50年、100年後、山や森が今よりも豊かになり、山で遊ぶことと山の手入れがつながっている社会をつくることができたら、YAMAPとしても、私個人としても本望です。
執筆/高島知子 編集/佐々木将史 撮影/勝村祐紀