先日、ノートPCの買い替えを検討して、家電量販店に立ち寄ったときのことだ。
店員は非常に丁寧で、私の希望を聞いて、それに応じたオススメの商品や割引情報、各PCのスペックを説明してくれた。一方の私はと言えば、「ありがとうございます」とお礼をしたものの、少ししてから口コミサイトのレビューを見たり、友人に相談の連絡をしたりしていた。
店員に不満があったわけではもちろんない。しかし、何かを購入しようとして店頭を訪れるとき、スマートフォンを片手に持つことが増えてきた。SNS、口コミサイトの普及などによって、私たち消費者の意識や購買プロセスは少しずつ変化している。
こうした消費者の変化を捉えることは、サービスを提供する企業がCX(顧客体験)を検討する上でも欠かせない。アメリカン・エキスプレス・インターナショナルが、2017年6月に発表した調査には、大きく「日本人は、世界一『悪い顧客サービス』を受け入れない」と記されている。果たしてどのような意味なのだろうか。
過半数が「第三者の評価」基準に購入
同調査は、9つの市場で各1,000人ずつ、合計9,000人(18歳以上)の消費者を対象に、顧客サービスに対する意識や考え方をインターネットで聞き取り調査したもの。9つの市場には日本の他、米国、カナダ、メキシコ、イタリア、英国、インド、香港、シンガポールが含まれている。
まず紹介するのは、「新規の購入を決定するときの基準」だ。ここでは、6つの市場で「友人・家族の勧め」「セール・プロモーション」の割合が高くなっている中、日本では「企業の評判(35%)」を最重要視していた。
日本の第2位は「オンライン・ソーシャルメディアの口コミ(20%)」となっており、1位と合わせると55%になることから、過半数が第三者の評価や企業自体の評判を、購入時の基準にしていることが示されている。
また、「顧客であり続ける決め手となる重要な項目」という問いには、7市場において「コストパフォーマンスの高さ」が最も多く選ばれたのに対して、日本だけ「商品(48%)」を選んだ人の割合が最も高い。新規購入では間接的な口コミなどを基準にする一方、継続する際には商品そのものが高品質であることを重要視している人が多いのだ。
XDで以前紹介した「2019年の消費者トレンドTOP10」においても、同様の傾向が見受けられる。これまで消費者が購買を検討するときは、特定のブランドや情報源を頼りにしなければならなかった。しかし、現在はインフルエンサーやブロガーがあらゆるモノのレビューをしており、そうした情報をSNSや口コミサイトなどで見てから購買を決定できる。そのプロセスの中で、消費者自身の見る目も養われていくと予想できる。
日本人の感覚は、年々シビアになっている
2つ目は、顧客サービスそのものに関する意識だ。「顧客サービスへの企業の注力度」については、日本で「注力していると思う」と答えた消費者の割合は32%。他市場と比べて平均的な結果となっている。一方で、「気を配っていない」と回答したのは14%と最も低い。「悪い顧客サービス」とまでは思わないが、逆に「良い顧客サービス」とも思っていないという結果だ。消費者は企業が顧客サービスに注力することを「当たり前」と認識しているのかもしれない。
そのことを裏付けるように、顧客サービスに対する感想では、「期待を上回る(4%)」「期待通り(41%)」を合わせた割合が、日本のみ半数を割った。米国の81%など、他市場では少なくとも60%を超えた中で、日本は特に顧客サービスへの見方が厳しいことがうかがえる。
また、「何回までならひどい顧客サービスを我慢できるか」という質問に対しても、日本独特の結果が出た。「一度でもひどい顧客サービスを受けたら直ちに別の会社に替える」と回答したのが、他の8市場は30%前後だったことに対し、日本だけが56%となったのだ。
同調査では、2016年度の同じ質問に対する回答が48%で、今回はそれを上回っていることからも、「日本人の顧客サービス感覚は、よりシビアになっている」と記している。
トランスコスモスが2018年12月に発表した「消費者と企業のコミュニケーション実態調査」によると、商品やサービスに不満があったユーザーの43%は企業に直接不満を言わず、そのうち62%が口コミやSNS、ブログで不満体験を書き込んでいるという。
こうしたサイレントマジョリティの行動による影響は、企業にとって決して小さくない。万が一、悪い顧客サービスを提供してしまったときこそ、消費者の声を丁寧に分析し、改善するなどの取り組みを素早く行うことが必要になるだろう。
接客では「効率」よりも「礼儀正しさ」を求める
3つ目に紹介するのが、接客に関する内容だ。「顧客サービスを担当するプロの態度として最も重要だと思われるもの」という問いに対して、日本のみ「礼儀正しい(28%)」が最も多く選ばれた。
パーソナルな態度で顧客に接する「人間的であること(22%)」や、「相談相手として頼りになる(20%)」の割合が他市場と比べて高いのも特徴といえる。他7市場では、質問や取引への素早い対応を指す「効率を重んじる」が最も多く選ばれた。
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授の野﨑俊一氏は、今回の調査全体を通して、以下のようにコメントしている。
「サービス提供もしくは商品購入後に、顧客の経験は口コミをはじめSNSを含めたコミュニケーションツールを通じて良い体験・悪い体験が発信されている。購入後の利用経験についての研究・分析は研究者・実務家において今後の検討課題であり、SNSはじめ今後出てくるであろう新技術の運用方法も含め、慎重を期す必要があるのではないだろうか。
顧客の利用経験目線を十分に検討した上で、デジタル技術に代替できることと人間が対応するべき領域について、各国の国民性を考慮しながら対応することが必要不可欠である」
同調査では、これまで挙げた内容以外にも「顧客サービスで改善してほしい項目」「顧客サービスを受ける際に待てる時間」などが紹介されている。約2年前の調査だが、企業がCXに関する取り組みを検討する際の注意点として、今なおその価値を失っていないように思われる。
img:Unsplash,アメリカン・エキスプレス・インターナショナル