小売業者は、オンラインと店頭両方において顧客体験(CX)を向上させるための莫大な投資をしているにも関わらず、変化する顧客の期待に応えられず、大きな壁を生み出している――。
Oracle NetSuiteが2019年1月に発表した調査結果には、このような内容が記されている。
同調査は、アメリカとイギリス、オーストラリアの3カ国で、1,200人の消費者と400人の小売業者幹部に「購買体験とテクノロジーの関係性」を聞いたものだ。調査会社のWakefield Researchと小売業専門のコンサルティング会社であるRetail Doctorと共同で実施された。
テクノロジーを活用した購買体験を消費者はどう捉えているのか? 調査結果を紹介していく。
オンラインでのパーソナライズに約半数が否定的な感情
同調査で紹介されている主なテクノロジーのトピックは、「ソーシャルメディア(SNS)」「チャットボット」「パーソナライゼーション」「AI・VR」の4つだ。それぞれのテクノロジーはどのように購買体験に影響を与えているのだろうか?以下に、それぞれの概要を記す。
ソーシャルメディア:98%の小売業者幹部は、SNSで消費者と交流することが、より強い関係を築くために重要と考えている。しかし、SNSがブランドに対する考え方や感じ方に大きな影響を与えると思っているのは、消費者の12%に過ぎないことが分かったという。
チャットボット:小売業者幹部の79%はチャットボットが消費者のニーズを満たしていると考えている。一方で、消費者の66%はチャットボットが購買体験の邪魔をすると回答した。
AI・VR:小売業者幹部の79%が、店舗でAIやVRを使用すると売上が増加すると考えている。しかし、テクノロジーが購入決定に大きな影響を与えると信じる消費者は14%。来店数の変化についても、消費者の48%が店を訪れる可能性にAIやVRが影響すると考えていないという。
パーソナライゼーション:消費者の80%は、店舗内でもオンラインでも、パーソナライズされた購買体験を自分が受けているとは感じていない。また、58%はパーソナライゼーションをするために店舗がテクノロジーを活用することに不快感を感じるとともに、45%がオンラインでパーソナライズされた提案を受けた際に否定的な感情を抱いたと答えているという。
最近では、ロボットを活用して接客を行ったり、AIやVRを活用した新しい購買体験を提案する事例が増え始めている。こうしたテクノロジーを活用することで、人件費の削減や行動データの蓄積によるパーソナライゼーションといった多くの効果が考えられる。
一方で、こうしたメリットは事業者側の視点が多く、CXという視点で見たときに、どれほどユーザーの利便性が向上するか、日常生活に溶け込むのかというと疑問に感じることがあるのも確かだ。
ユーザーの利便性が向上する一つの手段として、蓄積したデータをもとに適切な商品をレコメンドしてくれるようになると良いかもしれない。しかし、現状のパーソナライゼーションは、半数近くが否定的な感情を抱いているように、まだ精度が高いとは言えない。検索したWebサイトがターゲティング広告として頻繁に表示され、煩わしい思いをしたことがある人も多いのではないだろうか。こうした広告を表示しないようにする「アドブロック」も話題となるなど、テクノロジーとしてパーソナライゼーションは可能だが、良い体験となっていなかった。
このようにテクノロジーを活用することはあくまで手段であり、その発達が著しいからこそ、あらためて消費者のニーズと丁寧に向き合い、サービス設計を行う必要があるだろう*)。
*)関連記事:人の心はテクノロジーでどう動く? 実践者らがアドテックで語った消費者心理の現在地
ほぼすべての回答者が、リアル店舗を大事にしている
では、現代の消費者は一体どのようなニーズを抱えているのだろうか。同調査によると、消費者の97%が商品を購入するために店舗へ実際に足を運ぶ重要性を今も感じている。その70%は「購買体験をシンプルにし、効率化している」店舗を魅力的だと捉えているという。
そのために必要な要素として、最も割合が多かったのは「Webサイト」で36%、次に「シンプルな店舗レイアウト」が35%、「モバイル端末での注文が可能」が29%、「店舗で入手できない商品を購入できる店舗内キオスク」が23%となっていた。
また、パーソナライゼーションについても興味深い結果が出た。
前述したようにオンラインでパーソナライズされた提案を受けると、回答者の半数近くが否定的な感情を感じると答えたのに対して、ミレニアル世代の63%が「その精度向上に向けて、より多くのお金を払っても構わない」と回答しているのだ。
The Retail DoctorのCEOであるBob Phibbs氏は、リリース上で「ほぼ全ての回答者がオンラインではなく、リアル店舗を大事にしていると答えたことも踏まえ、今こそ店内でのインタラクションを築き、顧客が再訪するようにするべきだ。世間的にそのイメージはないかもしれないが、ミレニアル世代は実際、店員に助けてほしいと思っているのだから」と語った。