誰かに贈り物をする際に、ちょうどいいものが市販されているもので見つからない時、「じゃぁ、自分で作ろう」と考える人はどのぐらいいるだろうか。あらゆる完成品が販売されている便利な世の中なゆえに、自分で作るという発想自体が浮かばない人は多いのではないか。
パナソニックで先行開発に特化して活動するデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」は、“大切な誰かへ届けたいみんなのモノづくり”を応戦するプロジェクト「D+IO(ドゥーイングアイオー)」を2020年6月にスタートした。
市販のパーツを組み合わせて作る“大切な誰かへ届けたいプロダクト”
「D+IO」は、市販の電子部品や身の回りにある素材を使って、「大切な誰かへ届けたいプロダクト」を作るためのレシピを公開するプロジェクト。使用する部品リストやその購入先、配線図、組み立て手順、使い方などをまとめた情報を、ソースコード開発・共有サービスである「GitHub(ギットハブ)」に公開するもの。GitHubに公開する理由は「ユーザー自身にレシピを修正したり、アップグレードしていって欲しい」という意図が込められている。
部品に関してはすべて市販されているもので構成されているため、好きな店舗で入手して組み立てることができるようにした。
プロジェクトが生まれたきっかけは、コロナ禍においてマスクの品不足により購入しづらい状況が生まれた際に、手作りのマスクを周りの人に作りプレゼントする動きが見られたことだったという。プロジェクトリーダーでパナソニック イノベーション推進部門 デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORYに所属する川島氏は以下のように語る。
「DIYは“Doing It Yourself”の略語ですが、自分のために自分で作るのがメインだったと思います。アフターコロナの時代においては、大切な人のために自分たちで作るといった活動にシフトしていくのではないかと考えたんです」
自分のためではなく、誰かのために作る。今後もこの動きが重要になると考え、プロジェクトはスタートした。公開するレシピは以下の3つの基準を掲げた。
1.誰かに作って欲しいと思えるようなもの 2.カスタマイズやアップデートしたくなるもの 3.これまで製品化されてこなかったようなニッチな領域
市販されているデバイスでは拾いにくいニーズをカーバーしていくような、そんなレシピを目指したものだ。簡単に作ってもらえるような配慮として、かなり細かく解説した作り方を公開しているほか、動画でも公開している。
“市販にはない”小動物の体調を管理するためのデバイス
第1弾として6月にレシピを公開したのが、「CO2換気アラートデバイス」だ。室内のCO2濃度を計測し、一定の二酸化炭素濃度を超えると音と光でアラートを出し、換気を促すデバイス。
コロナ禍において、3密(密集、密閉、密接)を避けることが求められる中、CO2濃度が換気をするタイミングの指針になるのではと考えたものだ。
ボディに関しては、トイレットペーパーの芯に合わせた4パターンのデザインテンプレートも用意した。
第2弾として公開したのは「小動物ヘルスケアデバイス」。自宅で過ごす時間が長くなったことによりペットを飼う人が増えており、中でも飼育のしやすさからハムスターや小鳥が人気だという。
ただ、犬や猫に比べて、ヘルスケアデバイスが市販されていないだけでなく、体調の変化にも気づきにくい面があることから、ニッチな領域に挑戦した形となる。
「みんなのための“みんな”が意味する幅って捉え方によっては広い、というところを伝えたかったんです。子どもやおじいちゃんでもいいし、人間じゃなくてペットでもいい、というところを捉えて欲しかったので、あえて小動物にフォーカスしました。」(川島氏)
「小動物ヘルスケアデバイス」では、活動量を図るために、活動時間の計測や回し車の回転数の計測、特定のエリアの出入りの計測できるほか、体重の計測、温度や湿度の計測など、様々なセンサーを使った計測ができるが、これらのアイデアをもとに「自分ならこれも欲しい」といったアイデアが広がっていくことが期待している。
妥協がないジャストフィットを
モノづくりの良さについて川島氏はこのように語る。
「もともとDIYが好きで、棚とかテーブルとか作ったりしているんですが、自作する良さって、ジャストフィットで作れることなんですよね。自分で思った通りに作れる。
でも、市販のデバイスってジャストフィットではなくて、ちょっと妥協している部分があったりしますよね。デバイスに関しても自分の思った通りのライフスタイルにジャストフィットしたものを手作りだったら作れると思っていて、それがモノづくりの良さだと思います」
パナソニックからパッケージとして販売する選択肢もあったと思うが、あえて市販されたパーツで組み立てられるようにしたのはどのような背景からなのだろうか。
「便利な世の中になったので、買えば済むよねっていう思考になっていると思うんですよね。でも、こういうデバイスを作るにしても、テクノロジーが発展したおかげで簡単に作れるキットが結構揃ってきているので、簡単に作れるようになっているということも知ってもらいたくて提案している面もあります。
事業として成り立つかどうかは全く考えていなくて、どちらかというと公益性。モノづくりの企業としての役目として考えています。また、新規事業の種づくりという側面もあります。ユーザーからの反応が良ければ、新規事業として考えていくこともありますし、このプロジェクトを通して得たユーザーからの声を、新しい事業につなげていければと考えています」(川島氏)
今後の展開については、「今後もレシピを順次公開する予定です。次の展開としては、おじいちゃんやおばあちゃん、子どもにあげるようなものを考えています。合わせる対象はいろいろあるので、その対象を広げていきたいですね。
このプロジェクトを通じて、自分の手で、自分の環境・身の回りの環境を豊かにできるような、そんな文化のある社会になっていったらいいなと考えています。最終的には、人間の創造力・作る力の向上に貢献できれば良いいですね。」(川島氏)と締めくくった。
あらゆるものが製品化された世の中だから、ある意味個々が作りだす創造性は失われていってしまっている側面があるのかもしれない。
パナソニックが仕掛けたこのプロジェクトによって、創造性が喚起され、様々な芽が生まれていくことに期待したい。