忙しい人に代わって、飲食店の予約をしてくれるサービス「ペコッター」。行きたいお店の名前を検索し、チャットで予約依頼をすれば、お店へ電話をしてくれる。
前編では、サービスの大きな特徴であるマスコットキャラクター「はらぺこ君」がどのように生まれたかを紹介してきた。
ペコッターは、愛されるサービスへと成長するために、どのような体験を提供しているのか。後編では、日々提供しているサービス体験について迫った。
“フライング気味にサポートする”ペコッターの体験
「楽しんできてぺこなー♪」
ペコッターで予約すると、はらぺこ君からこんなテキストが送られてくる。語尾に「ぺこ」をつける可愛らしい話し方が特徴で、ユーザーとのコミュニケーション全てにおいて活用されている。やはり、ペコッターの価値の源は、はらぺこ君の可愛らしさなのだろうか。
「キャラクターがカワイイだけでは、ユーザーに利用してもらうことはできません。ペコッターに必要なのは、サービスの細かい部分にユーザーの期待を上回る体験を創出することです」と、ペコッターを運営する株式会社ブライトテーブルCEOの松下勇作氏は語る。
オンライン予約ができる大手グルメサイトもある中、ユーザーにペコッターを選んでもらうためにはどうするべきか。松下氏が考えたのは、はらぺこ君の存在だけではなく、ユーザーに“驚くほどの満足”を届けることだった。
松下「ペコッターは“フライング気味にサポートする”という考え方を大事にしています。ユーザーのニーズに対して、とにかく早く対応し、まずは満足してもらうためのサービス提供を心がけてきました。
たとえば、ペコッターではユーザーから予約依頼があった時に名前や電話番号といった情報がなくても、依頼が来た瞬間にお店へ予約の電話をかけていたんです。そして数分後にはユーザーに予約したことを伝えてから、名前と電話番号を聞いていましたね。
一般的なサービスであれば、ユーザーの個人認証を行い、名前や電話番号などの個人情報を入力してユーザー登録するのが先。しかし、それではユーザーの負担が大きくなりますし、いきなりペコッターのような新しいサービスに個人情報を提供しようと思わないですよね。
それでは、大手サービスに負けてしまう。だから、ペコッターがとった生存戦略は、“フライング気味にサポートする”ことになったんです。」
Twitterでのソーシャルリスニングも前のめりに
ユーザーのニーズに対して、前のめりにサポートしようというサービス提供の姿勢は、サービス改善にも活用されている。
同社では、Webサービス連携ツール「IFTTT(イフト)」を活用して、TwitterとSlackを連携。Twitterで「ペコッター」や「はらぺこ君」などのキーワードを含んだツイートが投稿されると、Slackへ通知が届くようにしているという。
投稿されたツイートにバグの報告があると、その内容をSlackで即座に把握し、Twitterでは「直すぺこー」と返信を行う。そして、数時間後には修正を完了し、報告まで行うのだ。
松下「Twitterには、アプリの中のはらぺこ君には言えない不満も出てくるので、ユーザーのインサイトとして捉えてサービス改善に役立ています。一つひとつのツイートに対応するのは、そのユーザーを救うだけでなく、投稿を見た全てのユーザーに対して、“ペコッターが手厚いサポートをしている”ことを認知してもらえることにつながると考えています。」
ペコッターの手厚いサポートの裏には、一人ひとりのユーザーと真摯に向き合いたいという気持ちがある。この思いを象徴するようなエピソードがある。
ユーザーにはらぺこ君のステッカーをプレゼントするときのことだ。IT企業であれば膨大な数を処理するため自動化を考えるのが普通だ。しかし、ペコッターは全ての宛て名を手書きで記入し、一部のユーザーには手紙を添えた。そのぶん、人件費はかかるが、「サービスの世界感を統一するためにも、心をこめて送りたい」と、一つ一つ手作業で行った。
「中身はもちろん嬉しかったんだけど、宛名はまさかの手書き。IT系なのにアナログな手法のギャップにやられました。これからも使います!」
「家に帰ってきたら、はらぺこ君からお手紙とステッカーが届いていました! ペコッター最高! はらぺこ君かわいい」
ステッカーを受け取ったユーザーは、SNSを通じて喜びの声を続々と投稿していた。ユーザーと丁寧に向き合いたいという気持ちが、しっかりと伝わっている証拠であり、ユーザーがペコッターというサービスで期待することに120%で応えた結果ではないだろうか。
世界観を統一するために必要な、たった一つのマインドセット
サービスの世界観を構築する上で、スタッフの意識を統一することも必要不可欠だ。誰かがサービスにふさわしくない行動をするだけでも世界観は崩れてしまう。そうならないよう、ブライトテーブルではスタッフに何を伝えているのだろうか。
松下「一番大事にしているのは、“正直であること”です。採用面接でも、正直な人かどうか、嘘をつかない人かどうかという点を重点的に見るようにしています。
なぜかというと、ペコッターはお店の予約を人力でしているので、必ずどこかでミスが起こってしまうんですよね。ペコッターの場合は、お店側のミスであることも多いのですが、どちらにせよユーザーにとってはミスはミスなんです。
そこでミスを隠したり嘘をついてしまうと、たとえお店の落ち度だったとしても、ユーザーの信頼を失うことにつながってしまいます。“正直であること、嘘をつかないということ”は、ペコッターに関わる人の土台としてなければならない点だと思っています。」
サービス提供者のマインドセットは、会社の日常風景から醸成される。たとえば、スタッフの一人が遅刻したときに、理由を「寝坊」と正直に明かした際、松下氏は「私が代わりに対応するから、二度寝をしてきてください」と伝えたという。
松下「寝坊するということは、疲れが溜まっている可能性があります。だから私は、“二度寝を提案する”ことが正しい問題解決だと思ったんです。仮に『電車が遅れました』と嘘をつかれた場合、『ある程度の遅延があることを考えて、早く出社してください』という指示を出さなければいけません。しかし、それでは疲れているスタッフを余計に疲弊させてしまいますよね。正しく問題を報告してくれることが、会社の改善にも直結していくんです。」
「正直に答えてもらうことが、正しい問題解決につながっていく」ーーそう松下氏は語る。
“正直者でいる”という芯の通ったマインドがスタッフに共通しているからこそ、ペコッターの世界観は揺るがないものになり、サービスの改善が進んでいるのかもしれない。
「探す・決める・予約する」のすべてをペコッターで
Q&Aサービスという形から、予約代行としてアプリをリニューアルしてから、約半年がたつ。ペコッターは、今度どう展開していくのだろうか。
松下「今後は、お店を探すサポートまで行いたいと考えています。ユーザーの属性情報や予約履歴のデータが蓄積されたため、それに基づいたレコメンドサービスを提供していきたい。その第一歩として、2018年7月にはLINE@で同機能を実装しました。たとえば『渋谷 和食 接待 5,000円』といった言葉を入力すると、条件に見合ったお店を伝えます。お店を『探す』『決める』『予約する』という、全てのフローをカバーするのが狙いですね。」
ペコッターは、7月26日にレストランでのマッチングアプリ「Dine」と連携し、ユーザー向けにデートの自動予約サービスの提供を開始している。こうした連携も含めると、ペコッターが価値を発揮できる場面は多くなっていくだろう。
松下「長期的な目標としては、グルメへの感度が高いユーザーが、自分の持つグルメ知識でマネタイズができるプラットフォーム作りも進めていきたい。一人のユーザーが作成したグルメリストを、他のユーザーが購入できるといったイメージですね。」
ユーザーの気持ちの一歩先を読む対応、労力を惜しまない丁寧な仕事、嘘をつかないという真っ直ぐな姿勢。“驚くほどの満足”を届けるために、ペコッターは躍進し続ける――。
撮影/加藤甫