「これからの消費者と企業のコミュニケーション戦略は、AI(人工知能)などのさまざまな最新技術の導入だけでは終わらない。ヒトの弱点や苦手な点を技術で補いつつ、ヒトはヒトにしかできない、次世代のコミュニケーション戦略を実行していくことが求められる」
トランスコスモスが2018年12月に発表した「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2018」には、上記の内容が記されている。同調査は、デジタル時代の消費者と企業のコミュニケーションの実態把握を目的に、2016年から年に一度行われている。
今回の調査で大きなテーマとなったのは、「消費者とのコミュニケーション」が企業の収益にどれだけのインパクトを及ぼしているかを定量的に把握すること。その中で特に面白かったのが、不満を抱く消費者への対応が持つ価値について調査された項目だ。
商品やサービスに不満を感じた消費者の一定層は、直接不満を企業に伝える。その際に行われる企業の対応への満足度や解決スピードによって、リピート率に大きな差が生まれるというのだ。同社は、この結果を「クレーム超回復の法則」と呼んでいる――。
サイレント・マジョリティは「サイレント」ではない
レポートによれば、クレーム超回復の法則には、3つの要素があるという。
1つ目が、「クレーム」はリピーターを生み出すチャンスになること。同調査では、商品やサービスに不満を抱いたときに、その内容を企業に伝える割合は57%となった。この数値は、過去の類似調査と比べて高い傾向にある。しかし、その後に満足する体験を提供できれば信頼は回復し、その88%がリピート客になることが分かったとしている。
逆に、不満発生後の対応が不十分だと、リピート率は18%まで下がってしまう。ここで重要になるのが、カスタマーサポートの存在だ。
コールセンターなどのカスタマーサポート部門は「コストセンター」として見られ、業務効率化が重要視されることが少なくない。しかし、離れていく顧客を再びつなぎとめる重要な役割であることを認識すべきと、同調査は指摘している。これが2つ目の要素になる。
3つ目は、サイレントマジョリティは「サイレント」ではないということ。同調査によると、商品やサービスに不満があったとしても、顧客の43%は企業に直接不満を言わない。
こうした顧客のリピート率は27%と低いのはもちろん、そのうちの62%が口コミやSNS、ブログなどを通して不満体験を他人に伝えていくという。つまり、声が直接聞こえてこないサイレントマジョリティの影響は、決して小さくないということだ。
そのため、企業はSNSやブログに投稿された声を分析し、それらを改善することで評判を高めるなど、サイレントマジョリティに対する取り組みも必要といえる。このような取り組みは「ソーシャルリスニング」と呼ばれ、現在はサポートツールなども複数登場している。
ファンの育成には、“コト体験づくり”が重要?
同調査では、消費者の約半数が愛着を強く感じる企業やブランドがあり、リピート率が高い「ファン」であることを認めている。こうしたファンが増えることは、他社よりも高い価格の商品でも優先的に購入してくれたり、好意的な評価をSNSやブログで口コミを発信したり、イベントやキャンペーンへの積極的な参加などにつながることが分かっている。
消費者がファンになった動機を自由回答から分析してみると、商品の品質やデザイン、価格の安さといった“モノ体験”だけでなく、店舗スタッフの親身な対応や迅速な対応といった“コト体験”が重要であることが分かったという。
たとえば、企業に感動した経験として「担当者の優れた知識・説明(41.1%)」「裏表のない客観的な情報提供(39.6%)」「スピーディーな問題解決(38.4%)」が上位を占めた。
不満だった体験としては、「長い時間電話で待たされた(67.0%)」「Webサイトでほしい情報が見つからなかった(65.1%)」「電話をしたときに自動音声応答に手間がかかった(60.1%)」が上位を占めている。
ここで1つ注目すべき点として紹介されているのが、「スピード」だ。人による対応力や品質に加えて、チャネルの利便性向上や他チャネルの拡充など、技術的な改善も良い顧客体験の提供につながることが示唆されている。
AIなどの新しい技術は最後にヒトがフォローすべき
昨今のデジタルプロモーションの領域では、「パーソナライズ」をキーワードに、顧客データとAIなどのデジタル技術によって顧客体験を創出することが主流になった。
同社では、これまで紹介してきた調査結果を踏まえ、デジタル時代における「これからの消費者と企業のコミュニケ―ションの姿」として、下記のように考察を述べている。
「AIは確率的に正解を導き出す手法であり、100%の正解はありえない。つまり、AIなどの新しい技術は“ヒト”にとって代わるものではなく、最後はヒトがフォローすべきもの。
デジタルプロモーションの領域では、ヒトや従来チャネルと同時に新しい技術を“並列つなぎで加え、最終的にヒトにとってかわるという構想の下でプロジェクトが進むことが多い。しかし、カスタマーケアの領域では、最新の技術とヒトを直列つなぎにし、最終的には常にヒトが問題解決を図れるようコミュニケーションプロセスを設計しておく必要がある」
同調査は「消費者と企業のコミュニケーション実態把握」を目的に、インターネットモニターによって行われた。調査時期は2018年8月、対象は「直近6ヶ月間のうちに企業とコミュニケーション経験がある男女」、有効回答数は3097件。これまで挙げた内容以外に、「消費者コミュニケーションのデジタル化」に関する調査結果なども紹介されている。
なお、調査を企画したのはトランスコスモスのAI研究所である「Communication Science Lab」だ。消費者と企業の「対話」を科学することを目的に、2017年9月に設立された。