ロボットが接客をすることで注目を集めた「変なホテル」など、最新のテクノロジーを積極的に活用したホテルが登場し、これまでの宿泊体験を変えようとしている。
2018年12月には、Alibaba(アリババ)グループが近未来型ホテル「Fly Zoo Hotel」をオープンした。顔認証システムを全面的に採用したほか、ロボットが様々なサービスを提供するなど、最新のテクノロジーを積極的に導入したホテルだ。今回はFly Zoo Hotelを切り口に、ホテル体験の在り方について考察したい。
ホテルのあらゆる場面でロボットが接客する「Fly Zoo Hotel」
Fly Zoo Hotelはテクノロジーを結集させた近未来型ホテルで、顔認証システムやロボットの活用により様々な新しい体験が提供される。
たとえば、専用のスマートフォンアプリで事前に自分の顔を登録しておけば、当日は顔認証でチェックインや部屋の解錠、ジムやレストランの利用などが可能になる。
エレベーターまで案内したり、接客をしてくれるのはロボットの「Space Egg」だ。
2018年9月のリリースによると、Space Eggは高さ1m弱で、秒速最大1mほどの速度で移動する。ホテル内の地図情報や障害物を識別するナビゲーションシステム、エレベーターを識別する通信システム、顔認識機能が搭載されている。
Alibabaが独自に開発する音声AIアシスタント「AliGenie」も搭載されており、宿泊者は音声やジェスチャーを通して、Space Eggとのコミュニケーションができる。
また、寝室にもAliGenieを搭載したAlibabaのスマートスピーカー「Tmall Genie」が設置されており、照明やエアコン、空気清浄機、テレビなどを音声で操作できるという。
Alibabaが公開しているブログでは、同社の人工知能研究所で責任者を務めるChen Lijuan氏が、サービスロボットの開発について次のように述べている。
「ホテル需要が高まるなかでスピーディーな接客対応をするのに、サービスロボットは求められるでしょう。この開発は、伝統的なホテルからスマートホテルへの進化における重要なステップです。ホテル業界の人件費の削減とサービス効率の向上にロボットを活用できるよう、Alibabaの人工知能技術を結集して開発しています」
オックスコンサルティングが運営するインバウンド情報メディア「HOTELIER」によると、FlyZoo Hotelで完成させた運営モデルをホテル業界全体や他の業界にも売り込んでいく計画という。また、客室に備えられているコスメを使用して気に入れば、Alibaba傘下のECサイトで購入できる仕組みなども提供。本業のEC事業とのシナジーも狙う。
未来型ホテルによって何が変わる?
国内でも、ロボットが接客を行う「変なホテル」やIoTホステル「&AND HOSTEL」などの事例があるが、テクノロジーを活用することで、ホテルの顧客体験はどう変化していくのだろうか。ロボット化やIoT化がもたらす変化を、予測も含めて以下の3点で考察してみたい。
1. ストレスからの解放
2. 蓄積されたデータとの連携
3. 長期滞在者向けのオートメーション
1.ストレスからの解放
鍵をどこに置いたか分からなくて外出前に探し回る、オートロックの部屋で鍵を持たないまま外出してしまう。ホテル宿泊でよくありそうなトラブルだ。未来型ホテルでは、顔認証により自分の顔が「鍵」になる。そうすれば、部屋の出入りに関するトラブルはなくなる。
当たり前だがホテルによって部屋の構造は異なる。そうすると、電気やエアコンのリモコンを探すところからはじめなければならい。Fly Zoo Hotelのようなスマートホテルであれば、リモコンをいちいち探さなくても、声で指示すれば解決する。
ロビーでのチェックインや部屋からルームサービスを頼む際の対人コミュニケーションが苦手な人もいるだろう。スマートホテルであれば、スマートスピーカーやロボットがサービスを提供してくれことで、人とのコミュニケーションから生まれるストレスも減りそうだ。
2.蓄積されたデータとの連携
ユーザーが持つ様々なデータと連携することによって、ユーザーが得られる恩恵は増すと考えられる。
普段、どんな音楽を聞いていて、どんな映像を見ているのか、どんなものを買っているのかといったデータが日々蓄積されている。蓄積したデータをホテル側に共有すれば、より自分が求めているサービスを受けられるのではないだろうか。
AlibabaのようにECも運営している会社であれば、購買データと結びつけて提供するサービスをカスタマイズすることもできるはずだ。人々のプライバシーに対する抵抗にもよるが、中国のように新しいものに対して積極的な土地であれば、この課題はクリアされるだろう。
3. 長期滞在者向けのオートメーション
ロボット化による利点として注目されるのは、オートメーション化だ。たとえば、スマートホームではユーザーが端末を操作することなく、快適な状態に室内環境が整えられることが良しとされる。これはホテルの部屋においても同様だ。
室内空調や照明の調光、カーテンの開け締め、快適なBGMや映像などを自動で顧客に合わせて最適化してくれるようになっていくはずだ。1泊2日のような短期滞在では得られるメリットが少ないかもしれないが、長期滞在であればユーザーのデータも蓄積され、より快適な状態に自動で調整されるようになっていけるはずだ。
2の「蓄積されたデータとの連携」のように、もともとユーザーが持っていたデータと連携させられたなら、そのユーザーの好みにあった環境が体験できるのではないだろうか。
「おもてなし」の心を持ってテクノロジーを活用
もちろん、未来型ホテルには、まだテクノロジー面での課題もある。
先日The Wall Street Journalは、変なホテルが2019年1月にロボット従業員の半数を解雇したと報道した。その理由には、ロボットが快適さを提供してくれるのではなく、逆に煩わしい存在となってしまっていることが挙げられた。具体的には、アシスタントロボットが宿泊客のいびきに反応して話し出し、何度も起こしてしまったり、宿泊客同士の会話に割って入ってしまったことなどが紹介されていた。
ホテルでの事例ではないが、ヒト型ロボット「Pepper(ペッパー)」のレンタル契約更新を予定する企業が15%にとどまるという報道もある。「会話ができない」「人を認識したうえでの反応をしてくれない」といった不満が出ているという。スムーズなコミュニケーションを期待する人にとって、現在のテクノロジーはまだ十分でなさそうだ。
だが、変なホテルは公式サイトで「先端テクノロジーを導入したスタイルが今や代名詞となっているが、いずれも単に注目を集めるために生み出された仕掛けではなく、原点にあるのは『どうすればもっと快適に過ごしていただけるか』という想い」と述べている。
人の手による「おもてなし」を提供する伝統的な旅館も、テクノロジーを活用した最先端のホテルも、「お客様に快適に過ごしていただきたい」という考えは同じだ。
目新しさでテクノロジーを採用するのではなく、宿泊を快適にするためにテクノロジーを採用するという視点を欠かさないという姿勢が求められる。今後、未来型ホテルのようなテクノロジーを活用した「おもてなし」が、宿泊体験を豊かにしてくれることに期待したい。