外でご飯を食べるとき、お店を予約するのが面倒だと感じる人は少なくないだろう。ネット予約のニーズが高まる一方で、現在も飲食店は電話での予約が主流だ。仕事で忙しいときはお店に電話をかける時間すら惜しい。
そんなときに寄り添ってくれるサービスが「ペコッター」だ。行きたいお店の名前を検索し、チャット形式で予約依頼をすれば、すぐにお店へ電話をしてくれる。個室や禁煙などの席に関する希望や、「サプライズをしたい」という要望まで伝えてくれる。
ペコッターが特徴的なのは、ユーザーとのコミュニケーション全てに可愛らしいマスコットキャラクターを活用している点だ。今回、そのキャラクターはどのようにして生まれたのか。ペコッターを開発した株式会社ブライトテーブルCEOの松下勇作氏に話を伺った。
世の中の食卓を明るくするために。ペコッターの思い
2018年7月現在、ペコッターのユーザー数は10万弱。月間予約依頼数は2万件、予約成約数は1万件ほどという。依頼数と成約数の差が生まれているのは、お店が満席で予約が成立しないケースがあるのが大半の理由だ。ペコッターは、該当のお店で予約が取れなかった場合、代わりのお店の提案もしてくれる。
松下「ペコッターの目的は、ユーザーに楽しい食卓についてもらうこと。予約がとれなかったとしても、代わりのお店を探すところまでサポートしたいです。ブライトテーブルという名の通り、“食卓を明るくすること”を一番大事にサービスを設計しています。」
ペコッターの大きな特徴は、マスコットキャラクターの“はらぺこ君”だ。ふわふわとした、ゆるいシルエット。その柔らかな表情は、見るものの心を簡単にときほぐす。“ぺこ”を語尾につける話し方は、思わず真似をしたくなってしまうほどの可愛さである。
アプリ内だけでなく、ソーシャルメディア上でも“ぺこ”を語尾としたコミュニケーションを一貫しており、ユーザーから親しまれる存在となっている。Twitterには「可愛すぎるので、ずっとチャットをしていたい」「後ろからギュッとしたい」といった声が複数並ぶ。
はらぺこ君は、果たしてどのようにして誕生したのだろうか。その過程を知るためには、ペコッターというサービスが、どのような道をたどってきたのかも知る必要があるだろう。
SNSでお店を教えてもらう体験を実現したかった
現在は、予約代行サービスであるペコッター。2015年3月にアプリをリリースした当初は、現在とは違ったサービスの形をとっていた。
松下「当時は、スマートフォンの本格的な普及とともに、キュレーションメディアが増えた時期でした。たとえば、『渋谷 焼肉』というようなワードで検索すると、まとめ記事が多く出るようになったんです。従来は検索をし、大手グルメサイトで出てきたお店の情報を見て電話をかけるのが一般的でした。しかし、キュレーションメディアが登場してからは、検索をした後に記事を一度見て、記事の中からいくつかのお店を検索した後、予約の電話をかけるというように、ユーザーのフローが増えてしまいました。」
ユーザーの負担が増えている状況に対して、松下氏が生み出したのはユーザーのお店探しをサポートするQ&Aサービスだった。ユーザーが希望するお店の条件を選んで投稿すると、公式アカウントや他のユーザーが条件に合うお店をレコメンドしてくれるというもの。サービスの開発にこめた思いについて、松下氏はこう振り返る。
松下「SNSなどで『渋谷でお店を探したい』と投稿すれば、誰かがすぐに返信をくれて希望に合ったお店を教えてくれますよね。そんな体験をアプリの中で実現したかったんです。」
Q&Aサービスとしてスタートしたペコッターだったが、2018年2月には現在の予約代行にシフトした。「最初から予約代行への転換を狙っていたのか」と、松下氏に尋ねてみると「サービス開始当初は、予約代行のニーズがあることは想定していませんでした」という。一体、なぜ予約代行へとシフトしたのだろうか。
隠れた予約代行サービスの根強い人気
松下「アプリのサイドメニューにあるチャット形式の“お問い合わせ”から、たまたまユーザーから予約代行の依頼がきたので、お店に電話して予約を代行したんです。その後も依頼は続いて、予約代行を繰り返していたら、口コミで予約代行の存在が広がっていきました。」
Q&Aサービスを活用していたユーザーの継続率は50%を下回っていたが、予約代行を活用していたユーザーは75%という高い数字だったという。中には、サービスの本丸であるはずのQ&Aサービスを使わないユーザーも現れた。
松下「特に、自分でお店を探してきたユーザーが、Q&Aサービスを使わずに予約代行だけを依頼するケースが多かったんです。継続率から考えても、ユーザーが本当に求めている体験はQ&Aではなく予約代行だと気づき、サービスを大きく変えることを決断しました。」
予約代行サービスへとリニューアルした後、MAU(月あたりのアクティブユーザー数)が大きく減少することはなかった。それどころか、想像していた以上に口コミからユーザー数が増加したという。
「ペコッター」の軸が変わろうと、変わらなかったものがある。マスコットキャラクターの“はらぺこ君”の存在だ。サービスがピボットしても変わらぬ存在感を発揮するキャラクターは、どう生まれたのだろう。
好きだとアピールしてもらえるキャラクターを生む
はらぺこ君が生まれたのは、Q&Aサービスを構想していたころまでさかのぼる。サービスを構想する松下氏の胸中には、メインターゲットの20代女性に親近感を持ってもらい、愛されるサービスにしたいという思いがあった。
松下「はらぺこ君は、牛乳を泡立てたらキャラクターになった、生クリームの妖精なんです。何でも聞いてくれる『執事』と『羊』を掛け合わせたと言いたいのですが(笑)、ありきたりで面白くない。ユーザーに驚いてもらうために、生クリームの妖精としました。当時流行していたアプリが、カワイイ動物をモチーフにしたキャラクターを活用して、20代の女性に人気を集めていたので、そのサービスを参考にしたんです。」
キャラクターをデザインする上で配慮されたのは、その愛くるしい見かけだけではない。キャラクターがユーザーにどう扱われるか、という体験まで視野に入れてデザインされた。
松下「デザイナーが一つ意識したと言っていたのは、誰でも描けるキャラクターにすることです。Q&Aサービスのころは、ユーザーのマイページを設けていたのですが、プロフィール画像を自分で描いたはらぺこ君に設定するユーザーがいたり、はらぺこ君に関連した名前に設定する方もいました。今はマイページ機能がないのですが、キャラクターを好きだとアピールする場所があることは、愛されるサービスを作るうえで大切だと思いましたね。」
キャラクターを通じたコミュニケーションへのこだわり
はらぺこ君は、単なるマスコットキャラクターではない。サービスのUIにも登場し、CXにも大きく関わる。ここまでサービスの体験にキャラクターが関わるのは、サービスとしても稀有な例だ。
はらぺこ君を通じて行われるコミュニケーションには、アプリ内の課金システムでも工夫が施されている。たとえば、お店を急ぎで予約してほしいときには「マッハ対応ドリンク」と呼ぶ“はらぺこ君へのご褒美”を購入することで優先的に対応してくれる。
また、人気店を予約するためには、はらぺこ君の元気をチャージするために「ステーキ」や「ケーキ」といったアイテムを購入することで、予約がとりづらいお店に何度も電話をかけたり、予約の受付開始に合わせて電話をしてくれるといったサービスを受けられる。
このように課金を単に“お金を払う”だけの体験にするのではなく、はらぺこ君への「お礼」「プレゼント」を贈るという体験に変えたことは、サービスへの愛着をより高めることにつながった。
もちろん、ただキャラクターのかわいさだけではサービスとしては成立しない。その裏側にあるオペレーションとの組み合わせが、ペコッターを支えている。
松下「はらぺこ君のようなカワイイキャラクターは他にもいますし、オンライン予約ができる大手グルメサイトもあります。カワイイキャラクターを前面に推し出すだけでは、ユーザーに利用してもらうことはできません。そこで、ペコッターに必要だと考えたのは“驚くほどの満足”を届けることです。サービスの細かい部分にユーザーの期待を上回る体験を創出したことが、はらぺこ君が愛されるようになった下地にあると思っています。」
では、実際にどのような体験を提供することで、ユーザーの満足度を高めているのだろうか。後編では、ペコッターが実践する具体的なユーザーとの向き合い方を紹介していく。
撮影/加藤甫