日本の国民食といっても過言ではない「カレー」。私たちが想像するカレーは、ご飯とルーが半分ずつ盛り付けられ、彩りも少なく、高カロリーで、どこかボーイッシュな料理だ。
その真逆を行くカレーが存在する。NEWPEACE Inc.の『6curry(シックスカレー)』だ。手で持ちやすいカップスタイル、彩り豊かな野菜、ヘルシーで女性ウケは抜群。カレーの常識を根底から覆した新感覚の商品は、瞬く間に話題となった。
2017年12月からゴーストレストランの形態をとり「Uber Eats専門店」としてスタートした6curryだが、2018年9月にはリアル店舗となる「6curryKITCHEN」をオープンした。なぜ開始してから1年もたたずにリアル店舗の展開に踏み切ったのか。その裏側を事業責任者である廣瀬彩氏に伺った。
「カレーを通して、面白いことを仕掛けたい」
ーー6curryが立ち上がった経緯について教えてください。
廣瀬:NEWPEACE代表の高木新平が、Facebookで「カレーが好きな人集まれ!」と投稿したのが全ての始まりです。それに反応した社内外のメンバーと、彼らの紹介で知り合った人たちでカレーに関する新しいプロジェクトを立ち上げることになりました。
ーー廣瀬さんも声をかけられた一人だったんですね。
廣瀬:当時、バックオフィスを担当していた私に、高木が「カレー好き?」と聞いてきて。あまり深く考えず「好きです」と答えたら、プロジェクトの一員になっていました(笑)。
ーーカレーへの愛は、あくまでも一般的だったと。
廣瀬:なかには趣味でスパイスからカレーを作る強者もいますが、6curryのメンバー全員が、熱心なカレー愛好家というわけではありません。カレーを通じて何か面白いことをしたいという想いで参加しているメンバーも多いです。
ーー6curryの看板メニューである「カップカレー」も、両者の思いが上手く融合して誕生したんですね。とてもユニークな商品ですが、どのように発想したのでしょうか?
廣瀬:いつでも、どこでも、“女性が楽しめるカレー”を作りたかったんです。「なぜ、カレーなのか?」とよく聞かれるのですが、この誰もが好きな食べ物が、長い間アップデートされていないことが6curryの生まれるきっかけとなりました。
当社は「20世紀をぶち壊す」をビジョンに掲げており、カレーの価値観が変化していないことを疑問に感じていたんです。一般的なカレーは炭水化物が多く含まれカロリーも高く、どこか男性的な食べ物である印象が強い。そのうえ大衆的なカレー専門店は、女性一人で入りづらい空気感がありますよね。
ーーラーメンや牛丼のような料理もそうですよね。
廣瀬:はい。私にとってカレー屋は、ラーメンや牛丼以上に、1人では入りにくい場所だったんです。そこで、「女性のためのカレーを作ろう」という意見が挙がりました。
女性メンバーや友人の意見を中心にして、自分たちが本当に欲しいカレーを追い求めた結果生まれたのが、カップカレーです。炭水化物を気にする女性のために白米は少なくし、野菜を最初に食べる構造にしたことで、血糖値の上昇を自然と抑えられるようにしました。スパイスから作るカレーは、小麦粉不使用。本格的なキーマカレーとなっています。
また、見た目でも喜んでもらえるように、パフェのような可愛い見た目になるようにこだわりました。写真を撮って、シェアしたくなるようなカレーにしたかったんです。私にとって、カップカレーは私のためのカレーであり、私の友人たちのためのカレーなんです。
始動した矢先、顧客から「リピートはない」と言われた
ーー最初の営業形態として、Uber Eats専門店を選択した理由は?
廣瀬:できるだけ早く、リスクの少ない形で、自分たちのアイデアを試したかったからです。リアル店舗を設けるとなれば、多くの費用と期間を要します。時間が空けば、アイデアの鮮度もメンバーの熱量も落ちてしまいますよね。
そこで、既存の飲食店のキッチンを間借りするゴーストレストランという形で、小さく始めることに決めました。プロジェクトの発足から、約半年で販売を開始しています。
ーーカップカレーを販売し始め、顧客の反応はどうでしたか?
廣瀬:嬉しいことに、一日に調理できる限界の個数まで毎日完売するなど、反応は好調でした。しかし、買っていただいた方から「リピートはないかな」と言われたことがあって。
ーー「買わない」と考えた、その理由は何だったのでしょう?
廣瀬:「予想通りの味がしたから」だそうです。そう言われて、納得したんです。当時のカップカレーには無難な野菜しか入っていませんでした。「みんなが嫌いではないもの」を軸に食材を選んだ結果、単調な味になってしまっていたと思います。クセになるような味を生み出さない限り、リピーターは増えません。すぐにカップカレーの改善を行いました。
ーーみんなに好かれるものを作ろうとした結果、無個性になってしまったんですね。具体的には、どんな改善を?
廣瀬:以前は緑色の野菜がきゅうりだけだったのですが、今では4種類も使っています。カレーのレシピは初期から3回変更していますし、ドレッシングもできるだけの工夫を凝らしました。繰り返し食べたくなるメニューを追求すること。それが大切なのだと、当たり前のことですが、ユーザーに直接ヒアリングをしていくなかで気付きましたね。
ーー改善し続けるなかで、嬉しかった顧客の反応はありましたか?
廣瀬:Instagramに写真をアップしてくださる方や、カップカレーを食べた際に「ずっと食べたかった」と投稿をしてくださる方もいました。それはすごく嬉しかったですね。
ーーその後は、順調だったのでしょうか?
廣瀬:Uber Eats専門店として始めて2ヶ月が経ったタイミングで、いろいろな課題に気づきました。食材保管スペースの不足、コンロ使用時間の制限……限られた場所と時間で商品を作る難しさを、身をもって知ったんです。
ーー場所と時間が限られることで、1日に作ることができる商品の数も制約されますよね。
廣瀬:おっしゃる通りです。自分たちの100%好きなようにはやれない、そこが間借りして営業することの難しさでした。また、Uber Eatsだけでは、届けられる範囲が限定的で、食べたいと言ってくださる方にお届けできないことも多かった。ただ、販売チャネルを増やしたくても、生産能力に限界があって増やせない。そこで、生産能力拡大のために、自分たちのセントラルキッチンを作ることを決めました。
そのタイミングでプロジェクト全体を見直し、「女性のためのカレー」という商品を起点としたコンセプトから、「みんなを混ぜる、みんなが混ざる」というプロジェクト起点のコンセプトに変更したことが、6curryKITCHENという新しいチャレンジにつながっています。
ーーコンセプトを変更したんですね。「混ぜる」とは?
廣瀬:人やアイディアが混ざることで、新しくて楽しいことが生まれるよね、いう意味です。たくさんの人が混ざることにより、自分たちだけでは思いつかなかったアイデアや食材が見つかり、きっと美味しいカレーができる。カレーはさまざまな人のアイデアや思い、食材を混ぜるのに最適な料理だと思うんですよ。
ーーと、いいますと?
廣瀬:カレーの定義には「複数のスパイスと一緒に煮込んだ料理」という説があるそうです。その定義でいけば、「麻婆豆腐もカレーなのでは」とマニアの間では物議を醸すこともある。そのくらいカレーは自由な料理なんですよね。何を入れても、何を混ぜてもいい。
ーーいろんな人のアイデアや思いや食材を混ぜるのに、カレーは最適な料理なんですね。
廣瀬:カレーを通じて人やアイデアを混ぜる。それが楽しいから、私たちはここまでやってこれました。ゆくゆくは世界中の人や料理まで混ぜたい。そんな思いをメンバー全員で改めて確認し、実現していくためにセントラルキッチンを開放することを決めたんです。
既存の枠に捉われず、新しいカレーの形を追い求め続ける6curry。プロジェクト誕生時の勢いをそのままにゴーストレストランを始め、顧客の意見をもとにいくつもの改善を施しながら、リアル店舗の展開に歩みを進めた。新たな基点を手にした今、6curryはどのような顧客体験を形作っていくのだろうか。続く後編では、その詳細を追っていく。