「Internet of Everything」なんて言葉が生まれているように、現代ではあらゆるものがインターネットで繋がっていく、と言われている。
「モノのインターネット=IoT(Internet of Things)」の普及には、私たちの生活を大きく変えていく可能性がある。5Gという新たな通信システムの運用が始まることも相まって、期待は高まるばかりだ。
総務省の発表によれば、世界のIoTデバイスの数量は2017年時点で274.9億台だった。これが2020年には403億台まで増えるとされている。
これまで、IoTとしてイメージされやすいのは機械である車や電化製品だった。だが最近になり、日用消耗品の領域にもその活用が見られるようになってきている。
IoTの時代には、生活者と商品の間に、これまでになかった関係性が生まれる可能性がある。今回はライオン株式会社のプロダクトを考察しながら、両者の新たな接点について考察したい。
消費財に“つけて”使うIoTデバイス
消費財を使っていてよく起こるのが、買い忘れだ。「在庫があると思っていた」「気づいたら無くなってしまっていた」など、誰しも経験があることだろう。IoTの活用により、こうした買い忘れによるストレスがなくなるかもしれない。
歯ブラシなど日常で使用する消費財を生産しているメーカーのライオンは、2018年の10月に「Push Connection」、2019年1月に「スマートハレタ」というデバイスを続けて発表している。どちらも、“使っているうちに無くなるもの”の計測をする機能が備わっている。
ハンドソープのプッシュ量を計測「Push Connection」
Push Connectionは、『キレイキレイ薬用泡ハンドソープ』のボトルに装着して使用する。ポンプのプッシュ回数、プッシュ時刻をデータ化し、専用アプリと連動させることでボトルの残量を計測。空になる前に、自動的に詰め替え用のハンドソープが発注される仕組みだ。
ハンドソープが無くなるタイミングは一定ではない。冬のシーズンであれば、風邪の予防もあいまってプッシュ回数は多くなるだろう。使用頻度が一定でない商品を定期購入にすると、早く届いて余ってしまったり、届くまでに無くなる可能性もある。
こうした消費財の購買体験を改善するために、ハンドソープのボトルに導入されたのがIoTだ。リアルタイムに残量を把握し、顧客の体験を向上させることがサービスの目的である。
同デバイスにはこの『Delivery』という機能に加えてもう一つ、遠隔通知の仕組み『Call』も備わっている。プッシュとアプリが連動して、自動で音声メッセージを届けられるという。家族のコミュニケーションの一つとして、親子での帰宅時の会話などが想定されている。
洗剤の残量をお知らせ「スマートハレタ」
同様に、洗濯洗剤の残量を計測するアイテムがスマートハレタだ。
設置したIoTデバイスが、洗濯洗剤『トップ ハレタ』の残量を自動的に計測。一定量を切ると専用アプリに通知がくるので、ストックの買い忘れを防ぐことができる。
スマートハレタは、自宅エリアの天気予報とリアルタイムで連動している。洗濯の時にボトルを持ち上げると「外干し」か「部屋干し(降水確率10%以上)」かを判断し、アイコン・光・音声で知らせることができるという。
「毎日のお洗たくをちょっと ハッピーに!」というコンセプトで、親子でも楽しめるようにデザインされている。また、今後は季節に応じた洗濯の豆知識などをアプリで届けるとのことだ。
この2つの商品には、家族のコミュニケーションの誘発やちょっとした楽しさを届けようとしている点と、消費財の残量を伝えようとしている点の2つが共通の特徴としてある。ここでは、後者について考察を進めたい。
消費財を選ぶ負担、記憶する負担を減らす
そもそも、こうした消費財は、一定期間で補充が必要となるものだ。普段から意識せずに使い続けている反面、いざ無くなるとたちまち困ってしまう。IoTを導入することで、定期的にストックを確認する心配がないことだけでも、生活者はずいぶんストレスを軽減させられるに違いない。
選択の必要が無くなることも顧客にとっては利点となる。近年、インターネットの普及によって情報過多となり、「選ばない買物」のニーズが高まっている。2017年の博報堂の調査にある「任せたい・面倒な買物」の中には、実際に洗剤やボディ・ヘアケア商品などの消費財が含まれていた。
スーパーやドラッグストアに行けば、常に多くの商品が視界に入る。買うものがおおよそ決まっていたとしても、新商品や安売りの品があれば迷うこともあるだろう。その体験は、生活者に新たな出会いをもたらす場合もあるだろうが、出会いを求めない顧客にはストレスにしかならない。
ライオンの2つのIoTサービスには、こうした顧客の負担を軽減させる要素もある。顧客が「ありがたいな」と実感できれば、サービス利用を継続してくれる可能性は十分にあるだろう。
点から線へ。顧客との“無くならない”関係性づくり
これまでメーカーと顧客の関係は、必要が生じるたびに店頭でその都度選んで買ってもらうものだった。顧客に認知してもらうために広告にお金をかけ、店頭で目立つ位置に設置しなければならなかった。
IoT機能によって、顧客に同じ商品の継続購入を後押しするライオンの挑戦は、点になってしまっていたメーカーと顧客との関係を、線にしていこうというものだ。
「残量の計測」からの「リマインド」は、他でも起き始めている。例えばAmazonは、交換時期に消費財を自動発送する「Amazon Dash Replenishment」を昨年12月から開始している。アイテム数の拡大も、今後予想に難くない。
だが、これらの技術が生む顧客との関係は、強い結びつきでないことは留意しておきたい。機能的価値の訴求であれば、様々な商品を購入可能なAmazonのような大手プラットフォームが有利となる。
そうした状況になったとき、メーカーにとって「生活者により深い体験を届けられるか」が、選んでもらうための重要なポイントになるかもしれない。
ライオンが開発したデバイスにある、音声でのコミュニケーションも、情報アプリや子どもも楽しめるインターフェースも、その足掛かりになる可能性はある。だが、どちらも顧客の生活に溶け込んだものになるかは、これからだろう。
IoTによる“無くならない”がきっかけとなり、メーカーには顧客との接点が増えた。新しくつくられるその関係は、ようやく次の可能性が見え始めたばかりだ。
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