年末商戦が本格化するちょっと手前の12月8日、ビックカメラ有楽町店はセールでもないのに多くの来訪客で賑わっていた。レジには長蛇の列ができ、在庫確認だけでも30分以上待たされるといった盛況ぶりだ。レジに列ができることはあれど、在庫確認をするだけで整理券を渡されたのは筆者も初めての経験だった。
この賑わいは「PayPay」というスマホ決済サービスが仕掛けたキャンペーンによるものだった。
「PayPay」は、ソフトバンクとヤフーの合弁会社が展開するQRコードとバーコードを活用した決済サービスだ。サービス開始当初(2018年10月5日)は対応店舗が少なく、大きな話題を呼ぶことはなかったが、全国に約1万7,000店を展開するファミリーマートが全店舗でPayPayに対応するタイミングに合わせ「100億円あげちゃうキャンペーン」を12月4日から開始した。
対応店舗としてビックカメラが大きく脚光を浴びる形となったが、対応を発表したのが12月3日だったことから、このキャンペーンにギリギリ間に合わせてきた格好だ。
「100億円あげちゃうキャンペーン」は、期間中PayPayを使って決済すると、もれなく購入金額20%相当のPayPayボーナスが付与されるというもので、すべての加盟店でのショッピングが対象となるキャンペーンだった。
さらに、40回に1回の確率(ソフトバンク・ワイモバイルユーザーの場合は10回に1回の確率)で全額相当(最大10万円)が戻ってくるということで、運要素も絡んだキャンペーンとなった。
顧客はどう動いたか
総額100億円というインパクトもあり、多くのメディアが取り上げたほか、初日からTwitterには「全額当選した!」「残念ながら外れたけど2割り安く買えたから満足」といったツイートが散見され、口コミであっという間にPayPayの存在が拡散されていった。
100,000円還元、当たってもうたw ワイモバイルユーザーで良かった!! #paypay pic.twitter.com/69NHCJH0ZP
— Asuka (@asuka_xp) 2018年12月4日
特に加盟店の中で高額商品を扱うビックカメラグループには、今年最後の運試しとばかりにApple製品や家電などの高額商品を求める客が列を作った。
ビックカメラの通常ポイントに加え、PayPayの20%還元が付与されるとあって、それだけでも十分魅力的だったが、全額バックの要素がなければここまで話題になることはなかったかもしれない。一律20%バックではなく、人によっては全額バックされるという要素によって、SNSに多くの結果報告が投稿される結果となり、友人の当選報告をみて、「自分も試したい」という心に火をつけたのではないだろうか。
Twitterに「#paypay祭り」というハッシュタグが登場したことが、このキャンペーンの雰囲気を物語っている。
2019年3月31日までを予定していたキャンペーンは、わずか10日間となる12月13日に予定金額に達し、終了することとなった。
リアルでもYahoo!ショッピングのようなポイント還元セールが実現できる?
果たして今回のキャンペーンはどのぐらいのインパクトがあったのだろうか。ICTが1月7日に発表した「モバイルキャッシュレス決済の市場動向調査」によると、最も利用されているQRコード決済の調査において、楽天ペイに次ぐ2位に早速登場しており、このキャンペーンにより認知度を一気に高めたことが示されている。
ただ「お得なキャンペーンにつられて利用しただけで、継続されて利用されるかは疑わしい」といった声も多い。実際、PayPayの通常時のポイント還元率は0.5%となっており、その他の決済サービスと比べても低い還元率の部類であるため、「継続的に利用されるものではない」という声にもうなづける。
しかし、今回のキャンペーンで重要だったのは、“人はリアル店舗においてもポイント還元セールにより動きを変えることができる”ということではないだろうか。本来買おうとしていなかったタイミングに、普段訪れない店舗で買い物するという消費行動を産んだのはまぎれも無い事実だ。
“Yahoo!ショッピングや楽天などで行われるポイント還元セールのようなものをリアル店舗においても実現した”といえるのではないだろうか。
Yahoo!ショッピングの場合は、毎月5のつく日にポイント5倍、ソフトバンクユーザーなら最大16倍のポイント還元が受けられるほか、対象店舗はさらにポイント10倍といったキャンペーンも実施され、還元率の高い店舗で商品を買うといったことが行われている。
そして、付与されるポイントは”期間固定Tポイント(これは今後PayPayポイントに置き換わる)”という獲得日の翌日から31日間で消滅するポイントとなっているため、毎月買い物を繰り返すサイクルが出来上がっている。
このように、期間限定ポイントの付与や、加盟店の中でも特定の店舗のみを対象としたポイント還元セールは、PayPayでも実施することが可能になるだろう。
問題はキャンペーンの原資をどうするか
当然のことながら、ポイント還元キャンペーンを打ち続けるためには原資が必要になる。しかし、サービス開始から3年間は加盟店に対して決済手数料0円でサービスを提供しているため、決済が増えればそれだけで売上があがるわけではない。
そこに関しては、Yahoo!ショッピングにヒントがあるだろう。Yahoo!ショッピングも2013年10月のeコマース革命により出店費用の無料化を実施したことで「どうやって利益を出すのか?」という疑問が投げかけられる形となったが、広告費を柱にクレジットカード事業や周辺事業への波及効果を含めビジネスとして成立させた経緯がある。
PayPayに関しても、広告による収益や金融商品の展開を予定しているほか、ヤフーが始める信用スコア事業で重要な役割を占めることが予想される。
2月にはYahoo!ショッピングやヤフオク!、LOHACOでもPayPayが利用できることも発表しているため、リアルとネットを掛け合わせた消費行動を生み出すこともできる。
今回のキャンペーンにより導入に向けて動いた店舗が多かったことも予想される。今後どのようなキャンペーンが予定されているのか、消費の流れを変えることができるポテンシャルを示しただけに、今後の動きにも注目だ。