「最近、家のスマートホーム化を進めてるんだよね〜」
とある友人が食事しながら話していた。どうやら次は、“アプリで玄関の鍵を解錠できるスマートキー”を導入するらしい。
自分の家だけでは飽き足らず、その友人は「今度設定してあげるから、スマートスピーカーと家電を連携させようよ!」と、私の家のスマートホーム化を提案してくれた。スマートスピーカーに話しかけるだけで、電気をつけたり、カーテンを開けたりできるそうだ。
ほかにも、外出先からエアコンを操作できるようにもすることも可能らしい。
「じゃあお会計しましょうか」
そう言って、私とスマートホームに凝っている友人はLINE Payで割り勘をし、UberとDiDiでタクシーを呼んでそれぞれの帰路についた。
その日は、私はベッドの上で自分の家族のことを思い出した。
この前久しぶりに実家に帰った時、お風呂上がりの私の母がスタンプの買い方を教えてくれと言ってきた。父にはGoogle ドキュメントの共同編集機能を教えた。妹はMacのPagesでのレポート資料の作り方を聞いてきた。実家の本棚には出前用のチラシをまとめたファイルがまだあった。
私は実家で、久しぶりにスマホよりもTVの画面を長く見る時間を過ごした。
私たちの生活の一部となるインターネットサービス
少し前までインターネットサービスといえば、ゲームであり、コミュニケーションツールであり、カメラであった。
インターネットで大きく利益をあげている会社といえばゲームを作っている会社、というイメージがあったのが数年前。さらに、ここ数年、新しいマーケティング手法として、SNSの使い方は注目され続けて、多くのSNSマーケターが生まれた。自撮りは大流行し、若者の写真はすべて目が大きく加工されたものになった。
だけどこれらはすべて「娯楽」に近い領域ではなかっただろうか。
2019年。
インターネットサービスはどんどんリアルに融け込み、日常生活にかかせないものになっている。
例えば、NetflixやAmazon Prime VideoやAbemaTVはわたしたちのテレビになった。スマートホームによって、家電もインターネットサービスの領域になった。そして、決済サービスや金融サービスによって、インターネットサービスは、わたしたちの財布にもなろうとしているのだ。
もうインターネットサービスは、使う使わないの選択肢があることは変わらないものの、「限られた人だけがやっているモノ」から、はみだした領域にチャレンジしようとしている。
現代のモノづくりに必要な視野の広さとユーザーを見極める力
そして、そんなときに思い返すのが、実家の父や母や妹であり、インターネットサービスに興味が薄い友人たちである。
インターネットサービスの進化はものすごいスピードで進む。これからも、家電や金融サービスの領域をはじめとしてどんどんインターネットサービスが世の中を便利にしていくだろう。まだ、地方のおばあちゃんはスマホを買ったばかりなのに。
インターネットサービスがリアル世界で浸透していけばいくほど、リテラシーの有無によって生活は二極化していくように思う。ついていけない人たちは、ずっとついていけないまま、どんどんインターネットサービスの外の世界で生きていってしまうのではないかと思う。
もちろん、世の中が便利になっていくのはありがたいし、私はそういう世界が大好きだし、煩雑なやり取りや手続きや、よくわからないものに料金を払うのは大嫌いだ。ここで言いたいのは、インターネットサービスが「ターゲット」とする人たちがどんどん広がっていることである。そして、作り手が、その振り幅の広さを理解していかなければならないということである。
オフラインもオンラインも関係ない世界で、体験を設計するならば、自分たちの視界の外にも目を向けることが必要になるだろう。インターネット大好きな人も、スマホを触ったばっかりの人も、インターネットサービスを触る世界が今やってこようとしている。
私たちが何かをオンラインで発信する時、それらの受け手はどんどん広がっている。だからこそ私たちはより一層、視界の外の世界を覗き込み、視界の外の世界の人と協力して、モノづくりを進めていかなければならない。
これまでよりももっと、幅広いユーザー層の中から自分たちだけのお客様を見つけ出しながら、ユーザーの幅広さを考慮して、精緻にその体験を設計していかなければならないのである。