前編ではこれまでの10年を振り返り、スマートフォンを中心に様々な変化が生まれたことを確認してきた。続く後編では次の10年について考えていく。
これからの10年には日本特有の大きなイベントが2つ控えている。32兆円の経済効果が生み出されるとされる2020年の東京オリンピック、団塊世代が75歳を迎えてさらなる高齢社会を迎える「2025年問題」だ。
特に世界で見ても例のない領域に達する高齢社会に関しては、喫緊の課題として進行中のものだ。日本は2025年に65歳以上が人口の3割を超え、2042年に高齢者数がピークを迎えると予測されている。さらに、2010年をピークに減少局面に入った人口は、2060年には8,674万人になると予測されており、減少し続ける見通しとなっている。
医療や社会保障にかかる費用が膨張する一方で税収減という状況は、放置できない課題として、国の政策に大きく影響及ぼすところとなる。
つまり、これらの課題を解決するアプローチは、否が応でも注目されることとなる。日本特有の問題と、グローバルで進行するトレンドを見据えながら、予測される9つの変化をあげていく。
ありとあらゆるモノがインターネットにつながる
前編では、スマートフォンが普及したことにより、インターネットに常時接続されている状況が生まれていることを紹介した。
これからの10年はあらゆるモノがインターネットにつながるIoTが浸透することがあげられるだろう。現在のようにIoT家電といった特別なイメージを持つものではなく、インターネットに繋がっていることが当たり前になるのがこの10年ではないだろうか。
これにより、1日の生活リズムやどのような物を食べているかなどの行動データが自動的に蓄積され、データ活用や自動化がより進むことが考えられる。様々な面でテクノロジーのサポートが自動的に受けられる世の中になっていくだろう。
中でも、予防医療に貢献する仕組みは強く求められることになる。例えば、毎朝洗面所に立てば、体重が自動で計測され、鏡に映った顔色などから体調を推測してくれる。毎朝問診をしてくれるロボットが常駐し、データが自動で医師に送られるなど、生活者が意識しなくてもデータが蓄積され、データに応じたアドバイスが専門家から受けられるといった仕組みが注目されることになるだろう。
本格的なキャッシュレス化
前編の“これまでの10年”でもキャッシュレス化を項目としてあげたが、現在でも国内のキャッシュレスの割合は全体の18.4%に過ぎない。
政府は「未来投資戦略 2017」の重要なKPIとして、2027年までにキャッシュレス決済比率を4割程度まで高める目標を設定していることから、さらなるキャッシュレス化が進むことは間違いないだろう。
実際のところ、消費税の2%増税が2019年10月から予定されているが、それに絡めキャッシュレス決済を利用した場合は増税した2%分をポイントでバックする仕組みの提供も検討されている。
経産省が発表した「キャッシュレス・ビジョン」では、キャッシュレス化を推進する理由として、以下が述べられている。
- 実店舗等の無人化・省力化
- 不透明な現金資産の見える化
- 流通性向上と不透明な現金流通の抑止による税収向上
- 支払データの利活用による消費の利便性の向上、消費の活性化
効率化という側面で、キャッシュレス化は欠かせない要素といえる。
レジなし店舗・無人化
コンビニ店員といえば、学生がするバイト・・・という話はもう昔のことかもしれない。東京のコンビニ店員は、高齢者か外国人の割合がかなり高くなっている。
キャッシュレス・ビジョンでも、人材不足から実店舗等の無人化・省力化に向けて、キャッシュレス化が必要であるという考えを示している通り、コンビニにとってはより効率的な店舗経営へのシフトが求められている。
国内では、ローソンが積極的に実験を行っており、レジの無人化をはかる「レジロポ」や、利用客が自分のスマホでバーコードを読み取って会計を済ませる「ローソンスマホペイ」を展開している。
「ローソンスマホペイ」は現在3店舗で利用できるが、2018年度中に100店舗まで拡大させることも発表しており、より積極的な姿勢を見せているところだ。
ローソンが発表した「未来のローソン」のコンセプトムービー
また、経済産業省は2025年までの目標としてコンビニ大手各社と「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定している。セブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズの全ての取扱商品(年間推計1000億個)にRFIDタグを付けることで商品の個別管理を実現しようとするもので、これはレジなし店舗を実現する上での大きな要素といえる。
なお、RFIDタグの単価が1円以下になることが条件として設定されており、ここをクリアすれば一気に普及することになるだろう。
データ活用による需給予測が高精度に
スマートフォンを利用したセルフレジが普及すれば、誰が何を買ったというデータが蓄積され、高精度な需給予測が可能になる。
コンビニなどのリアル店舗では商品がどの程度売れているかは把握できているとしても、どのような人が、どのように買っているかといったデータはほとんど取れていない。これらがデータとして取れるようになることで、より正確な需給予測が可能となり、利用者のニーズに沿ったサービス提供が可能になるだろう。
また、店員のレベルでは困難な「一人ひとりの特性の把握」に関しても、液晶に映し出されたバーチャル店員とのやり取りになれば、パーソナライズされたサービス体験を提供することも可能になる。
音声入力の一般化
2017年にAmazon Echo、Google Homeが国内で販売開始されたことにより、国内でも音声入力への関心が一気に高まった。
日本語の認識精度も著しい向上が見られ、現在では単一の声であればほとんど正確に日本語を認識してくれるレベルだ。
現時点では音声入力に抵抗がある層は多いと思うが、幼児から高齢者まで共通して使えるインターフェースになりうるものとして、音声入力には高い可能性が見込める。
言語の壁の崩壊
ここ数年で、大きな質の向上が見られる機械翻訳。Google翻訳も英語から自然な日本語に翻訳できるようになってきており、なんとなく意味を把握するには十分なレベルに達している。
前述した音声入力の精度が向上したことにより、「音声入力>テキスト化>翻訳>音声」という処理ですでに高い水準にあるといえるだろう。
これが、いよいよ実用的なレベルに到達し、言語の壁が崩壊する日が近づいている。
予防医療の発達
前述した通り、予防医療に関しては、よりカジュアルに多くの人が利用できるサービスが多く登場し、普及することになるだろう。
これは国としても取り組むべき課題であり、病の早期発見による医療コストの低減は、大きな効果が見込める分野だ。
信用の可視化によるショートカット
中国のアリババがグループで展開する「芝麻信用(セサミクレジット)」がすでに先行事例となっているが、個人の信用を可視化することにより、信用力に応じたサービスを受けられるようにする仕組みは日本でも展開されることになるだろう。
これにより「待ち時間」や「担保」といったムダともいえるものが省かれ、賃貸物件の敷金が不要になる、ローン審査がすぐに通る、ホテル予約のデポジットが不要になるなど、悪いケースを想定した手続きを取り除いたサービスが受けられる。
考えてみれば、悪いケースを想定してサービスを設計しなくてはならないことは、多くのムダが生まれていることといえる。日本でも、ヤフーやメルカリなどが信用を可視化するサービスの準備を進めており、これから様々な動きが見られるだろう。
5G×8K×VRによる距離の壁の崩壊
さらなる高速通信が可能になる5G、リアルとの境目をなくす8Kという領域、そしてVRの全てが組み合わさった時、世界中の様々な場所にリアルタイムに移動できる世界が実現する。もちろん現地のカメラをどうするか?という課題はあるものの、旅行という分野でいえば、KDDIが発表した「SYNC TRAVEL」のように、現地ガイドとカメラさえ手配すれば難しい話ではなくなるし、距離の壁を超えたミーティングなどもセッティング次第なので、遠距離にいながら対面しているかのような形で行われるのが当たり前のような世界がやってくるだろう。
こうしてあげてみると、これからの10年は社会的な効率化が求められる10年といえそうだ。より本質的な価値に人の目線が向かい、消費される世の中になるだろう。