同じ会社が経営しているとは気づかずに、ハシゴ酒している人も多いだろう。
東京・新橋。日本有数の飲み屋街で、「サラリーマンの聖地」とも言われるこの街には、株式会社ミナデインが経営する飲食店が14店ある。しかも、立ち飲み店からスナックまで、すべて店名も業態も違う。
特定のエリアに集中して出店する「ドミナント戦略」にも見える。だが、同社の店舗は業態が異なり、メニューも接客もまったく違う。一般的なドミナント戦略で期待される仕入れやオペレーションの効率化とは、少し事情が違う。
では、なぜ? そう問うと、ミナデイン代表の大久保伸隆氏は「いわば飲食店を通して、まちづくりをしているんですよ」と答えてくれた。
ミナデインが目指す、飲食店とまちと私たちの“良き未来”とは。新橋にある同社の店舗の中でも、最も隠れ家的な飲食店『匙かげん』の4階で、話を聞いた。

星付きシェフの立ち飲み店から、元アダルトショップまで
店名もメニューも、内装も楽しさも。ミナデインが新橋で展開する14店舗は、すべてが違う。
たとえば新橋のシンボルともいえる烏森神社の参道にある居酒屋『烏森百薬』。ここは全国の「名店」といわれる飲食店から完成品を仕入れ、店では最後の一工程を調理する食のセレクトショップだ。調理の手間から解放されたスタッフは空いたリソースを、接客サービスに割く。だから狭い店内は、いつも朗らかな会話にあふれている。

烏森百薬 外観 写真提供|株式会社ミナデイン
あるいは『STAND BY Mi』。名前のとおりの「立ち飲み屋」だが、立ち上げたのは、フレンチの名店「ロブション」出身の料理長だ。しかもレシピは、ミシュラン星付き店などの腕利きシェフたちが考案したスペシャルな逸品。カジュアルに提供されるハイエンドのメニューに、感嘆しながら舌鼓を打つ姿があちこちで見られる。

STAND BY Mi 外観 写真提供|株式会社ミナデイン
さらにユニークなのがガード下にある『THE赤提灯』だ。元アダルトショップだった同店は「最高の初体験。」をテーマにしている。マグロぶつなどメニューは昭和の居酒屋っぽさを感じさせつつ、ターゲットは若者だ。そこで「はじめての乾杯」「はじめてのボトルキープ」など“酒場での初体験”を盛り上げるサービスを揃える。またスキマバイトのタイミー社との協働で「はじめてのバイト」を積極的に採用。人手不足が深刻な飲食産業の活性化にも一役買う。

THE赤提灯 外観 写真提供|株式会社ミナデイン
こんな個性溢れた飲食店を、ミナデインは14店舗も手がけているわけだ。

『匙かげん』が入る安部ビル。1Fには看板もなく、知る人ぞ知るお店となっている
「もっとも、店舗のアイデアは奇をてらっているわけではありません。『THE赤提灯』が元アダルトショップだった立地から着想したように、土地の歴史やルーツなどからひもとくことが多い。むしろ『尖りすぎない』ことを意識しているくらいですね」と、2018年にミナデインを創業した大久保伸隆氏は言う。
言葉どおり、ミナデインの手掛ける店は、訪れた人をワクワクする空間づくりやサービスの工夫は多々あれど、やり過ぎ感はない。メニューは違えど、しっかりと質の高い料理や酒を提供し、接客やサービスも心地よいホスピタリティが担保されている。
裏を返すと、お洒落になりすぎていたり、親切過ぎるベタついた接客もない。大久保氏曰く「尖った非日常の店を作れば話題になってブームになるかもしれません。けれど、それだと続かない。むしろ『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』のように、日常の拡張のような空間、時間を意識してつくっている」という。
大久保氏「『食と人間の価値でより良いまちづくりへ貢献する』ことが私たちのビジョンですからね。尖りすぎて一過性のブームになるような店を作っても意味がない。わざわざ違う業態にしているのも同じ理由です。新橋という街そのものを盛り上げたい。よく言うのですが『100店舗より、100年続く店を作りたい』んですよ」

株式会社ミナデイン 代表取締役 大久保伸隆氏
ITの世界とは違い、「古さ」にこそ価値がある
100店舗より、100年続く店を。
そう公言する大久保氏だが、前職は「100店舗をつくる」側に軸足があった。
2007年、地鶏料理をメインとした『塚田農場』を展開するエーピー・カンパニーに、新卒で入った不動産会社から転職。入社3ヵ月で錦糸町店の店長になり、105席で年商2億円という大繁盛店を作った。そして2年後には新規店立ち上げを任され、3年後には事業部長、さらには副社長と、会社の成長と足並みを揃えて出世していたからだ。
『アルバイトは従業員であると同時にお客様である』『ES(従業員満足度)があがればCS(顧客満足度)もあがる』とスタッフのやりがいを喚起する仕組みを確立。「人材育成のカリスマ」として著作も発表し、その手腕がテレビにも取り上げられるほどだった。
自社のみならず、視座高く、飲食業界全体に目が向いていたこともきっかけのひとつだろう。

店舗運営も人材育成も効率的にすすめられるチェーン店は増える一方、そこにしかない「個店」が競争の激化や事業承継できないことから減り続けていることに、心がゆらぐことが多々あったという。
大久保氏「安く美味しく質の高いサービスを提供できるチェーン店の価値が高いのは、ずっと変わりません。しかし、自分自身は出張で地方に行くと、チェーン店ではなく、その地域にしかない個人経営の店で食べることを楽しみにしていましたからね」
100店の価値ある店を作るため走り続けてきたが、いま、むしろ強く求められているのは街に根付き、長く愛される「100年続く店」なのでは? そこにしかない飲食店をつくることが、魅力あるまちづくりにつながるのではないか? そうした考えを起点に、大久保氏は2018年に独立。ミナデインを起ち上げた、というわけだ。

匙かげん 内観 写真提供|株式会社ミナデイン
新橋を選んだ理由は、3つある。
1つめは大久保氏が近くに住む「ほぼ地元だったこと」だ。当事者として慣れ親しんだ自分の街を、より良くしたいモチベーションは当然高いし、街のニーズもつかみやすかった。
2つめは先に触れたとおり「日本有数の飲み屋街であること」だ。銀座という娯楽の街、浜松町や虎ノ門といったビジネス街、さらに霞が関という政治の街に囲まれた新橋。さまざまな目的を持った人が集まりながら、「お酒を飲むこと」そのものを目的に大勢の人が集まる、日本でも珍しいエリアだ。だからこそ大手酒造メーカーも、新橋でこぞってビルボードを立てる。
大久保氏「この街で飲む人がいなくなることは、日本のどこも飲む人がいなくなるということ。つまり『お酒を飲むための街』である新橋に出店することは“巨人の肩の上に乗る”ようなものです。前職で居酒屋などを多く手がけてきた身としては、やりやすいフィールドだと考えました」

そして3つめは、歴史ある「古い街であること」だという。
徳川家康によって江戸城の外堀に架けられた橋がその名の起源である新橋。古くからの交通の要所で、日本初の鉄道が開業したのも、当時の新橋駅(現在の汐留駅跡地)だった。積層された歴史を持つ繁華街というのは、あとからつくろうとしてもつくれない魅力だ。
大久保氏「クロアチアのドゥブロヴニク旧市街や、マカオ歴史地区など、世界中の旧市街が世界遺産になっているのは象徴的ですよね。新しさに価値が置かれやすいITとは違って、僕らのリアルビジネスでは古さが大きな価値になる。訪れてみたい街、飲んでみたい街としての新橋のブランド力は、古さに起因している面もありますから」
その魅力ある新橋に、さらに多彩な魅力の飲食店を次々と開発し、オープンさせた。街の中で、違う魅力を放つ店が乱立するほうが、街そのものを回遊してもらいやすくなるからだ。
尖りすぎない各店舗のアイデアも、絶妙だ。
繰り返しになるが、その店の立つ場所やルーツから着想していくと、「良い店づくり」につながりやすいという。たとえば虎ノ門ヒルズ内にあるモダンな和食店『日常茶飯時』。こだわりのお米とお茶を主役にした「日常の贅沢」を感じさせる和食を提供しているが、実は虎ノ門ヒルズのオーナーである森ビルの創業家が、西新橋の米屋をしていたことから着想したという。
大久保氏「こうした、店舗アイデアのタネのようなものを見つけ出すとコンセプトがつくりやすく、数珠つなぎにメニューや内装、サービスが見えてくる。100年続く店をつくるためには、そうしたルーツは強さにつながると思うのです。逆にいうとトレンドや流行り物には乗らないようにしています。100年続く、とはベクトルが逆なので」
もちろん、基本的な店舗運営のノウハウは、前職で培った知見が存分に活かされている。こうしてミナデインは新橋に現在、14店舗を展開し、街に根づき、今後も増やしていくつもりだという。
もっとも、大久保氏は、「店づくりというより、人づくりをしている面も強い」と言う。
大久保氏「新橋という街の個性に即して、多彩な店を作っていますが、各店でノウハウを得た人材が、また別のどこかで自立して100年続く店を作ってほしい。日本だけじゃなく世界のどこかで、各々の街に即した魅力を放つ店を起ち上げてほしいんです。それが世界中に、よいまちを作っていくことにつながりますから」

考えてみたら、国内でも海外でも「あの料理を食べてみたい」「あのレストランに行ってみたい」という思いは、旅行のモチベーションとして大きなものだ。
大久保氏自身も、強くそれを実感している。「景勝地などは、現地で見るより4K映像で見たほうが迫力を感じることさえある。でも、味と食感を舌で味わう“食”だけは、常にリアルの体験が勝る」と言う。
大久保氏「しかも美味しいだけじゃなく、その店で出会ったお客さんとの会話や、スタッフとの温かみのあるやりとりもあわせて深い思い出になっていますからね。そもそも食には、人と人を密接につなげる力がある。とくにコロナ禍を経て『誰とどんな時間を過ごすか』ということが重視されるようになった気がします。飲食店で過ごす時間は、以前よりずっと価値が高まっている」
価値の高まった食が、まちづくりを支える。新橋を飛び出して、至るところで魅力あるまちを生む――。その考えは、すでに「地方創生」というもう一つの事業にも、はっきり具現化されていた。

「地産地紹」。あえて、紹の字を使うワケ
「地方創生事業」が、それだ。地域のランドマークとなるような場所に、飲食店をつくり、新たな賑わいと憩いをつくり、住民の誇りとなるような場にする。
代表例が、東京都北区の飛鳥山公園や、長野県の蓼科湖湖畔、千葉県の佐倉市立美術館などにある飲食店『APRON MARK(エプロンマーク)』だ。

飛鳥山公園 APRON MARK 画像提供|株式会社ミナデイン
公園やレイクサイド、美術館といった公共性の高い場所は、地域に住む人たちにとって「まちのランドマーク」的な意味がある。地域外から訪れる人にとっても「ここに来たなら寄ってみよう」と思われる場だ。
それだけで価値が高いが、そこに美味しい食事と楽しい会話が生まれる食の場があれば、なお魅力を放つ。
もちろん、すでに売店や飲食店があることもあるが、質が高いものはそう多くない。場合によっては外資系チェーンなどが入るケースも多いのが現状だ。
そこにミナデインは、「地産地紹」というコンセプトで『エプロンマーク』を持ち込んだ。
大久保氏「あえて地産地消ではなく、地産地紹としたのは地元のすばらしい食材を『紹介したい』と考えたからです。いわば食のアンテナショップ。外から訪れた人は、食材を通してもその地域の魅力に気付かされる。また地元の人たちは、『うちのまちにはこんなに美味しい野菜や果物があるんだよ』と自信を持って外の人を誘えて、誇らしさを感じていただける」
まちの魅力は、一方的に自分たちをアピールするのではなく、そこに住む人たちの雰囲気や言葉から、滲み出て伝わることが多いものだ。地産地紹の『エプロンマーク』のスタイルは、そんな双方の相乗効果を狙っているというわけだ。
メニューを「どこか懐かしい喫茶店メニュー」を多く揃えているのも、巧みな設計だ。ナポリタンやオムライスは、老若男女が好むストライクゾーンの広い料理。しかも、特別な食材を使わずにできるので、地元食材を採用しやすいからだ。
大久保氏「『エプロンマーク』が賑わうほど、直接的にも間接的にも街が豊かになっていく仕組みになっています」
実際、『エプロンマーク』設置後は、公園や美術館そのものへの来場者も顕著に増えるという。
まさに食での地方創生、まちの魅力づくりを実現させている。
こうした地方創生の取り組みは、千葉県佐倉市のユーカリが丘に『里山transit』というレストランを作ったことからはじまった。

里山transit 内観 写真提供|株式会社ミナデイン
ユーカリが丘は、民間デベロッパーである山万株式会社が1970年代からつくりあげたユニークなニュータウンだ。「分譲住宅を開発・建設して、売って終わる」のではなく、街の運営も山万が積極的に継続。その結果、子どもの数が増え続けることに成功した「奇跡のニュータウン」として知られている。
そんな街の魅力づくりのひとつとして、ミナデインが手がけた飲食店が『里山transit』。こちらは地元の農家の方々が野菜などを持ち込む、「持参地消」のレストランとして人気となり、地域の新しいコミュニティの場として機能した。
何より、「山万というデベロッパーとの共創によって、つくりあげた飲食店だったことが大きい」と大久保氏は言う。
大久保氏「飲食店経営に長らく携わってきて、その価値を日々感じると同時に“限界”を感じることもありました。たとえば外食を通してまちをよくしたい、人々の暮らしを豊かにしたい、と思っても、食だけでの実現は難しい。建物やインフラなどが不可欠です。違う業界の方々と共創する必要があるとずっと感じていた。そんな中で山万さんと『里山transit』を形にでき、実績を残せたことで、その後の公園や美術館につながる、地方自治体などとの共創が実現しやすくなった。お声がけもうんと増えましたから」

そもそも「ミナデイン」という社名は、ドラクエに出てくる強力な呪文の名前だ。それは単体では使えず、仲間全員の力をあわせて放つ強力な呪文で、同様に多くの異業種と力をあわせてより良き世界をつくりたいと考えて、社名にしたという。
大久保氏「少しずつ新橋と、日本各地で成果をあげてこられている。今後は世界にも出ていきたい。実はこっそり某国で実験店をはじめているんですよ」
次は世界で、ミナデインの呪文が轟く。
人と人をつなぎ、賑わいと憩いと誇りを、世界でつくるんだ。
取材・文/箱田高樹 写真/田巻海 編集/鶴本浩平(BAKERU)




